額賀澪による経済小説を原作に据え、成田凌が主演を務める、異色の転職エージェントドラマ『転職の魔王様』(カンテレフジテレビ系/毎週月曜22時)が「働く全ての人に刺さる」「沁みる」と好評だ。その中で、キーパーソンの1人で、主人公・来栖嵐(成田)が勤める転職エージェント「シェパードキャリア」の社長・落合洋子を石田ゆり子が演じている。成田凌×石田ゆり子タッグや、姪を溺愛するおばという設定に『逃げるは恥だが役に立つ』を想起する視聴者も多く注目を集める本作について、出演オファーを受けた理由から仕事観、「自分の仕事に迷いを感じたとき」のアドバイスまで、率直に語ってもらった。

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■出演の決め手は“成田凌”と“会社員の世界”

――『転職の魔王様』のオファーを受けた理由はどんなことでしたか?

石田:オファーを受けた決め手は、成田くんが主役ということでした。ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(通称『逃げ恥』/2016年・TBS系)で初めてご一緒したんですが、そのときはまだ成田くんがお芝居を始めたばかりの頃で、若いけど、すごく独特な雰囲気と不思議な色気があって、とても魅力的だったんですよ。その後もどんどんご活躍されていて、今、主役をやられるようになられて、また一緒に仕事したいなと思ったんです。

――久しぶりの共演はいかがでしたか?

石田:成田くんは良い意味で全然変わらない、少年ぽさを持ったままの方で、とても気持ちのいい、チャーミングな青年ですよね。『逃げ恥』では上司と部下で、今回も同じく上司と部下ですが、私が演じている洋子は成田さん演じる来栖嵐さんが唯一ちょっと心を開いている、素を見せるような間柄。洋子は嵐さんがここに来たいきさつとか、何が過去にあったかを分かって雇っているんですが、社長と部下という関係ではありつつも、それよりもどこか距離が近い感覚を持ちながら演じています。

――台本を読んでどんな印象を持ちましたか?

石田:まず転職モノという題材に関心がありました。「働く」ということを、普段自分はこの(芸能の)仕事をしているので、ずっと意識しないでここまできたんですね。でも、今は多様性の時代と言われて、みんな仕事を変わったり、ステップアップしたりするじゃないですか。そういう世界を垣間見たいという思いもありました。

――会社員の世界に触れたことがないからこそ興味があったということでしょうか。

石田:そうですね。私は15歳から芸能界にいるので、アルバイトもしたことがなくて、就職という気持ちもないままこの世界で運良くここまでやってきていますが、もしこの仕事をしていなかったらどんな感じだったのかなと時々思います。

――女優業の他に、エッセイやCDも出されるなど、活動の幅をどんどん広げていて、演じている洋子さんと同じく社長でもありますが、「仕事」とは別の感覚なのですか?

石田:どうしても会社に入社した経験がないので。芸能界は自分のやっていることになかなか満足できない世界で、そんな中、「次、はい次」と目の前のことをこなしていくままに35年経った感覚なんです。

――ご自身の出演作を見返すことはありますか?

石田:ほとんどないですね(笑)。次から次へと先に進まなきゃいけないことがやってくるので、たまたま再放送をしているときに見ることはありますが、あえて見返すことはほぼないです。

――関心があったという会社員の世界をドラマで経験されて、いかがでしたか?

石田:洋子のセリフに「仕事を選ぶことは、生き方を選ぶこと」というのがあって、本当にこのドラマの全てを集約しているなと思いました。みんないろいろ悩んでいるんだなと思いますし、だからこそ好きな仕事をしてほしいなと。やりたいことをやってお金がもらえたら1番いいじゃないですか。幸い自分はそういう風に生きてきたので、だから働いている意識があまりないんでしょうけど、働くことに悩んでいる皆さんにエールが送れたらいいなと思いながら撮影しています。

■物事を俯瞰で見る性格「たいていのことは、まあいいんじゃないのと思える」


――ご自身が演じている洋子さんをどんな女性だと思いますか?

石田:シェパードキャリアという会社の社長ですが、あまり社長然としていなくて、みんなのことを俯瞰でいつも眺めている保護者みたいな存在ですね。何事にも縛られることなく、全体を包み込んでいる、いいお姉さん、いいお母さんのような気持ちで演じています。ちなみに、洋子自身の過去などは7話〜9話で出てくるので、見どころは後半なんですよ。

――姪の役を演じられている小芝風花さんの印象はいかがですか?

石田:まだ26歳だそうですが、本当にしっかりとした方だなと。本当に忙しいと思うんですけど、いつも変わらずきっちりセリフが入っていて、すごいなといつも思います。

――本作でも『逃げ恥』でも、ヒロインを溺愛するおば(本作では叔母、逃げ恥では伯母)という役柄ですが、石田さんご自身にも姪御さんがいらっしゃるそうですね。姪を溺愛する気持ちに共感するところはありますか?

