相続した不動産が共有名義の場合、どんな制約があるのでしょうか。例えば、修繕や売却を検討しているにもかかわらず、共有者の一人が所在不明なら、実行は不可能なのでしょうか。共有不動産について詳しい弁護士に解説していただきました。

共有不動産の一人が音信不通…。勝手に売却は法的NG?

相談者のA(50代女性・架空)さんは、BさんとCさんとの間で、親から相続した9,000万円の土地付き建物を共有しています。各自の共有持分の割合は3分の1です。

Aさんとしては、いずれ、第三者に売却することも検討しています。

これまでに3人でどのように資産管理するかなどの具体的な話し合いをしたことはありませんが、資産価値を高める何らかの施策をしたいと、朧げながら3人で意識は共有しているつもりです。

ただ、Aさんには一つ気になっていることがあります。

ここ数年、Cさんと連絡が取れなくなっているのです。土地と建物は3人の共有名義なので、このままCさんと音信不通が続けば、勝手に手を加えることは難しいのでは、とAさんは懸念しています。ひとつの案として、建物の大規模リフォームを考えているものの、動くに動けず困惑しています。

そこでAさんは、不動産に詳しい弁護士に次の2点について相談したいと考えています。

(1)共有不動産では、全員の同意がないと修繕や売却はできないのか。

(2)もし所在不明のままの場合、共有を解除する方法はあるのか。

共有物を修繕・売却する場合に「共有者全員の同意」は必要か?

1.共有不動産の修繕を行う際のルール

(1)最低限の修繕と改良行為について

民法は、共有物の「保存」・「管理」・「変更」について、共有者間で意思決定を行う際のルールを定めています。

共有物の「保存」は各共有者が単独で行うことができますが、「管理」は各共有者の持分の価格に従って過半数により決する必要があり、「変更」は共有者全員の同意が必要です。

共有不動産を修繕する場合、それが共有物の価値を維持する行為であれば、「保存」に該当し、共有者の一人が単独で行うことができます。例えば、共有土地の庭の雑草を刈ったり、共有建物の掃除をしたり、雨漏りを修繕するなどです。

他方で、単に共有物の現状の価値を維持するにとどまらず、さらに改良してその価値を高める行為を行う場合は、「管理」に該当し、共有者の持分の価格に応じて過半数により意思決定を行う必要があります。例えば、建物の壁の汚損部分の塗替や軽微な内装変更などがこれにあたると考えられます。

これに対し、「管理」の程度を超えて共有物の現状を著しく変更する行為は、「変更」に該当し、共有者全員の同意により行う必要があります。

ただし、共有物の形状または効用の著しい変更を伴わない変更については、上記「管理」に含まれるため、各共有者の持分の価格に従って過半数により決することができます。

(2)大規模リフォームの場合

設問のAさんは「大規模なリフォーム」を検討しているとのことですが、共有物の「管理」と「変更」のどちらに該当するかが問題になります。

先に述べたとおり、共有物の形状または効用の著しい変更を伴わない変更については、「管理」に該当しますが、そうでなければ「変更」に該当します。どちらに該当するかは、変更を加える箇所及び範囲、変更行為の態様や程度等を総合して、個別に判断されることになります。

「大規模なリフォーム」の具体的な内容が、建物の外観や構造、用途を大きく変更するようなものであれば、「変更」に該当し、共有者全員の同意が必要になると思われます。

これに対し、建物の外壁や屋上の防水等の大規模修繕工事であれば、基本的に「共有物の現状または効用の著しい変更を伴わない」ものにあたり、持分の過半数によって行うことができると考えられます(法務省民事局「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」31頁参照)。

設例の場合、Aさんとしては、資産価値を高めることを検討しており、その一つの案として大規模なリフォームを検討しているとのことであるため、建物の外観や構造、用途等の大きな変更を想定していると思われます。そうであれば、共有物の「変更」に該当し、共有者全員の同意を得る必要があると考えられます。

したがって、Aさんとしては、BさんとCさんの同意を得たうえでリフォーム工事を実施する必要があります。仮にCさんと連絡が取れない場合には、後述する裁判手続の利用を検討することになります。

2.共有不動産の売却を行う際のルール

共有不動産を売却することは、共有物の変更に等しいため、共有者全員の同意が必要であると解されています。

したがって、設例のAさんは、BさんとCさんの同意を得なければ、共有不動産を売却することはできません。

仮にCさんと連絡が取れない場合には、後述する裁判手続きの利用を検討する必要があります。

  所在不明の共有者がいる場合、大規模リフォームや第三者への売却は可能?

