一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングのエグゼクティブディレクターの家村均氏が、フィリピンの現況を解説するフィリピンレポート。今週は今のフィリピンの経済の姿を映し出す大富豪ランキングと、同じくフィリピン経済に大きく影響するOFW送金の現状をみていきます。

フィリピン富裕層の総資産…経済減速も前年比11%増

Forbes Asiaによると、フィリピンのトップ50の富豪層の総資産は、経済の減速にもかかわらず、昨年から11%増の800億ドルに上昇。フィリピン株式指数PSEIの前年比6%の上昇が大富豪純資産を押し上げました。

フィリピン・富豪層のトップ50の2023年のリストは、2022年7月22日の最新の公開可能な数字に基づく、1年間の年次結果を使用しています。

リスト1位はSy兄弟で、今年の純資産に18億ドルを追加し、依然としてフィリピンで最も裕福なファミリーとなりました。Teresita、Elizabeth、Henry Jr.、Hans、Herbert、Harleyという6人のSy兄弟は、合計純資産144億ドル。前年の126億ドルから18億ドル増加しました。彼らは、亡父でありSMグループの創設者であるHenry Sy Sr.からの富を受け継いでいます。Henry Sy Sr.は、2019年1月に亡くなるまでフィリピントップの富豪でした。

2位は、不動産王で元政治家のManuel B. Villar。純資産が19億ドル増の97億ドルに増加しました。Villar氏は、Vista Land & Lifescapes, Inc.、Vista Malls, Inc.、Golden MV Holdings, Inc.、VistaREIT, Inc.、およびPremiere Island Power REITなど、複数の上場企業を所有しています。また、昨年公開されたPremiere Island Power REITは約24億ペソを調達しました。

3位には、International Container Service, Inc.(ICTSI)の会長兼社長であるEnrique K. Razon Jr.がランクインしました。彼の純資産は25億ドル増の81億ドルに上昇しました。ICTSIの株価が前年比24%増加したこと大幅増の要因です。

4位はSan Miguel Corp.(SMC)の社長兼最高経営責任者(CEO)であるRamon S. Ang。Eagle CementがSan Miguel Equity Investment, Inc.によって約126.2億ペソで買収され、純資産が40%増の34億ドルに急増しました。5位には、Jollibee Foods Corp.の創設者であり会長であるTony Tan Caktiong。純資産が6億ドル増の32億ドルに上昇しました。6位はAboitizファミリー。純資産が8.6%増の31.5億ドルでした。

7位には、JG Summit Holdings, Inc.の社長兼CEOであるLance Y. Gokongweiと彼の兄弟がランイン。彼らの純資産は3%減の30億ドルとなりました。8位はDMCI Holdings, Inc.の会長であるIsidro A. Consunjiと彼の兄弟。純資産が9%増の29億ドルでした。9位は元Ayala Corp.の会長であるJaime Zobel de Ayalaと彼の家族。純資産は7.6%増の28億ドルでした。トップ10を締めくくるのは、LT Group, Inc.の会長兼CEOであるLucio C. Tanで、純資産は26億ドルです。

Filinvestグループの共同創設者であるMercedes Gotianunが亡くなった後、Gotianunファミリーは22位にランクし、純資産は8.5億ドルです。大富豪Alfonso Yuchengcoの相続人であり、Rizal Commercial Banking Corp.の最大の株主であるYuchengcoファミリーは、33位にランクし、純資産は4.2億ドルです。Lopez Holdings Corp.のCEOであるFederico R. Lopezと彼の家族は、Oscarが今年4月に亡くなった後、42位にランクし、純資産は3億ドルでした。

Forbes Asiaは、アジア太平洋地域の売上高が1000万ドル以上で10億ドル未満の公開企業の中から、TOP PERFORMINGを発表。今年は、Cityland Development Corp.、D&L Industries, Inc.、SSI Group, Inc.、およびWilcon Depot, Inc.の4つのフィリピン企業が選ばれています。

フィリピン経済を支えるOFWからの送金、半年ぶり高水準

フィリピン中央銀行(BSP)のデータによれば、海外フィリピン労働者(OFW)からの送金は、6月に6ヵ月ぶりの高水準に達し、銀行を通じてのキャッシュ送金は、2022年同月の27.5億ドルから2.1%増の28.1億ドルに増加しました。

2023年6月のキャッシュ送金は、2022年12月の31.6億ドル以来の最高水準です。一方で、2.1%の年間成長率は、2022年5月の1.8%以来、13ヵ月ぶりの低い成長率。陸上労働者からの送金は、2023年6月に2.1%増の22.9億ドルに増加し、海上労働者からの送金は1.9%増の5.24億ドルに増加しました。

2023年上半期累計においては、キャッシュ送金は2.9%増の157.9億ドル。ホスト国での改善した経済状況により、OFWにとっての仕事の機会と賃金が向上したため、送金額が増加したとみられています。また、物価上昇に対処するためにOFWが家族に対して送金額を増やした可能性も指摘されています。

ヘッドラインインフレーションは、2023年6月に6.1%から5.4%に緩和し、14ヵ月ぶりの低い水準となりましたが、BSPの2~4%の目標バンドを上回るインフレが、15ヵ月継続中です。1月から6月までのキャッシュ送金は、主にアメリカ、シンガポールアラブ首長国連邦UAE)からの入金の増加によって牽引されました。アメリカが最大で、総送金額の41.1%を占めています。そして、アメリカ、シンガポールサウジアラビア、日本、イギリスUAEカナダ、韓国、カタール、台湾で、上半期の総キャッシュ送金額の79.7%を占めています。

今後のOFWからの送金については、世界経済の状況や為替動向に左右されます。また、コロナからの学校再開により、OFWが家族に送金する金額が増加する可能性があります。アグレッシブなFRBの利上げによるアメリカの経済減速のリスクが顕在化し、雇用が減少する場合、OFW送金にとっては打撃となる可能性があります。

一方で、中国経済再開がうまく軌道に乗れば、これを相殺する可能性があります。中央銀行は、今年の送金が3%増加すると予想しています。

写真:PIXTA