石田:私自身は姪に対してもっとクールというか、あまり姪の生活に介入することはないですね。もちろんかわいがる気持ちは分かりますし、頼ってきたら助けてあげたいと思いますけど。でも、1人の大人として見ているので。『逃げ恥』の百合ちゃんにしても、今回の洋子にしても、面倒見のいいおばさんという役柄なんですよね。私ってそういう風に見えるのかな、面白いなとは思います。

――どちらの役柄も共感というより、ご自身からは少し距離を置いて見ている感覚でしょうか。

石田:そうですね。洋子についても、私自身、正直、掴みどころがないと感じる部分もあるんですよ。みんなにとっていい上司、いい社長ってなんだろうなと考えたとき、絶対に部下のことを否定しない、やりたいことをとりあえずは肯定している人のような気がして。その点、洋子は説教もしないし、自分で考えなさいと本人に任せる。姪の千晴にも「自分で決めたことならみんなが応援してくれるから」と言って、自立を促す人なんですよね。

そもそもシェパードキャリアそのものがそういう会社で、何をやりたいか、この人に何が向いているかをつなげてあげる会社ですし。共感というより、客観的に見て洋子はすごいな、立派な人だなと思っています。

――最近は後輩や若い世代にとっての理想の上司や道標のような役柄を演じられることが多いですね。

石田:いや、もう歳だからでしょう(笑)。実際に年齢的に彼らにとって私は上司やお母さんの年齢だからだと思います。

――上司像としても、グイグイ引っ張っていくというより、包み込んでくれるイメージがあるのは、石田さんご自身のイメージが反映されているのでは。

石田:そうですかね? それは役得ですね(笑)。百合ちゃんなど、これまで演じてきた役のイメージでそう思われているんでしょうね。

――ご自身にとって洋子さんのような道標的な先輩はいましたか。

石田:すてきな先輩はいっぱいいるのですが、私たちの上の世代、団塊の世代の方々はやっぱりすてきだなと思います。今、70歳ぐらいの方々ですね。この時代を生きてきた人たちって、みんなものすごく個性があって、今の人たちにはない破天荒さや大胆さ、強さ、人情味もあって。日本が1番発展する時に青春時代を生きてきた方はやっぱり魅力的ですよね。

私たちは、そういう世代に比べると味気ないというか、ちょっとあっさりした世代で、そんな私たちの後輩の世代はみんな良くも悪くもクリーンになっている。一人一人が均一化しているというか、似通ってきている気がします。それは時代のニーズなのか流れなのか分からないけど、そこは正直、まずい傾向だなとも思うんですよ。

――ご自身が憧れる団塊の世代に倣って、後輩世代に背中を見せる立場として、少し破天荒をやってみようみたいな思いもありますか?

石田:うーん……私は自分が責任を取れないことはできないと思っているので。仕事を受ける時もそうですし、何か行動を起こすときも、人のせいには絶対できないので、結果はどうあれ、自分が好きなことをやりたいんですね。それが結果的に若い人たちの刺激になればと思っています。

――本作で来栖さんが言うセリフ「あなたの正解はあなたにしかわからない」にも通じますね。自分の好きなことが分からない人にアドバイスはありますか?

石田:自分とちゃんと向き合っているかどうかだと思います。自分が何をするときに幸せか、時間を忘れて夢中になれることは何なのかとか、まずそこから考えたらいいんじゃないかなと思います。自分の好きなことって、人に聞くものじゃないから。

――石田さんご自身には仕事上でこれまでそういう迷いは全然なかったですか。例えば受けた仕事で「これは違う」と思ったり、悩んだりしたご経験は?

石田:私の場合、自分の役柄が好きか嫌いかということよりも、自分が視聴者や観客だったらこの作品を自分が見たいか、その作品を作っている人たちと一緒に仕事をしたいかでオファーを受けるか決めている感じですね。ドラマや映画は1人でやるものではないので、その座組に入りたいかどうかが基準です。

これはあんまりだったなと思うことも正直いっぱいあるんですけど、それでもそこから何かを学ぶことはできると思うんですよね。つまらなかったら、そこから何かを研究しようとか、つまらないと思うのはどういうことなのか考えてみようみたいに、自分の中で切り替える時はあります。

自分はいつも俯瞰で見るところがあるので、つまらないときはその状況を面白がってみる。そういう性格なんですね(笑)。

――さまざまな仕事の人に刺さりそうなアドバイスです。

石田:自分中心にモノを考えるとすごく狭くなってしまうけど、自分を離れて全体として見ると、結構面白いのかもなと思えてきますよね。これは女優という仕事柄のせいだと思うんですけど。ちょっと引いて全体を見るのは、役を演じるときに、自分であって自分じゃない目線を持つことなので。でも、そうして見ると、何でもたいていのことは、まあいいんじゃないのと思える気がします(笑)。

(取材・文:田幸和歌子 写真:高野広美)

 月10ドラマ『転職の魔王様』は、カンテレフジテレビ系にて毎週月曜22時放送。

石田ゆり子  クランクイン! 写真:高野広美