トム・クルーズ主演の人気シリーズ最新作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』(公開中)の日本語吹替版で、“シリーズ史上最も強大な敵”とされる謎の男、ガブリエル(イーサイ・モラレス)の声を担当している津田健次郎。極秘諜報部隊「IMF(インポッシブル・ミッション・フォース)」の諜報員として、シリーズを通して様々なミッションをクリアしてきたクルーズ演じる主人公イーサン・ハントの前に立ちはだかるガブリエルは、底知れぬ強さを漂わせているキャラクターだ。今回、そんな最強の敵を演じるにあたり行ったという演技のアプローチ、観客を驚かせる超絶アクションや吹替版ならではの魅力、さらには本作に登場するお気に入り美女(!)の話まで、津田にたっぷりと語ってもらった。

【写真を見る】悪役を演じる際に意識するのは“存在感”。唯一無二の空気を醸しだす津田健次郎を撮り下ろし!

■「映画のパワー、エンタメのすごさが伝わってきます」

一番思い入れがあるのは、シリーズ第1作の『ミッション:インポッシブル』(96)だという。「『スパイ大作戦』のテイストを入れつつ、まったく違う作品になっていたので、『こんなにもおもしろいものが世のなかにあるんだ』と驚いたのを覚えています。ヨーロッパの香りがあふれていて、すごく印象深い作品です」とシリーズ開始当時を振り返る。本作で「M:I」シリーズの吹替版に初参加した津田は「シリーズを重ねるごとにアクション要素はどんどん強くなり、世界中でヒットし続けている作品で“シリーズ史上最も強大な敵”という謳い文句のキャラクターをやらせていただくのは本当に光栄なこと。すごくうれしかったです」と笑みを浮かべる。

イーサンの活躍がシリーズの魅力だと話した津田は「イーサンは常に死と隣り合わせだけど、死ぬことはない。そんなイーサンの姿に世界中の映画ファンは魅了されてきたのだと思います。イーサンが死なない限り、シリーズは続いていくし、観客はいろいろなところに連れて行ってもらえる。そういった意味でも、ファンに支え続けられている作品だと思います」とシリーズが続くポイントに触れる。加えて「“映画らしい映画”と言いますか。最初から最後までとてもワクワクしながら楽しむことができるし、大スクリーンで観るべき映画だと、参加して改めて実感しました。クルーズさんが自分でアイデアをめちゃくちゃ出して、スタントなしでたくさんのアクションをこなしている、本当にすごい作品です。映画のパワー、エンタメのすごさが伝わってきます」と、映画館の大きなスクリーンで観た感想を教えてくれた。

イーサンの吹替えは、クルーズ本人も公認の森川智之が担当している。本作は別収録だったが、“森川トム”には安心を感じたそう。「“トムと言えば森川さん”という代名詞のような方。戦うシーンの多い敵役ですが、役者としては安心しながら向き合うことができました。普段から存じ上げていますが、トム役の森川さんは、またひと味違うなと思いました」とニッコリ。「クルーズさん自体がすごくセクシーだけど、森川さんが声をあてることで少し違う印象のセクシーさになる気がします。それが字幕版、吹替版の2種類あるよさだとも感じています」。

■「熱を込めない、言葉を立てないことを極力意識していました」

イーサンたちが追う暴走するAIの全貌を知るキーマンというガブリエルには、得体の知れない印象があったという。「いやーな感じがありましたよね(笑)。ずっと静かだし、気づいたらいた!みたいなシーンもあって。目的もよくわからないし、得体が知れなくて、気づけば巻き込まれてしまう恐怖というか…。なんだか気持ち悪いけれど、それが演じていておもしろい部分でもありました」と、ガブリエルが醸しだす怖さを説明。なんとも言えない不気味さを出すために意識したのは「温度」なのだそう。「原音自体もすごく淡々としていたので、熱を込めない、言葉を立てないことを極力意識していました。ガブリエル役のモラレスさんは、重力のある方という印象です。画面に出てくるだけで圧力を感じ、喋らなくても観ていられます。存在感のあるタイプの役者さんだと思いました」と、“史上最も強大な敵”へのアプローチを明かした。