1.所在不明の共有者がいる場合に「大規模リフォーム」を行うには

先に見たとおり、大規模リフォームが共有物の変更にあたる場合は、共有者全員の同意が必要になります。しかし、共有者の一人が所在不明の場合は、その人の同意を得ることができません。

このように共有者の一人の住所・居所を知ることができず、その所在が不明の場合には、裁判手続きを通じて、共有物の変更を行うことが考えられます。

裁判手続きを行うためには以下の対応が必要です。

①まず、連絡の取れない共有者について、できる限り公的な記録等により所在調査を行う必要があります。その共有者の住民票の取得や、現地調査、他の共有者からの情報提供など、必要な調査を尽くしてもなお所在が不明な場合に限り、この裁判手続きを利用することができます。

②共有物の所在地を管轄する地方裁判所に、申立てを行います。この申立ては、「所在不明の共有者以外の他の共有者の同意を得て、共有物に変更を加えることができる」との裁判を求めるものです。

③裁判所は、同申立てがあったこと等を公告します。

④一定の期間内に、所在不明の共有者から異議の届出がないときは、裁判所は、その他の共有者全員の同意により共有物の変更を行うことができる旨の裁判をすることができます。

Aさんとしては、Bさんが大規模リフォームに同意しているのであれば、裁判所の決定を得て、AさんとBさんの同意により大規模リフォームを進めることが考えられます。

2.所在不明の共有者がいる場合に「不動産を売却する」には

共有不動産を第三者に売却する場合も、共有者全員の同意が必要であるため、共有者の一人が所在不明の場合は、第三者に売却することができません。

このような場合には、裁判手続きを通じて、所在不明の共有者の持分を譲渡する権限の付与を受けることが考えられます。つまり、共有者は、裁判所の決定を得ることにより、所在不明の他の共有者の持分を第三者に譲渡することが可能になります。

裁判手続きを行うためには、上記1の手続きと同様に、連絡の取れない共有者の所在調査を尽くしたうえで、共有物の所在地を管轄する地方裁判所に申立てを行う必要があります。

また、共有者は、裁判所の定める額の金銭を裁判所の指定する供託所に供託する必要があります。この供託金の額は、不動産の時価を所在不明の共有者の持分に応じて按分して得た額とされています。

なお、以上の裁判手続きは、共有不動産全体を特定の第三者に譲渡する場合に限り認められますので、共有者の中に持分譲渡を拒む者がいる場合には、上記裁判は認められません。

設例では、Aさんとしては、Bさんも特定の第三者に共有不動産を売却することに同意しているのであれば、裁判所の決定を得て、Cさんの持分と一緒に第三者に売却することが考えられます。

これに対し、Bさんが持分譲渡に反対している場合には、第三者に対する売却を実現することはできません。

なお、共有物の処分ができずに行き詰った場合には、Aさんとしては、共有物分割訴訟を提起し、AさんがBさんとCさんの持分を取得する代わりに、その価格をBさんとCさんに賠償することを主張することが考えられます。最終的には裁判所の判断になりますが、Aさんが価格賠償により全ての持分を取得することができれば、Aさんが不動産の単独所有者となり、処分等を自由に決めることができます。

まずは弁護士に相談を

以上、共有物に関するルールと所在不明の共有者がいる場合の裁判手続きについて概説しました。共有不動産の具体的な活用を検討する際には、民法上のルールに従って共有者間で適切に意思決定を行うことが重要であり、意思決定の手続き・過程に不備があると、のちに損害賠償等のトラブルに発展しかねません。

設例のAさんのような状況にある方は、弁護士等の専門家に一度ご相談されることをお勧めします。

(※写真はイメージです/PIXTA)