2023年8月、史上初めてイタリア空軍の戦闘機が日本に飛来しました。しかし、イタリアの軍用機となると100年前の大正時代、すでに来日しています。今回のイタリア戦闘機飛来でも日伊両国の関係者がそこに言及していました。

イタリア空軍1万6000kmの長距離展開 空中給油機は3機帯同

2023年8月4日から10日まで、石川県航空自衛隊小松基地にイタリア空軍の軍用機が飛来して日伊共同訓練が行われました。飛来したのはイタリア空軍の最新鋭機であるF-35AライトニングII」で、同国の戦闘機が来日するのはこれが初めてのことです。

今回、イタリアから派遣されたF-35Aは4機でした。しかし、イタリアから日本までの飛行距離はなんと1万6000kmにもなったとか。それだけの長距離を無着陸で行うのは不可能なため、各機体はカタールのドーハ、モルディブのマレ、シンガポールに立ち寄って日本まで飛んで来ています。

また、長距離飛行を支援するために、KC-767A空中給油輸送機3機と、G550 CAEW早期警戒機1機が同行。さらにこれら機体でトラブルが起きた場合に備えて、救難ミッションを帯びたC-130J輸送機も来日チームに加わっていました。その結果、今回の派遣に参加したイタリア空軍の兵員数は約160名になったそうです。

特にKC-767イタリア空軍が保有する4機のうち3機が今回の展開に投入されています。イタリア空軍の発表によると1機のKC-767を人員・機材輸送に使い、残りの2機のKC-767空中給油任務に用いたとのこと。イタリア空軍は日本への長距離展開を行うにあたって保有する空中給油輸送機のほとんどを投入したといえ、そこからも同空軍にとって地球の裏側へ戦闘機と支援隊員を移動させるのは容易ではなかったことが伺えます。

しかし、実はイタリアから日本までの長距離飛行は今回が初めてのことではありません。実は、歴史的な偉業ともいえる飛行の第1回は、いまから100年あまり前の1920年、すでに実行されていたのです。

100年前に複葉機で達成 ローマ~東京の「冒険飛行」

イタリアから日本までの史上初となる長距離飛行は、ライト兄弟が人類初の有人飛行を達成してからわずか17年後の1920年に行われました。当時、イタリアから日本までの移動はもちろんのこと、ヨーロッパからアジアまで飛行機で移動すること自体が初めてのことであり、この飛行は現在の航空会社が定期的に行う商業飛行とはまったく異なる、危険を伴った冒険飛行に近いものだったといえるでしょう。

そのため、この飛行には単独ではなく4機種11機もの航空機が投入されています。数の上で中核となったのは「アンサルドSVA.9」というイタリア製の複葉機でした。各機はイタリア軍のパイロットが操縦し、さらに道中の機体整備のためイタリア軍の下士官も同乗していたそうです。

これらは1920年2月に首都ローマを出発。地中海沿岸を東へと進み、アラビア半島を横断してペルシャ湾に入ると、アラビア海沿岸部を経てインドの内陸部を横切り、東南アジアではビルマ(現:ミャンマー)やベトナムを経由して中国へ到着。その後、広東、上海、北京を経由し、朝鮮半島を経て5月30日に最終目的地である東京の代々木練兵場(現:代々木公園)に無事着陸しました。途中で立ち寄った場所は約30か所、かかった日数は109日間で総飛行距離は1万8000kmにもなったといいます。

ただ、この飛行は決して順調なものではなく、道中では多くのトラブルが発生しています。故障などの機体トラブルはもちろん、イラクではサッカーの試合が行われているスタジアムに不時着したほか、ペルシャ(現:イラン)では乗員が死亡する墜落事故も起きています。参加した11機の多くがトラブルや破損によって飛行を断念しており、最終的に日本まで到達できたのは、アルトゥーロ・フェラリン中尉(当時)とグイド・マジエーロ中尉(当時)が操縦する2機のSVA.9だけでした。

