東京女子医科大学実験動物研究所(所長/本田浩章教授)の研究グループは、国立国際医療研究センターやシンガポール大学、椙山女学園大学などと連携し、新しい分子の発見に成功しました。この分子は、体内で大切な血液を作る「造血幹細胞」の活動を制御する役割を果たします。この研究成果は米国科学アカデミーが発行する機関誌「Proceedings of the National Academy of Sciences(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, PNAS)」の2023年8月8日号に掲載されました。
本件の研究者たちは、人間の体内で重要な働きを持つ造血幹細胞の活性をコントロールする新たな分子を見つけることに成功しました。

遺伝的に異なる細胞から成るキメラマウス


造血幹細胞は、私たちの体内で血液細胞を生成する役割を担っています。この研究で同定された新しい分子は、これらの幹細胞の活動を調整し、バランスを保つ重要な役割を果たしています。

本田浩章教授(実験動物研究所所長)


東京女子医大実験動物研究所を始め、田久保圭誉プロジェクト長率いる国立国際医療研究センターの研究グループや、シンガポール大学の須田年生教授らもこの成果に貢献しました。当共同研究によって得た成果が、将来的には血液の病気や障害の治療法の向上に繋がる可能性を拡げました。
そしてこの新しい発見は、医学の分野において画期的なものであり、これによって、将来の医療の進歩に期待が寄せられています。
【背景と研究経緯】
造血幹細胞は骨髄に存在し、成体の造血を維持する重要な役割を果たします。これまでの研究では、造血幹細胞はさまざまなメカニズムで制御されていることが示唆されてきましたが、その全体像はまだ解明されていません。
研究者たちは、マウス造血幹細胞における分子であるMBTD1/HEMPに焦点を当てました。MBTD1は、エピジェネティックな制御システムによって遺伝子発現が調節される可能性があり、胎生期の造血幹細胞活性に関与していることが既に報告されています。しかし、MBTD1の成体造血における機能は明らかではありませんでした。

【研究内容のポイント】
研究者たちは、MBTD1の欠失を誘導的に生じるマウスモデルを使用して、MBTD1の役割を詳細に解析しました。その結果、MBTD1欠失マウスでは造血幹細胞の割合が増加し、ストレス応答時の挙動も異常であることが判明しました。MBTD1の欠失により、造血幹細胞が異常な細胞周期に突入してしまうことが示されました。
さらに、研究者たちはMBTD1がFOXO3aと呼ばれる転写因子の発現を調節していることを発見しました。FOXO3aは細胞周期調節に関与しており、その発現低下がMBTD1欠失による造血幹細胞の異常な挙動に関与していることが示唆されました。

【新たな発見と今後の展望】
研究者たちは、MBTD1が細胞周期調節とエネルギー代謝調節の両面を通じて造血幹細胞活性を制御している可能性があることを示唆しました。この知見は、造血幹細胞移植や再生医療の分野での応用に役立つ可能性があります。
今後は、MBTD1がどのようにして目的遺伝子や蛋白質と結合し、その機能を発揮するのか、他の造血幹細胞維持機構との関係性、そして他の組織幹細胞におけるMBTD1の役割などを詳しく解明していく予定です。
この研究によって、造血幹細胞の制御メカニズムに関する新たな理解が得られ、将来的には医療分野において画期的な治療法の開発につながるかもしれません。

【用語説明】
エピジェネティクス:遺伝子発現を制御する仕組みで、DNAの塩基配列以外の化学的修飾によって影響を与えることを指す。
細胞周期:細胞が成長、分裂、分化などの段階を経て進行する周期のこと。
転写因子:遺伝子発現を制御するためにDNA上の特定の部位に結合し、転写(コピーの作成)を開始させるタンパク質。
再生医療:細胞や組織の再生・修復を目指して行われる医療の一分野。

【プレス情報】
1.掲載誌名:Proceedings of the National Academy of Sciences(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, PNAS
2.論文タイトル:MBTD1 preserves adult hematopoietic stem cell pool size and function
3.著者名:Keiyo Takubo*1, Phyo Wai Htun, Takeshi Ueda, Yasuyuki Sera2, Masayuki Iwasaki2, Miho Koizumi2, Kohei Shiroshita1, Hiroshi Kobayashi1, Miho Haraguchi1, Shintaro Watanuki1, Zen-ichiro Honda, Norimasa Yamasaki, Ayako Nakamura-Ishizu2, Fumio Arai, Noboru Motoyama3, Tomohisa Hatta, Tohru Natsume, Toshio Suda4, Hiroaki Honda*2
(*は責任著者、1:国立国際医療研究センター、2:東京女子医科大学、3:椙山女学園大学、4:シンガポール国立大学
4.掲載号:2023年8月8日号(論文のオンライン掲載日7月31日15時(米国西部時間))
5.DOI number: 10.1073/pnas.2206860120
6.URL: https://doi.org/10.1073/pnas.2206860120

【本成果を得るにあたりご協力いただいた大学、援助をいただいた研究費・助成金】
本研究成果は、東京女子医科大学、国立国際医療研究センター研究所、シンガポール国立大学産業技術総合研究所近畿大学広島大学お茶の水女子大学九州大学、椙山女学園大学、ミャンマー連邦共和国Healthcare Call Centerの共同研究によるものです。本研究は、Human Frontier Science Program Organization Long-Term Fellowship、AMED-CREST (JP22gm1310006, JP20gm1210011)、国際医療研究開発費、文部科学省科学研究費補助金(21H02957, 22K19550)の助成を得て進められました。

【お問い合わせ先】
<研究に関すること>
東京女子医科大学実験動物研究所・所長、先端生命医科学専攻疾患モデル研究分野・教授
本田 浩章(ホンダ ヒロアキ)
〒162-8666 東京都新宿区河田町8-1
Tel: 03-3353-8112 内線 42451
Fax: 03-5269-7423
E-mail: honda.hiroaki@twmu.ac.jp
<報道取材に関すること>
東京女子医科大学 広報室
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