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 テレビなどのメディアでは、物が捨てられず、室内が物で溢れかえっているゴミ屋敷様子が度々伝えられている。

 また、そういった家に「お掃除隊」なるものが派遣され、きれいに清掃していくビフォア・アフターなどは番組の人気企画の1つとなっている。

 そういった家は、カビの生えたペットボトルや脂でギトギトの食品の容器、大量の衣類、良くわからない雑貨や本など紙類が、床が見えなくなるほど高く積みあがっている。

 こうした状態だと、菌も発生しているだろうし、ネズミやゴキブリが走りまわり寄生虫もたくさんいそうだ。火災の危険もあるし、うず高く積みあがったゴミの山から転落の危険もある

 物を異様にためこむ「ためこみ症(強迫的ホーディング)」は以前は強迫症(COD)の一種にみなされていたが、ようやく理解が進み2013年に強迫症のカテゴリーから外されたようだ。

【画像】 ためこみ症は心の病であると2013年に認定される

 当の本人たちの多くは、こうしたため込み行為が精神疾患の一種だとは思っていないかもしれない。

 心理学の分野でも、最初はこれを病気とはみなしていなかった。2013年、精神科診断の聖典「精神障害の診断と統計マニュアル」(DSM)が改訂され、重度のためこみ症(強迫性ホーディング)は、それ自体が病気であると明記された。

 この病気の診断基準は、役に立たず、無価値に見えるが、捨ててしまうと、その人に深刻な苦しみを引き起こす物を、とても管理できない数、危険なほど大量に所有していることだ。

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当初は強迫症(OCD)の特殊型とみなされていた

 ホーディング(hoarding)のもともとの解釈は、片付けが苦手で、乱雑であることとはなんの関係もなく、強欲なことだった。

 ダンテが強欲者が住む四番目の地獄に堕ちると書いている、ケチな聖職者のように、ミダス王は黄金をためまくったが、この20世紀になって初めて、人間はどうでもいい無価値なものを手当たり次第に過剰に所有するようになった。

 最初、こうしたため込み症は、「コリアー症候群」と呼ばれていた。

 アメリカのハーレムに住むホーマーとラングレーコリアー兄弟が、1909年から家に引きこもり始め、1947年にかけて大量の物をためこんで、最終的にそのゴミための中に埋もれて死んだ。この兄弟の名前にちなんで名づけられた症状だ。

 20世紀半ばまでには、大量生産と戦後の好景気によって、それほどお金持ちでない人たちも、多くの物を手に入れることができるようになると、コリア症候群がさらに広まった。

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 心理学者は、ホーディング、つまり物をためこむ癖は、強迫症(強迫性障がい:OCD)の特殊型で、不安を追い払うために繰り返し、儀式のようにして行われる行為だと断定した。

 臨床性ためこみ症の患者は、世界人口の6%、つまり強迫症(OCD)患者の2倍にもなるというのに、こうした分類は数十年もこのままにされていた。

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2013年にためこみ症が強迫症のカテゴリーから外される

 キングス・カレッジ・ロンドンデヴィッド・マタイクス=コルズは、2010年のレビューで、極端なためこみ症に陥った人の少なくとも80%は、OCDの基準には当てはまらないと指摘した。

 こういう人たちは、強迫症の人たちよりもうつにやりやすく、意思決定をするのが苦手で、自分の行動が問題であると認識している可能性もかなり低いという。

 遺伝的関連の研究では、強迫症とは異なる遺伝パターンが示され、脳のスキャンでも異なる活動パターンが表れた。OCDの治療薬では、ためこみ症の改善には効果がなかった。

 2013年、ついにためこみ症が、強迫症のカテゴリーから分離された。

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ためこみ症の原因

 ためこみ症の原因は、ためこまれた物と同じくらい雑多である可能性がある。

 それは連続体として表れ、どうしようもなく散らかった家から、想像も及ばないほどの不衛生に至るまで、あらゆる症状に及ぶ。生きている動物の多頭飼いもこの一種かもしれないが、これはまた別の問題でもある。

 ためこみ癖がある家族が複数いる家系では、14番染色体の対立遺伝子(アレル)が特定された。

「我々の被験者の80%以上が、同じようなためこみ問題を抱えている一等親血縁者がいる」本研究の先駆者であるランディフロストゲイル・ステケティーは、著作『Compulsive Hoarding and the Meaning of Things』の中で述べている。

