北朝鮮の抑圧体制を底辺から支えている保衛員(秘密警察)。地域社会や国営企業、行政組織など、ありとあらゆるところに配属された彼らは、国民の一挙手一投足に目を光らせている。また、都合の悪いことを見つければそれをネタにしてゆすりたかりを繰り返す、非常に厄介な存在だ。

そんな保衛員を騙って、カネを詐取する行為が相次いでいると、咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

事件の舞台となったのは、中国との国境に接する会寧(フェリョン)。地理的環境から、コロナ前には密輸、脱北、中国の携帯電話の使用など、様々な違法行為が当たり前のように行われてきた。保衛員は、時にはそれを摘発し、時にはワイロを受け取って黙認し、時には直接加担することもあった。

保衛部は、正体を隠して国民を監視する情報員(スパイ)を運用するのと同時に、密告も奨励し、それに基づいて家宅捜索や摘発を行っている。ニセ保衛員は、本物と全く同じように、特定の家に踏み込んで家宅捜索を行い、米ドルや中国人民元を見つけると難癖をつけて、没収したり、ワイロを要求したりする。

本物と偽物の行動が全く同じであることから、誰もが気づかずに被害に遭ってしまい、自分が騙されたことにすら気づかない人もいるという。そもそも本物の保衛員も、家宅捜索を行う際には私服を着用することから、見分けがつかないという。

被害報告が相次ぎ、保衛部は市内の各人民班(町内会)に赴き、「最近、保衛員を装った犯罪者がカネを狙って家々を回り、家宅捜索を行うなどの犯罪を行っているから、これからは人民班長(町内会長)が同行しない取り締まりには絶対に応じてはならない」と住民に通告した。

2020年1月の国境封鎖から続く経済難に、様々な犯罪の多発が重なり、社会では不安が深まっていると情報筋は伝えた。

犯罪者にとっては、普段の行動がチンピラと何ら変わりのない保衛員を装うことなど、朝飯前なのかもしれない。

北朝鮮の保衛部員