7人によるグループ・リーグ戦
来年の米大統領選挙に向けて行われる野党・共和党の全国委員会主催の第1回目のテレビ討論会が8月23日、ウィスコンシン州ミルウォーキーで開かれる。
保守系でトランプ支持のFOXニュースが全米中継、モデレーターはトランプ氏が贔屓にしていたブレット・ベイアー氏とマーサ・マッコール氏が務める。
4つの裁判所から起訴された刑事被告人を次期大統領を目指す共和党政治家たちがどう考え、党としてどうすべきか、トランプ氏本人を前にどう論ずるか、興味津々だった。
ところが、トランプ氏は8月20日、「討論会には出席しない」(I will not be doing the debates)と自前のSNSで公言した。
「国民は私が誰かを知っているし、私が成功を収めた大統領であることを知っている」
「したがって(顔見世、売名目的の)討論会(複数)には出席しない」
この不参加が今回の討論会だけなのか、今後開かれる党主催のすべての討論会に参加しないということなのか、トランプ氏も同陣営も明らかにしていない。
党主催の討論会に参加できる条件は数、カネ、忠誠の3つだ。
①直近3つの世論調査での支持率が1%を超えるか、全米2州と予備選最初の2州における世論調査での支持率が1%を超えること。
②最低4万人の政治献金者がいるか、全米20州で20人の政治献金者がいること。
③党大統領指名候補を支持するとの誓約書にサインすることーーなどだ。
トランプ氏は共和党員・支持者の54%の支持を得て、他候補の追従を許していない。政治献金提供者も4万人を軽く超えている。
政治献金もスーパーPAC「政治活動委員会」を軸に巨額の政治献金を集めている。
そこから弁護士料1600万ドルを支払ったが、現在手元には現金が1800万ドルあるという。
(Donald Trump's indictment-fueled throng of small donors looms over rivals)
(How Trump Uses Supporters’ Donations to Pay His Legal Bills)
トランプ氏の討論会ボイコットの理由は、「宣誓拒否」以外にあるのだろうか。
連邦地裁、ジョージア郡裁判所4つの裁判所での公判が待ち構えている中、他の候補者とのやり取りで公判に不利な発言をしたり、起訴案件をめぐって追及されたりすることを嫌ったのか、そのへんは不明だ。
米主要紙政治コラムニストK氏はワールド・カップに引っ掛けて討論会参加候補たちをこう茶化す。
「いずれにせよ、トランプ氏は断トツの支持率のトップランナーとして、雑魚は相手にできないといったマキャベリ的戦略をとったのだろう」
「スペインが優勝した女子ワールド・カップのサッカーで言えば、シードされたトランプ氏が待ち構える決勝リーグへの進出を競うグループ・リーグ戦のようなものだよ」
トランプ氏は討論会はボイコットする代わりに、かつて「トランプ大統領の影のブレーン」といわれていたFOXニュースの元キャスター、タッカー・カールソン氏とのインタビューを受ける。
トランプ擁護vs批判vs玉虫色
一方、トランプ氏以外の大統領候補たちは、共和党支持者はじめ一般有権者に名前と顔を知ってもらう絶好のチャンスだ。
8月21日現在、参加が認められた候補者は以下の7人。
ロン・デサンティス・フロリダ州知事
ビべック・ラマスワミ氏=インド系起業家
ティム・スコット下院議員=黒人
ダグ・バーガム・ノースダコタ州知事
トランプ氏に対する基本姿勢別に分けてみると、次の通りだ。
●トランプ擁護
デサンティス、ラマスワミ、スコット、バーガム
●トランプ批判
クリスティ、ペンス
●玉虫色
ヘイリー
(Who's In, Who's Out And Who Might Bail On The First Republican Debate?)