代々木練兵場に到着した2名のパイロットと各機に同乗していた整備担当の下士官2名は、日本において熱烈な歓迎を受けました。到着に際しては政府要人が出迎えたほか、皇居では貞明皇后(大正天皇の皇后、昭和天皇の母君)にも謁見。到着翌日の31日には代々木練兵場に約20万人もの見物人が訪れたといわれています。

日本初飛来を達成したSVA.9の内の1機は、その後、靖国神社の敷地内にある遊就館で展示されました。しかし、1923年の関東大震災で同施設が損壊した際に損傷し、その後に廃棄されてしまったそうです。

ただ、日本の航空史にとっては間違いなく歴史的な出来事であり、それを称えるため1970年大阪万博ではイタリア館にレプリカが展示されました。それは万博終了後に日本へ移譲され、航空自衛隊で保管されることに。このレプリカSVA.9が、静岡県航空自衛隊浜松広報館で展示されているものです。

パイロット育成に次世代戦闘機共同開発、現在進行形で続くイタリアと日本の関係

実は今回の展開は、約100年前に行われたこの複葉機での飛行を再現したものでもあるようです。イタリア空軍は今年が創設100周年となっており、イタリア空軍のプレスリリースにある派遣部隊司令官のコメント欄にも「イタリア空軍創設100周年の今年、私たちは世界でもっとも新しい航空機を使って、この旅を再現しました」と明記されていました。

航空自衛隊イタリア空軍が共同で行った記者会見においても、航空総隊司令官の鈴木康彦空将が前出の1920年に実施されたローマ~東京間の飛行を例に挙げ、「空と空の絆は100年以上続くものです」と詩的な表現で両国の関係をアピールしていました。

受け入れ拠点となった小松基地でも、訓練に参加するF-15Jイーグル戦闘機の1機を特別塗装機としてドレスアップ。機体には日本とイタリアの国旗のカラーをモチーフにしたデザインが施され、垂直尾翼にはイタリア空軍創設100周年のロゴも入れられていました。

もっとも、展開の一番の目的は、軍事と安全保障上に関連したものです。前出のイタリア空軍のプレスリリースでも「異なる航空機をイタリアから1万km以上も離れた場所への展開は、『航空遠征』および指揮統制分野における高度な技術の証明であり、具体的なデモンストレーションでもあった」と説明しています。

また、日伊両国は100年前の偉業だけでなく、現代でも安全保障の分野においてパートナー関係にあります。

昨年(2022年)にはイタリアにある「IFTS(国際飛行訓練学校)」で空自パイロットの教育委託が始まっているほか、次世代戦闘機に関しても日本、イタリアイギリスが共同で開発する「GCAP」(グローバル戦闘航空プログラム)として発表されたのは記憶に新しいところです。

海上自衛隊についても今年(2023年)6月、横須賀基地に哨戒艦「フランチェスコ・モロジーニ」がイタリア海軍の艦艇として初来日し、7月には海上自衛隊イタリア海軍とF-35戦闘機の運用で協力していく方針を記者会見で明らかにしています。

近年、中国への対応を念頭において、自衛隊と外国軍との交流は活発になっています。航空自衛隊においても、昨年からドイツ空軍、インド空軍、フランス空軍との戦闘機が参加する共同訓練を実施しており、今回の小松基地での日伊共同訓練もそれに続くものです。

ただ、イタリアにおいてはパイロットの教育や戦闘機開発でも協力関係にあり、この繋がりはヨーロッパの他の国との繋がりや連携の架け橋になる可能性もあります。

どうしても他国との防衛や安全保障での国際的な連携というと、アメリカやイギリスとのやり取りに目が行きがちです。しかし、実は日本とイタリアのパートナーシップについても、今後は注目すべき事柄なのかもしれません。

航空自衛隊F-15Jの特別塗装機。左翼はイタリア国旗の3色、右翼には日の丸の2色を用いた模様が(画像:航空自衛隊)。