a new musical『ヴァグラント』が、8月19日(土) に東京・明治座で開幕した。これに先立って行われたゲネプロと初日前会見の様子をレポートする。

本作は、ポルノグラフィティの新藤晴一が初めてプロデュースするミュージカル。完全オリジナルストーリーの原案、ならびに20曲以上の作詞・作曲を新藤が手がけ、脚本・演出を板垣恭一が担当した。大正時代の炭鉱街を舞台に「マレビト」と呼ばれる芸能の民・佐之助(平間壮一 / 廣野凌大 ※Wキャスト)を中心とする群像劇が繰り広げられる。

マレビトは、炭鉱街に暮らす人々の冠婚葬祭──“区切り”の場で歌や踊りを披露する一方で、日常生活では人との接触を禁じられ忌み嫌われる疫病神のような存在。人を恐れながらもその正体に迫ろうとする佐之助は、姉貴分の桃風(美弥るりか)を巻き込み、割り切れない想いを抱えながら炭鉱街に生きるヒロイン・トキ子(小南満佑子 / 山口乃々華 ※Wキャスト)、炭鉱会社の新社長・政則(水田航生)、炭鉱夫のリーダー・譲治(上口耕平)らと交流を深めていく。

ゲネプロは、新藤の演奏を録音したギターソロが響く中で開幕した。取材日に佐之助を演じたのは、平間。人々の問題に首を突っ込む明るく好奇心旺盛な佐之助を、平間は持ち前の高い身体能力を活かしながら造形する。特にアクロバティックなバック転を決めるシーン、芯の通ったひたむきな歌声に注目したい。かと思えば、佐之助の過去が明らかになるシーンではその葛藤を表情や動きに滲ませ、キャラクターに奥行きを与えていた。

炭鉱街のある者に両親を殺され、犯人探しに躍起になるトキ子。ゲネプロでは小南が扮し、軍服姿が目に鮮やかな凛とした佇まいで佐之助や人々と誠実に向き合う。炭鉱で働く人々の待遇改善と生産力アップの間で揺れ動く政則、労働環境をよくしようと抗議を続ける譲治とは幼なじみで、彼ら3人が在りし日に結んだ理想の約束と、それを果たせずにいる現在の苦悩を歌ったバラード「月の裏側」は必聴だ。

オリエンタルな曲調やタンゴ、コミックソングからロックまで、新藤の手がける実に多様な楽曲が登場人物の来し方行く末を彩った。中でも、桃風役の美弥が中性的な魅力を振りまくシーンで展開した「桃風の啖呵売」はラップナンバー。炭鉱夫が集まる酒場の女主人・アケミ役の玉置成実も「この世はジョーク」でダンサーを引き連れる。いずれもショーアップされ、観客の目に楽しく映るだろう。

劇中では炭鉱会社から搾取され、貧困に苦しむ炭鉱夫の鬱屈した感情も描かれる。稽古前のインタビューで、平間が「劇中で描かれる問題は普遍的で、現代のお客さまにも通じるのでは」と話していた通り、劇世界はあらゆる社会問題が巻き起こる現代の日本を映しているようにも感じた。出会った人々の苦悩に心を寄せ、解決に向かって奔走する佐之助の存在は、令和の観客にとって救いとなるのではないだろうか。

ゲネプロ前に行われた初日前会見で、新藤は「お客さんを楽しませるためなら何でもやっていい、というミュージカルの魅力が前面に出ている作品」と笑顔を覗かせた。主演の平間は「普段は“伝説を残す”と大口を叩かないタイプですが、そう感じるくらい毎公演に全力でぶつかりたい」と言葉に力を込める。これを受け、Wキャストの廣野も「作品によって生まれる僕らキャストと皆さんの感情が色濃く現れたらいいな、と思いながら稽古をしてきました。本番ぶちかまします!」と気合い十分だった。

a new musical『ヴァグラント』初日前会見より 前列左から)板垣恭一、新藤晴一(ポルノグラフィティ)、廣野凌大、平間壮一、 小南満佑子、山口乃々華 後列左から)玉置成実、平岡祐太、美弥るりか、水田航生、上口耕平

上演時間は約180分(休憩あり:二幕)。東京公演は8月31日(木) まで。その後、9月15日(金)〜18日(月) に大阪・新歌舞伎座へ巡演する。チケット販売中。

取材・文:岡山朋代 撮影:岡千里

<公演情報>
a new musical『ヴァグラント』

プロデュース・原案・作詞・作曲:新藤晴一(ポルノグラフィティ
脚本・演出:板垣恭一

出演:
平間壮一・廣野凌大(Wキャスト) / 小南満佑子・山口乃々華(Wキャスト)
水田航生 上口耕平 玉置成実 / 平岡祐太 美弥るりか 他

【東京公演】
2023年8月19日(土)~8月31日(木)
会場:明治座

【大阪公演】
2023年9月15日(金)~9月18日(月・祝)
会場:新歌舞伎座

チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2343481

公式サイト
https://vagrant.jp/

a new musical『ヴァグラント』より