小松基地に飛来したイタリア空軍機が、航空自衛隊との共同訓練を終えて帰国しました。その時に見せたイタリア機の尾翼のマークや飛行服のパッチには、伝統と新たな日伊友好を見ることができました。

イタリア空軍が戦後初めてキター!

2023年8月4日夜、イタリア空軍のF-35AライトニングII」戦闘機などが石川県の小松基地に到着しました。これは航空自衛隊との共同訓練を目的としたもので、イタリア空軍機の日本への飛来は戦後初めてとなります。クウェートシンガポールフィリピンなど数か所を経由した約1万6000kmにおよぶ長距離飛行、それ自体が訓練のひとつであると言えるでしょう。

実は太平洋戦争前と戦争中に、イタリアの軍用機は二度ほど来日しているのです。

一度目は1920(大正9)年に行われた2機のS.V.A.9複葉機によるインド洋経由の極東飛行で、事故や日程調整により東京の代々木練兵場への到着まで108日間(飛行日数は27日間)かかっています。この時にはまだイタリア空軍は誕生しておらず、機体はイタリア陸軍航空隊の所属でした。

そして2度目は1942(昭和17)年に行われたイタリア空軍所属のS.M.75GA改造輸送機による飛行で、クリミア半島と内蒙古の包頭(パオトウ)にあった飛行場を経由し、4日間かけて東京郊外にあった旧日本陸軍の福生飛行場(現在の横田基地)へ見事到着しています。

今回のイタリア空軍機の来日は台風の影響により予定より2日遅れてしまいましたが、到着した4機のF-35AライトニングII」戦闘機や3機のKC-767空中給油輸送機、1機のG550 CAEW早期警戒機、1機のC-130J輸送機は、航空自衛隊F-15J戦闘機などと編隊飛行や戦術訓練を行いました。

そういったなか、8月8日に行われた報道公開に筆者(吉川和篤:軍事ライター/イラストレーター)は参加したのですが、その際、来日していた1機のF-35A戦闘機に描かれたマークを見て驚きました。

赤くないけど「赤い悪魔」のマーク発見!

筆者の目が留まったのは、垂直尾翼に電光デザインと共に描かれた円形マークです。これは、かつて「赤い悪魔」と呼ばれて第2次世界大戦前からイタリア空軍の戦闘機隊で使用された部隊章でした。このニヤりと笑う赤い悪魔のマークは、1936(昭和11)年1月に編成された第6戦闘航空団で使用されたものです。

同航空団は大戦中、地中海や北アフリカでCR.42複葉戦闘機やRe.2001戦闘機で戦い続けた部隊で、後に戦闘爆撃機乗りとして有名になるジュゼッペ・チェンニ少佐などのエースを輩出しています。そして1943(昭和18)年9月のイタリア休戦後には、ドイツや日本など枢軸側について戦ったイタリア共和国(R.S.I.)空軍でもこの部隊章は引継がれました。

今回来日した4機のF-35A戦闘機は、「襲撃する鷲」マークの第32航空団第13戦闘機群所属の3機「06」「15」「16」の各号機と、この第6航空団所属の1機「04」号機です。なお、後者に対するF-35A戦闘機の配備は2022年6月に始まったばかりであるため、おそらくこの機数の差が出たと推察されます。

ちなみに、現在は各国空軍機で主流となっている艶消しグレーの機体に明るいグレーでマークや数字を描いた「ロービジ塗装」をイタリア空軍も採用しているため、前述したような、かつて名を馳せた「赤い悪魔」ではありませんでした。それでも爪を立て笑いながら襲い掛かる悪魔の姿は健在で、かつての第6戦闘航空団の武勲の歴史を今に伝えています。

こうしたイタリア空軍伝統の部隊章は、パイロットが飛行服に着用するパッチのデザインにも使用されており、例えば今回来日したKC-767空中給油輸送機を運用する第14航空団の「2羽の鷲」マークの部隊章は胸パッチとなっています。

そして日伊友好の一環として、要員どうしで部隊章の交換が行われた結果、今回の報道公開での撮影や共同記者会見などの引率を担当された航空自衛隊員の右胸などにも、同航空団のパッチを見ることができました。

新たな日伊友好のパッチ

こうした伝統ある部隊章とは別に、今回の来日と前後して、軍服に着用する2つの記念パッチがイタリアと日本の双方で作られました。

まずひとつは、今年の2023年に100周年を迎えたイタリア空軍の創設を記念した濃紺の円形パッチです。このパッチでは、上部に「イタリア空軍100年」と下部に「未来への飛行」のイタリア語の文字が入り、中央には「100」の数字とF-35A戦闘機のシルエットや緑、白、赤のイタリア国旗をあしらったデザインが刺繍されたものでした。そしてこの記念パッチは、来日したイタリア空軍将兵の右腕に着用されていました。

一方、日本では今回のイタリア空軍の来日と共同訓練を記念して新たなパッチが作られました。これはイタリア側を迎える航空自衛隊小松基地が用意したもので、イタリア空軍100周年記念パッチのデザインを取り入れながら、旭日デザインの太陽や石川県花のクロユリ、日本のF-15J戦闘機イタリアF-35A戦闘機のシルエットをあしらったデザインに「イタリア空軍」と「日本航空自衛隊」の文字を上下に刺繍した円形パッチでした。この日本製の記念パッチはイタリア空軍将兵にも配られ、現地では整備員からビアバッティ中将まで全員が右腕に着用していました。

こうして両国で作られた記念パッチを着用したイタリア空軍将兵は航空自衛隊との共同訓練を行い、8月9日には小松基地を後にして本国への帰路についています。

今回は、日本より先にF-35A戦闘機の運用を始めたイタリアとの連携を深めることで、航空自衛隊が同機に関するノウハウを吸収した形ですが、将来的には航空自衛隊側もF-35Aを用意し、同一機種どうしの共同訓練も行うものと思われます。

その点では、そういった将来の共同訓練、知見の共有も視野に入れたミッションであったと筆者は考えます。イタリアの軍用機が日本に飛来するのは、これで終わりではないはずです。きっと次の来日時には、また新たな記念パッチが作られて、日本とイタリアの航空部隊の連携や絆が深まって行くことでしょう。

イタリア本国での空軍100周年記念イベントに姿を見せた第6航空団のF-35A戦闘機。垂直尾翼にはロービジ塗装で赤くない「赤い悪魔」が見える。今回来日した機体にも同じ仕様の部隊章があった(イタリア空軍の画像を基に加工。吉川和篤作画)。