収益事業等以外は原則非課税の宗教法人。税法上「公益法人等」に分類されるためですが、なかにはこの制度を悪用する宗教法人・僧侶もいるようです。“元マルサの僧侶”という異色の経歴を持ち、『税理士の坊さんが書いた宗教法人の税務と会計入門』(国書刊行会)著者の上田二郎氏が、実際にあった「宗教法人による所得の申告漏れ事件」を紹介します。

よくあるミスでも実名報道…宗教法人に向けられる「世間の目」

成田山新勝寺、1億円の申告漏れ――国税指摘

成田山新勝寺(千葉県成田市)が東京国税局の税務調査で、2011年3月期までの5年間で約1億円の申告漏れを指摘されたことがわかった。

税金のかからない宗教活動として提供した精進料理の材料費などを、収益事業の経費に計上していたという。過少申告加算税を含む追徴税額は約2,100万円だった。

関係者によると、新勝寺は収益事業として、希望する参拝者に精進料理を1人前1千円で提供し、同じ精進料理を宗教活動の特別大護摩の法要(3万円以上)を受けた参拝者には無料で提供していた。

精進料理の材料費や人件費は、宗教活動分も含めて収益事業の経費になっていたため、課税対象所得が過少になっていたようだ。

宗教法人法人税法上の優遇措置があり、物品販売業や料理店業などの収益事業は課税対象になるが、お布施などの宗教活動は非収益事業として収入に税金がかからない。

記事の見出しを見ると申告漏れ額が1億円もあって、一見、衝撃的ですが、この事案は単なる区分経理の誤りで、実際にはよくあるケースです。

新勝寺側は収益、非収益の区分を理解し、特別護摩法要の参拝者への精進料理は無料(祈禱料の一部)で提供し、その他の希望者には有料(料理店=収益事業)で提供して区分経理していたのでしょう。

しかし、その原価(材料費、水道光熱費、人件費など)のすべてが収益事業の経費になっていたため、提供した精進料理の数によって収益事業(料理店)にかかった原価と、非収益事業にかかった原価(護摩法要)に按分計算するよう指摘されたのだと思われます。

それにしても、単なる経費の区分誤りで実名報道になるのですから、宗教法人の申告漏れに対して、国税、マスコミともに厳しい姿勢で対応していることがよくわかります。

まるで反社…4,000万円超の「お気持ち」を隠した高僧の末路

曹洞宗大本山に追徴課税千数百万円――国税指摘

国内最大級の仏教系宗教法人曹洞宗」では、一般の僧侶らが大本山の高僧に会いに行く際、高額な「お気持ち」(献上金)を持参するのが習わしになっている。

大本山總持寺(横浜市鶴見区)のトップらが4年間で計4千数百万円の献上金を個人的に使うなどしていたところ、東京国税局から「いったん總持寺の会計に入れた上で、給料としてもらうべきだった」と指摘された。

源泉所得税の徴収漏れで、總持寺が納めた追徴税額は千数百万円。宗教界に横たわる不明朗税務の一端が浮かび上がった。(2016年2月)

国税は「貫主らへの献上金は法人の収入」と指摘し、高僧らの献上金のうち個人で使ったと判断した金額について給与と認定して源泉所得税を追徴課税しました。

一般社会ではあり得ないような行為が依然として行われているようです。もしこのような行為があった場合には、国税の指摘は当然で、コメントのしようもありません。

上田 二郎

僧侶/税理士

(※写真はイメージです/PIXTA)