2022年度に経常黒字を確保したIGRいわて銀河鉄道のIGR7000系電車。車体には岩手の夜空をイメージしたスターライトブルーと、星の輝きを表すスターライトイエローの帯が入ります(写真:IGRいわて銀河鉄道

今回は毎夏、地方鉄道の定点観測の形で取り上げる第三セクター鉄道の近況についてご報告します。全国の三セク鉄道が加盟する第三セクター鉄道等協議会(三セク協)は、2022年度の会員各社の輸送実績(利用客数)と経営成績(決算)をまとめました。

会員40社のほとんどが地方鉄道という加盟社は、2020年度からの新型コロナ禍で大打撃を受けまたが、事態が収束に動いた2022年度は、多くの鉄道で輸送実績が前年を上回りました。経営成績は、経常黒字を確保したのは2社にとどまったものの、赤字決算38社も29社が損失額を減らし、ようやくトンネルの出口が見え始めました。本コラムは三セク鉄道の現在地を中心に、国レベルでの地方鉄道再生の考え方を探りました。

国鉄改革で多くの三セク鉄道が誕生

今回、初めてご覧いただく方もいらっしゃると思うので、最初に三セク鉄道の略史を。

国や自治体の公的セクターと、民間の共同出資で設立されたのが第三セクター。その点では、公的資本が入る東京メトロ北大阪急行も広義の三セク鉄道といえます。しかし、一般に三セク鉄道といわれるのは、国鉄の特定地方交通線を引き継いだ半官半民の地方鉄道です。

1987年の国鉄改革では、「民間企業のJRグループは、利用客が極端に少ない線区は運営できません」のスキームが法制化され、JRが継承する線区が線引きされました。JRに引き継がれなかった線区は、鉄道としての存続か、あるいはバス転換かなどの判断が地元にゆだねられました。

この時、鉄道存続を選択した線区は、自治体と民間が設立した三セク鉄道が運行を継続しました。代表例は、群馬・栃木県わたらせ渓谷鐵道(旧足尾線)、千葉県いすみ鉄道(旧木原線)、鳥取県若桜鉄道(旧若桜線)などです。

いすみ鉄道に2012年導入された、いすみ300形気動車は、いかにも地方鉄道らしいコンパクトさが感じられる車両です(筆者撮影)

もう一つの三セク鉄道は、国鉄新線として着工されながら国鉄の経営悪化で工事が中断された線区。これには新潟県北越急行高知県土佐くろしお鉄道などがあり、新しく立ち上がった三セク鉄道が建設を引き継いで開業させています。

国鉄から経営を引き継いだ三セクは、既設線と建設線をあわせて全国32社あります。当初は33社でしたが、後述する北近畿タンゴ鉄道平成27年度に第3種鉄道事業者に転換。例として挙げたわたらせ渓谷鉄道など、一時的にJRが経営を引き継いでから三セク転換するケースもあります。

整備新幹線開業で経営分離された並行在来線も

一方、整備新幹線の開業で、JRから経営分離された在来線の経営を引き継いだのは、北海道道南いさりび鉄道岩手県IGRいわて銀河鉄道長野県しなの鉄道新潟県えちごトキめき鉄道富山県あいの風とやま鉄道石川県IRいしかわ鉄道、熊本・鹿児島県肥薩おれんじ鉄道の7社。

ほかに青森県青い森鉄道がありますが、同社は三セク協ではなく日本民営鉄道協会に加盟するため、除外して考えます。

39社合わせても東京メトロの13.5日分

会員39社を合計した、2022年度の年間輸送人員は8030万人(1000人単位で四捨五入)。2021年度は7452万人で、実数で578万人、率で7.8%増加しました。

三セク協会員が40社あるのに、輸送実績が39社なのは京都府兵庫県北近畿タンゴ鉄道の特殊事情。タンゴ鉄道は経営の上下分離で、列車運行をWILLER TRAINS京都丹後鉄道)に移管したため輸送実績はありません。

8030万人の輸送人員といわれても何かピンときませんが、参考にしたいのが東京メトロの輸送実績。メトロの2022年度輸送人員は21億7191万人(定期と定期外の合計)。1日平均で595万人で、三セク39社の1年分=メトロの13.5日分というのがいつわらざる現実です。

「一部列車に増結して3両編成に」(あいの風とやま鉄道)

39社のうち、輸送人員がもっとも伸びたのはあいの風とやま鉄道。2022年度の利用客数1374万人は、前年度に比べ9.4%増。通勤2.0%増、通学3.5%増に対し、定期外が37.5%増と大きく増えたのがポイントで、全国旅行支援や行動制限の緩和などが影響しているものと見られます。

地元での決算発表では、輸送力強化に向け、現在2両編成の一部列車を3両編成に増結する方針が示されたそうです。

とやま鉄道に肩を並べたのが、都市鉄道の性格も持つ愛知県愛知環状鉄道。2022年度の輸送人員は1486万人で、前年度比8.7%増でした。

40社合計の決算は126億円の経常赤字

次は決算。タンゴ鉄道を加えた、会員40社全体の経常赤字額(鉄道事業に助成金などを加えた数字)は141億1800万円(10万円以下切り捨て)で、2021年度の126億4100万円に比べ14億7700万円悪化しました。

全体輸送量が増えたのに決算が悪化したのは、一部鉄道が災害復旧費を計上したため。電気代や燃油費といった、動力費の高騰も経営を圧迫します。

2016年の熊本地震で被災、2023年7月に約7年3ヵ月ぷりで全線運転再開した熊本県南阿蘇鉄道では、1988年の開業時に導入したMT-2000A形気動車が今も健在です(写真:南阿蘇鉄道

2022年度に経常黒字を確保したのは、IGRいわて銀河鉄道IRいしかわ鉄道の2社。両社ともに2021年度は経常赤字で、銀河鉄道は運行支援交付金などが増加したのが経営改善の主な理由。いしかわ鉄道は、輸送人員が8.7%増加しました。

その一方で、2021年度に黒字だった福岡県平成筑豊鉄道は、2022年度は再び赤字を計上。三セク鉄道全体として、経営環境が厳しいことに変わりません。

「経営の上下分離」は6社で実践

最後に、国は三セクや地方中小鉄道の今後をどう考えるのか。国土交通省によると、三セク鉄道と地方中小私鉄を合わせた地域鉄道95社のうち、赤字企業の割合は2019年度77.9%、2021年度95.8%で、コロナ禍のダメージが反映されます。

政府は、2023年を「地域公共交通再構築元年」と位置づけ、必要な支援を実施する方針です。具体的には、地域公共交通活性化・再生法(通称)など関連法を改正。国が地方鉄道の再生を主導します。

実効策の柱が、運行や営業を鉄道事業者が現状のまま受け持ち、施設の保有や管理を自治体などが行う「経営の上下分離」。事業者の負担軽減が狙いで、三セク協加盟社では三陸鉄道岩手県)、若桜鉄道信楽高原鐡道滋賀県)、北近畿タンゴ鉄道山形鉄道山形県)、南阿蘇鉄道熊本県、2023年4月から)の6社で実践されています。

国交省がイメージする経営の上下分離のイメージ。施設の保有と管理は自治体が受け持ち、事業者(鉄道会社)は列車運行や営業に専念します(資料:国土交通省

記事:上里夏生