 ためこみ症の人は、一般の人とは異なる情報処理のやり方を受け継いでいる可能性があるか、細部に対する過剰な視覚過敏が、物に彼らにとっての特別な意味や価値を与えているのかもしれないという。

 だが遺伝とは関係がないとする他の研究もある。

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他の病気の症状として出ることも

 ためこみ症は、特定の外傷性脳損傷、トゥレット症候群ADHD、神経変性障害、全般性不安障害、臨床性うつ病認知症の症状として出てくることもある。

 興味深いことに、子ども時代の貧困は、ためこみ症とは関係がないようだ。

 しかし、ホロコースト生存者の中に、ためこみ症とPTSDとの間に関連性がある可能性がわかっていて、後発的に発症するためこみ症は、喪失感やトラウマと関連していることが多い。

 物をため込むのは、心の空虚さを埋めるための不毛な試みで、不確実な未来から自身を守るためのバリケードとして、物を積み上げていくのだと、心理学的には理解されている。

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ためこみは消費社会の自然の結果というも

 しかし、非常によくわかるそうした心の痛みから、少し視点を外してみると、大局的な説も出てくる。

 つまり、ためこみ症は、物があふれかえり、結局はゴミ埋立地が不足する消費社会の自然の結果だというのだ。

『Neurohistory in Action: Hoarding and the Human Past』の中で、歴史家のダニエル。ロード・スメイルは、生物学と文化を別々の原因として考えるのはやめようと提案している。

「遺伝子の発現は、文化や個人の生活環境と密接に関わりあっている」と彼は指摘する。強迫的に物をためこむ症状の増加は、私たちの肉体そのものと変化する物理的環境のとの相互作用によって、引き起こされるのではないだろうか?

 例えば、食料を調理する習慣が始まると、もはや親知らずという歯は必要なくなった。そのため、私たち人間の口は、親知らずが生えてくるスペースがなくなるほど小さくなった。このように、社会形態と行動パターンが体を形作るのだと、スメイルは書いている。

 サル、カラス、リス、カンガルー、ネズミ、ミツバチも皆、人間が何千年もそうしてきたのと同じように、物を集める生き物だ。

 だがそれは、極寒の冬を生き延びるためだったり、飢餓を乗り切るためのサバイバル行為で、テレビでやっているゴミ屋敷番組の類とはまったく違う。

 「役に立たない物を大量にため込むためこみ症は、この1~2世紀、とくにここ数十年の特徴のようだ」スメイルは指摘する。

 言い換えれば、歴史や文化においてなにかが変化し、蔓延する精神疾患としてのためこみ症が浮上することになった。

 物は、それらをため込む人にとって、特別な感情的意味をもつ、極めて個人的な特性を帯びている。そのため、それらを無下に捨てることなどできない。

 それらの物は、その人個人の自意識そのものに織り込まれていて、"もし、これらを全部捨ててしまったら、自分にはなにも残らない"という感情を助長する。

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物をためこむ人の心理

 物を手に入れる段階は、まだこの病の前半部分にすぎない。

 人は、今すぐに必要でないものに入れ込む。理由は、タダだったから、特別な体験を思い起こさせるから、いつか必要になるかもしれないから、なんとかうまいこと変身させれば、価値が高まるかもしれないからといったものだ。

 こうした物が蓄積され、将来の可能性を感じたり、感傷的になったり、思い出が呼び覚まされたり、いつか誰かが必要とするかもしれないすばらしい物を、ゴミとして処分してしまうのは、もったいないと、ぐずぐずと別れを惜しむのだ。

 あるいは、自分の持ち物をどうすればいいかについて、他人から口出しされるのが、ただ嫌いな場合もある。

 まれではあるが、物をため込む人が、所有物の数を減らしたいとたとえ思っていても、乱雑な大量の持ち物を仕分けするのは至難の業だ。

 重度のためこみ症の人は、気が散りやすく、集中するのが苦手な傾向がある。逆説的だが、彼らは完璧主義者でもあるので、間違いを犯すリスクよりも、決断を先延ばしにするほうを選ぶ。

