髪を染めても欧米人にはなれない
キャンプ・デービッド山荘での日米韓首脳会談は、歴史的な「東アジア版クアッド」を構築した。
中国が苛立っていることは想像に難くない。
中国の外交の最高責任者、王毅国務委員は会談に先立ち、こう吐き捨てるように言っていた。
「東アジア人がいかに髪を金髪に染めようとも、低い鼻を整形して高くしようとも、しょせん欧米人にはなれない」
「人は自分のルーツがどこに繋がっているか知っておく必要がある」
日韓の米国との共有する価値観を基盤とした安全保障、経済安保での完全一体化には限度があることを突いたのだ。
日韓ともに、そのへその緒は中国を師とする漢字圏文化、儒教思想と繋がっている。だから中国とは離れられないという自信を示したのだろう。
国家とは、第三国からの脅威から守るために言語や習慣、文化、人種を乗り越えて同盟関係を結ぶという、近代社会のパターンを全く知らない王毅氏でもあるまい。
(China blasts US-Japan-South Korea summit, warns of ‘contradictions and increasing tensions’)
韓国の尹錫悦大統領を褒めちぎる米メディア
米メディアは総じて、今回の3首脳会談をポジティブに報じた。
ワシントン近郊のキャンプ・デービッド山荘での首脳会談で、日米韓の3か国連携強化に向けて新たな決意を固めたことで、「新たな時代の幕開け」と評価した。
特に、韓国の尹錫悦大統領が北朝鮮の核・ミサイル開発、中国の軍事的台頭など変化する戦略的環境への危機感を背景にしたとはいえ、日韓両国の足かせとなってきた慰安婦や元徴用工などの歴史問題を乗り越えたことで日米韓首脳会談の定例化ができたことを特記した。
一向に支持率の上がらないバイデン大統領だが、キャンプ・デービッドでの成果を米メディアは称賛している。
(U.S.-Japan-South Korea Summit)
ニューヨーク・タイムズのコラムニスト、デイビッド・ブルックス氏はこう指摘する。
「高齢問題とか(次男ハンター氏の裁判沙汰など)いろいろな問題を抱えるバイデン氏だが、経済は上向きだし、(日米韓3か国の同盟強化など)アジアでも国際問題をてきぱきと解決させており、外交的成果は再選に向けたプラス要因になっている」
「民主党は、強い候補を持っており、ラッキーだ」
政権交代があっても公約は維持できるか
ところが、東アジア、特に日韓のこれまでの外交の軌跡に詳しい米外交専門家やジャーナリストは、3か国の政権交代後も今回合意した数々の約束事を維持できるか疑問視している。
外交専門誌の「フォーリン・ポリシー」のアレキサンドラ・シャープ氏は、ずばりこう指摘する。
「前大統領の文在寅氏は日本との関係改善にほとんど関心がなかった」
「尹錫悦氏と岸田氏の後継者が3か国による首脳会談(でのコミットメント)を果たして継続できるかどうか、不確実だ」
(U.S., South Korea, Japan Bolster Ties at Camp David Summit)
岡目八目、英国営BBC放送のローラ・バイカー氏は、こう見ている。
「(木やプラスチック製のピースを積み上げて)タワーを作るテーブルゲームの『ジェンガ』(Jenga)のように突然崩れる恐れがある」
「東アジア関係は堅固に見えても、一度のミスで全体が崩れうる」
(U.S., South Korea, Japan Bolster Ties at Camp David Summit)
日韓問題に詳しい大手紙の外交担当記者、G氏はこう述べる。
「自民党長期政権が続く日本や民主、共和両党間の政権交代があっても外交ではコペルニクス的転換はない米国は問題ない」
「だが、韓国はリベラル派と保守派とで対日問題への認識が大きく異なる。次の政権がリベラルになれば、尹錫悦氏の路線を継承する保証はどこにもない」
世論を説得せぬ尹錫悦氏の「危険な賭け」
現にリベラル系のハンギョレ新聞は、社説で『尹大統領の危険な賭け』のタイトルを掲げ、こう論じている。
「歴史を無視し世論を説得しようともせず、韓日準同盟化を推し進める尹錫悦大統領の危険な賭けは、韓国社会にとっては受け入れ難いものだ」
「長期的には韓日関係もむしろ不安定にする可能性が高い」
「北朝鮮の核危機に対応するため米日との協力を強化したとしても、中国との過度な緊張と対立は韓国が耐えられるものではない」
もっとも、そうした韓国の国内事情を見越して3首脳は日米韓首脳会談を「制度化」したのだ、という見方もある。
日米韓首脳会談制度化で国内混乱抑える
米海軍大学校の韓国問題専門化のトーレンス・ローリッジ教授はこう指摘する。
「日米韓首脳会談を制度化させたことで、今後、日韓間で起こりうるいかなる混乱も抑え込める可能性がある。これは国際上の約束事であり、国内での混乱を国際的に抑圧できる」
(US Expected to Expand South Korea and Japan Security Links at Summit)
日米韓首脳会談は、1994年11月、村山富市首相、ビル・クリントン大統領、金泳三大統領(いずれも当時)が、ジャカルタでのアジア太平洋経済協力会談(APEC)に合わせて初開催したのが始まりだ。
北朝鮮核危機を受けた米朝枠組み合意が交わされた直後で、3者は緊密な連携を確認した。
2000年代に入り、北朝鮮の非核化を目指す6か国協議が立ち上がると、日米韓は対立を抱えつつも交渉を前に進めた。
だが、慰安婦や元徴用工などの歴史問題で日韓対立が先鋭化するに伴い、連携は足元が揺らぐ。
同盟軽視のトランプ政権、対日強硬の文在寅政権が誕生すると、首脳会談は有名無実化してしまった。
北朝鮮や中国の脅威に加え、ロシアのウクライナ侵攻で国際秩序が動揺する中、韓国で誕生した尹錫悦政権が日韓関係正常化に舵を切り、3か国連携に再び息を吹き込んだ。
オバマ米政権下の副大統領として日韓関係改善に尽くしたバイデン氏は、日韓関係改善に最も力を注いだ米大統領だった。
関係改善の「影の仲介役」だった。
発表された共同声明「キャンプ・デービッドの精神」でこう明記している。
「我々は決意を分かち合い、未来への楽観主義を胸にキャンプ・デービッドを発つ」
「日米韓は現在、将来を通じて挑戦に共に立ち向かうことができるという信念で結束している」
「制度化」された日米韓同盟関係を3首脳がそれぞれの国の有権者にどう説明し、理解させられるのか、まさにそれぞれの国の国民一人ひとりの国際認識と民族認識が試される。
もし、韓国で文在寅氏のような大統領が再び出てくれば、王毅氏は「それ見たことか」とほくそ笑むに違いない。
その大統領は「キャンプ・デービッド宣言」を破棄するのか。その時には日米韓首脳会談はどう機能するのか。
機能しなければ、その時は王毅氏の高笑いが聞こえてきそうだ。
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