ガブリエルのような敵役を演じる際に大切にしているのは「存在感」だという。「ラスボスのような立ち位置のキャラクターを演じることも多くて(笑)。キャラクターによって違いはありますが、基本として存在感の出し方は意識しています。戦いに入ってからの強さはもちろん、戦う前でも相手を圧倒する強さのようなものを出せたらいいなと思って演じていますし、それが役割だと思っています」。

見どころの詰まった本作で津田が惹かれたのはアクション、ドラマ、ハリウッドの伝統という3つのポイントだ。「クルーズさん自身が俳優人生で最もスリリングなアクションだったと話していましたが、映画を観ればそれが伝わってきます。例えばスタントなしで、バイクで崖下に飛び降りるシーン。あのジャンプの練習を1万3,000回もやったそうですが、ちょっと想像ができない数字ですよね…。クルーズさんはもちろん、それを支えるスタッフのすごさも感じます。そういう練習が行われたことを(観客に)想像させずに観せていることも意味のあることだけど、裏話を知ればさらにシーンのすごさが感じられて楽しいし、超大作ならではのスピード、アクション、スケールを実感できると思います」と、本作のアクションの凄まじさを解説。

イーサンは列車に乗るまでにバイクを走らせ、崖からジャンプし、乗ったら乗ったで墜落する車両を飛び越えないといけない。普通には(列車に)乗られないんだなって(笑)。たたみかけるようなスリルを味わってほしいというクルーズさんのアクションへの想いを感じました。アイデアが詰まりまくっているシーンです。本当によく練られていて何度も観たくなります」とクルーズ×ハントの止まらない超絶スタントの進化を言い表した。

■「美女を巡るドラマというのもハリウッドらしい要素」

実は上映中の音漏れがする場所で行った本インタビュー。津田が好きだという、イーサンと新キャラクター、グレース(ヘイリー・アトウェル)によるカーチェイスシーンの音が聞こえてくると「すごくキュートなシーンですよね」と微笑む。「2人のやり取りがすごくかわいくて。黄色いフィアット500を用意したところから、最終的に危機を脱出するオチまでクスッと笑える要素がたっぷりです」とちょっぴりドジなイーサンの動きを、身振り手振りで再現した津田。「今回はアブダビの砂漠にも、水の都ヴェニスにも行って。『M:I』シリーズはロードムービー的な側面があるのも、豊かに感じるポイントだと思います」と、シリーズを通してイーサンと旅をする楽しみもあると語った。

「美女を巡るドラマというのもハリウッドらしい要素です。美女と美男の物語って、やっぱりすごく映画らしいし、ハリウッドの伝統を守っているクルーズさんらしい作り方だと思いました」と話した津田の本作におけるお気に入り美女は、謎の殺し屋パリス(ポム・クレメンティエフ)。「今回登場する女性は全員強くて敵にしたくないタイプだけど、一番戦いたくないのはパリスです。強さも印象的ですが、本作での悲しさやせつなさは、彼女のシーンに凝縮されていた気がします。小悪党みたいに登場して、事件に巻き込まれながらイーサンとは戦友のような絆が生まれる、新キャラクターのグレースもとても魅力的。少し恋心的な匂いをさせつつ、彼女がドラマを引っ張り、彩りを与えてくれた気がします。これまでのシリーズでも目覚ましい活躍を見せていたイルサが砂漠で1人戦う姿は、カッコイイのひと言。みんなタイプの違うかっこよさ、強さがあってすてきでした」。

本作ではその正体が明かされなかったガブリエルは、次回作ではどうなっていくのだろうか。「彼自身のドラマがまったく見えてこなかったので、次回作では、彼が抱えているもの、なぜあのような行動をしているのかがわかるのかなと、いまからすごく楽しみにしています」とガブリエルの物語に期待を込めた津田に、日本語吹替版のおすすめポイントを聞いた。「吹替版の最大の魅力は情報量の多さです。セリフとしての情報量の多さで、画面を直視し続けられるよさがあります。原音を踏襲しながらも、声優さん一人一人の魅力みたいなものが、森川さんを筆頭に出ているのも吹替版を観る醍醐味です。同じ映画ですがそれぞれに魅力があるので、字幕版、吹替版の両方を楽しんでいただきたいです」。

取材・文/タナカシノブ

『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』吹替版でヴィランを演じた津田健次郎にインタビュー!/撮影/興梠真帆