いよいよ開業する芳賀・宇都宮LRTに先行試乗。国内で75年ぶりの新設という路面電車ですが、街中をクルマとともに走る併用軌道区間から、田んぼを見下ろす専用区間まで、その車窓は目まぐるしく移り変わりました。

芳賀・宇都宮LRTに先行試乗

栃木県宇都宮エリアで建設されている新たな軌道路線、芳賀・宇都宮LRT、愛称「ライトライン」が2023年8月26日(土)に開業を迎えます。それに先行して21日(月)、報道陣向けの試乗会が行われました。

ライトラインは宇都宮駅東口から鬼怒川を越え、芳賀町の「芳賀・高根沢工業団地駅」までをむすぶ14.6kmの路線。車両は黄色と黒のツートンカラーで、流線形が特徴の連接低床車「HU300形」3両編成17本が運用されます。現在は朝から深夜まで、開業時のダイヤを想定した試運転が行われており、そのひとつの列車に乗車する形となりました。

この路線の最大の特徴は「車窓」かもしれません。区間ごとにリポートします。

宇都宮駅東口~平石:市街地の併用軌道区間

宇都宮駅東口に列車が止まっているあいだ、物珍しそうに車両の写真を撮る人も多くみられました。出発してすぐ急カーブに差し掛かりますが、ここは2022年11月の試運転時に脱線事故が発生したところです。以降、原因究明とともにレールの高さ調整などが行われ、いまは難なく通過しています。

すぐに駅から東へ延びる「鬼怒通り」の真ん中をクルマとともに並走する市街地区間へ入ります。列車もクルマと同様、信号に従いますが、列車運行のために調整されているのか、スムーズに走っていました。国道4号を渡る高架橋の片側1車線分が線路になるなどしたほか、建設中は車線が切り回され渋滞も見られましたが、いまは朝の通勤時間帯でもそこまで混んでいない印象。もはや列車は、道路交通のひとつとして溶け込んでいました。なお、ライトラインの速度は法定の上限である最大40km/hとなっています。

●平石~清陵高校前:専用軌道区間、車窓のハイライト

鬼怒通りから高架橋で田んぼのなかの「専用軌道区間」(線路だけの区間)へと移ってすぐ到着する平石停留所は、車両基地も備わった運行の拠点で、ここ始発・終着の列車も設定されています。数年前まで一面の田んぼでしたが、そこへ車両基地を皮切りに、線路、高架橋、2面4線の停留所といった施設が次々とできていきました。

ここからの専用軌道区間が車窓のハイライトといえます。鬼怒川を渡る橋梁では、眼下に釣り客で賑わう涼しげな川面を望めるほか、宇都宮駅行きの列車では車窓に男体山を仰ぎ見ることができ、宇都宮ライトレール関係者も特にオススメのポイントと話していました。

鬼怒川を渡りきると、そのまま高架橋で谷の地形を一気に跨ぐ区間へ突入。さきほどまで“地べた”だった田んぼの風景を、今度は上から望みつつ、50パーミル(1000mで50m昇降する)以上の急勾配で清陵高校前に到着します。

3両ロング車体で挑む「国内最大級の勾配」

●清陵高校前~芳賀町工業団地管理センター前:再び併用軌道区間 ただし「横断」多し

清陵高校前からは、再び道路空間に設置された線路を進みます。清原工業団地内ではクランク状のカーブを進み、道路を横断する箇所が。ここは交わる道路の交通量も多いためか、長めの“信号待ち”となりました。

工業団地内では線路の端に軌道が敷設されていますが、そこから「ゆいの杜」地区へ入る巨大な「野高谷(のごや)交差点」は専用高架橋で渡ります。ゆいの杜地区では駅周辺と同様、道路の真ん中の線路をクルマと進む区間です。ここでも、列車は完全に道路交通に溶け込んでいました。

●芳賀町工業団地管理センター前~芳賀・高根沢工業団地:最後の「谷越え」国内最大級の勾配

ここからは芳賀町内の区間です。芳賀町工業団地管理センター前で道路を横断して左折すると、やがて遠くにホンダの体育館が見えるのですが、その手前にあるV字型の谷を列車は地形に沿って進みます。

乗っていても明らかに列車が下がっている、上がっていることが認識できるこの区間、最大60パーミルという国内最大級の勾配です。東京都内を走る都電荒川線でも王子駅付近で66.8パーミルの急坂を通りますが、同様の勾配を最新型の3両連接車で進むライトラインは、また違った印象でした。

終点の芳賀・高根沢工業団地周辺は“ホンダ村”とも呼べる本田技研工業関連の工場エリアで、工場正門の目の前に停留所があります。工場の反対側は、見渡す限りの「関係者用駐車場」。このクルマの多さをどれだけライトラインに転換できるかという点も、路線の真価が問われるポイントでしょう。

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宇都宮駅から終点まで乗り通した場合の所要時間は、標準で48分とされています。その間、路面電車らしい市街地区間や、郊外の高架鉄道区間、工業団地の区間などが目まぐるしく移り変わり、“急勾配”という鉄道ファンにはたまらないポイントも多数。これら見どころを大きな窓の低床連接車で味わえるという、類を見ない路線といえそうです。

「まず1年間は安全に運行を続けることが何より大切です。夏の高温によるレールへの影響、秋の落ち葉、冬の凍結など、まだまだ我々が体験できていない課題はたくさんあります」(宇都宮市建設部 LRT管理課長 桑久保佳宏さん)

開業時は暫定的な特別ダイヤでスタートし、2024年春のJRダイヤ改正に合わせた改正で、快速運転も計画しているそうです。

ライトライン試乗会。平石停留所にて(乗りものニュース編集部撮影)。