日米韓首脳会談など全く知らない候補者たち
討論会ではバイデン政権の経済、移民、メキシコ国境警備、犯罪、人工中絶、同性愛といった具体的な政策を批判し、共和党が政権を奪還した時にはどのような政策を展開するかといった政策論議になるだろう。
だが米主要紙のベテラン記者W氏はこう指摘する。
「トランプ氏の選挙演説を聞いていても政策論はほとんどなく、2020年大統領選挙が不正だったことや自分に対する司法の『魔女狩り』を糾弾するだけ」
「共和党の他候補にも具体的な政策論はあまり期待していない。外交や国防政策で7人が口角泡を飛ばすとは思えない」
「先日のキャンプ・デービッドでの日米韓首脳会談のことなど知っている候補者は一人もいないのではないか」
6人が結束して2番手デサンティスを集中攻撃
となれば、トランプ氏を擁護するデサンティス氏らと「2020年の大統領選の勝利者はバイデン氏だ」と明言しているクリスティ、ペンス両氏とのやり取りが1回目の討論会のハイライトになってくる。
デサンティス氏は、知事選でトランプ氏に物心両面から世話になった経緯もあり、これまでトランプ批判を避けてきた。
むろん共和党内のトランプ氏に対する熱狂的な支持もあり、やみくもに批判すれば支持を減らす危険があるという読みもある。
8月に入って、トランプ氏が3回目の起訴を受けた後に、やっと「2020年大統領選で負けたのはトランプ氏だ」と公言した。それでもそれ以上のトランプ批判は避けている。
一方のクリスティ氏は、候補者の間では先頭を切って、トランプ氏の機密文書持ち出しやフロリダやジョージアでの選挙妨害行為を激しく批判してきた。
さらに「民主党政権が司法を『武器化』(Weaponized)してトランプ氏の政治生命を抹殺しようとしている」といったコンセンサスに真っ向から異議を唱えてきている。
ペンス氏も2020年1月6日の議会襲撃事件の際に、トランプ氏から副大統領として投票結果の最終承認手続きをしないよう圧力をかけられたことを司法当局に対し証言。
キャンペーンでも「大統領といえども憲法の上に存在すべきではない」と反旗を翻している。
またまだ全米的には無名のラマサワミ、バーガム、スコット各氏は、7人の中では頭一つ出ているデサンティス氏の「優柔不断さ」を取り上げ、脚を引っ張る作戦に出そうだ。
これにクリスティ、ペンス両氏が参戦するといった構図になりそうだ。
(Trump's Republican Opponents Are Still Refusing To Attack Him — Even After Four Indictments)
トランプに代わる本命はバージニア州知事?
1回目の討論会に参加資格条件が整わなかった候補者には以下の3人がいる。
アイサ・ハッチンソン元アーカンソー州知事
ウィル・ハード元州下院議員
それぞれ支持率や政治資金が参加条件に満たなかったためだが、次回には参加する可能性は十分ある。
さらにここにきてまだ立候補はしていないが、そのチャンスを狙っている政治家がもう一人いる。
しかも背後で共和党エスタブリッシュメントが蠢いている。その人物とはバージニア州知事のグレン・ヤンキン氏だ。
政治情報オンラインの「アクシオス」が特ダネとして報じたところによると、共和党本流の政財官界の大物たちが水面下でトランプ前大統領に代わる「第2大統領候補」の立候補で動いている、というのだ。
アクシオスによれば、共和党エスタブリッシュメントの面々はこう認識しているというのだ。
①トランプ氏を同党指名候補にしても本選挙では勝てない。
②期待していたデサンティス・フロリダ州知事も政治スタンスが定まらず、支持率が低迷しており「トランプ打倒」には程遠い――などからこの「Bプラン」を模索し始めたという。
ヤンキン擁立には、億万長者のロナルド・ラウダ―氏やトーマス・ピーターフィ氏らが政治献金提供を確約、メディア王ルパート・マードック氏も擁立に動く可能性があるという。
2023年11月のバージニア州上下両院選で共和党が大勝するのを見極めて、ヤンキン氏を大統領選に擁立するとの予測が出ている。
(Scoop: Big GOP donors push for Trump alternative)
だとすれば、トランプ氏欠席の今回の討論会は全くの茶番劇でしかなくなる。
しかし、討論会が指名レースの流れを大きく変えたことは何度もある。
例えば、カマラ・ハリス氏(副大統領)は、2019年6月の民主党大統領候補の討論会で黒人のバス通学問題を取り上げてバイデン氏を徹底攻撃し、一気に支持率を上げた。
(When Kamala Harris and Joe Biden Clashed on Busing and Segregation)
ホワイトハウス奪還を目指す共和党は、トランプという「負の遺産」を引きずりながら前に進もうと必死だ。
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