 こと自分の持ち物のこととなると、タイプごとに分類するようなことはしない。彼らはひとつの物を大きなグループの中のひとつだとはみなさない。

 例えば、42枚の黒いTシャツのうちの1枚として見るのではなく、唯一無二の特異で、スペシャルなものとして見ている。

 黒いTシャツの1枚1枚は、それぞれ区別されていて、独自の歴史、重要性、価値をもつ。Tシャツ用の引き出しに、ほかの黒いTシャツと共に分類収納されることもなく、山積みの衣類の上に無造作に置かれ、空間的に引っ張り出される、といった具合だ。

 こうした、一見無秩序な状態は、他人がその山に触れたり、動かしたりして、知らず知らずのうちに目に見えない秩序を破壊されることを極度に嫌うことにつながる。

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ためこみ症の人は増えているのか?

 ためこみ症は、現実に増えているのだろうか? それとも、メディアの報道によって、私たちがそれをより意識するようになっただけなのだろうか?

 推定では、1900万人ものアメリカ人が、ためこみ症を患っているという。

 バージニア州フェアファックス郡に、ホーディング障害の対策委員会が初めて設立されたのは1989年のこと。

 現在、米国には同様の組織が100以上あり、2020年までに、米国の人口の15%が65歳以上になり、ためこみ症の黄金時代となるとの予想もある。

高齢者や知能が高く創造的な人に多い

 米国精神医学会によると、55歳から94歳までの人たちのほうが、34歳から44歳の若い人たちよりも3倍、ためこみ症が多いという。この病気は、10代で表れることもあるが、高齢になるほど症状がひどくなるという。

 近しい人との死別、離婚、不明瞭な思考、経済的困窮などによっても悪化するそうだ。

 人は長生きになり、自宅で老いるようになった。自宅は自由に好きなだけ物を集めることができる場所だ。

 そうした傾向は、今は亡き配偶者によって制御されていたかもしれない。その配偶者の持ち物や、成長してとっくの昔に家を出ていった子どものものが、捨てられずにためこまれていることもある。

 仕事、地位、人とのつながり、鋭い感覚、体力的な強さ、精神の鋭敏性など、その人の自主性が失われたときに、物をため込むという行為は、自分を支え、安心し、慰めややる気を感じるためのひとつの方法なのかもしれない。

 心理学者、研究者、ソーシャルワーカー、公共衛生従事者、プロのまとめ役、防火管理者、バイオハザード清浄会社、運送業者など、ためこみ症を取り巻く業界が誕生している。

 物をため込む行為は、どうしてこれほど悩ましいのだろうか?

 害虫の被害や汚染物質などに対する本能的な反発はもちろんのこと、障がいのある人が自分の家族である場合、ひどいいさかいや、疲れる力仕事を伴うこともある。

 ためこみ症は、一般の人にとっては理解しがたいものであるだけでなく、手に負えないものだ。

 物をため込む人は、知能が高く教養があって創造的であることも多く、人から押さえつけられることを嫌がる。

 その家の状態が、市当局の手が強制的に入るようなレベルにある場合、いったん片付いても、すぐにまた、ため込みが始まる可能性は高い。

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ためこみ症が反感を買う理由

 ためこみ症が一般的に反感をかうのには、また別の理由があるのかもしれない。

 ため込みそのものは、あまりにも身近なことだと言う学者もいる。私たちは皆、日々、たくさんありすぎる物と戦っている。それらは、Amazon、フリマアプリ、リサイクルサイトなどに引っかかってはいちいちポチって、宅配業者によって届けられ、家の中になだれ込んでくる。

 ゲットした物は、クローゼットや地下室、ガレージなどに山積みになっていく。

 2015年から2016年のセルフストレージ業界によると、米国の全世帯のおよそ10%が、持ち物があふれすぎて、少なくともひとつは収納スペースを借りているのだそうだ。

 私たちは、こうした異常なため込みや、あふれた物の中での生き埋めになるという話に怖れをなして、慌てて断捨離に走ろうとする。

 その究極がミニマリズムだ。生活が困難になるのでは?と思うくらい部屋に全く物をおかない人も登場し始め、ある意味病的なケースもあるが、あふれかえる物に辟易していて、その行く末に不安を覚えているのかもしれない。

References:What's causing the rise of hoarding disorder? - Big Think / written by konohazuku / edited by / parumo

 
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部屋中が物であふれてしまう「ためこみ症」の背後にあるものは?