2015年に旗揚げし、近年は年1回の本公演以外にも、メンバー個々がプロデュースする舞台企画を次々と発表している劇団ゴツプロ!。2023年8月30日(水)より下北沢・本多劇場にて、ONEOR8の田村孝裕作・演出による新作『イノレバカ』を上演する。主宰の塚原大助と、自身も劇団を主宰し今回住職役で出演する田中真弓に話を聞いた。

イントロダクション
都心からそう遠くはない、知る人ぞ知るお寺。
その境内。
ここの住職の説法が有名で、かつては人で溢れかえり、住職を慕って出家した者たちが今では僧侶となり、この寺で働いている。
元反社、元実業家、元ミュージシャン、元ホームレス……
皆一度は地獄を見たが、今ではその個性を失うことなく、生き生きと暮らしている。
彼らが企画した修行体験や断食イベントも人気で人に感謝される人生を送っていた。
何もかも住職のおかげだ。
 
その住職が、ボケてしまった。


――お二人の出会いは?

塚原:カゾクマンですね。2017年の『世襲戦隊カゾクマンⅡ』に出演したときにご一緒しました。真弓さんもパ―トⅡからですよね?

田中:そうですね。

塚原プリエ―ルさんが主催する作品で、田村(孝裕)くんがその作品でも作・演出。その後2019年の『世襲戦隊カゾクマンⅢ』でまたご一緒して。パ―トⅡ・Ⅲとも地方公演もあって交流を深めました。

田中:旅公演があって、いろんなところに行って、面白かったですね。

――その時の塚原さんの印象はいかがでした?

田中:カゾクマンではすごい役だったんだもん(笑)

塚原:イ―ゲンね(笑)

田中:やることがえげつなくて、ミドラ―に酷いことをするんですよ!

塚原:悪役で、相手役のミドラ―にDVをするという役だったんです。

田中:だから役柄の印象が強くて(笑)それでまた、靴が置いてあるのを見ると、でかい!これは人間が履くものだろうかという!だから、初対面の印象は“大きい”“怖い”でしたね(笑)

――今回出演することになったのはどのような経緯ですか?

塚原:実は当初、住職役を男性で考えていたんですよ。ゴツプロ!は男ばかりの劇団なので。田村くんと話しているうちに、瀬戸内寂聴さんをイメ―ジしているということをおっしゃっていたので、これは女性のほうが面白いんじゃないかと思って。それで、真弓さんにやってもらえれば最高だなということでオファ―しました。

田中:ありがとうございます。もう二つ返事でした。願ってもないことで。
ただ私はクリスチャンの家庭だったので、正直仏教にあまり馴染みがなくて、他のお芝居でお葬式のシ―ンがあるときに「数珠持ってきて」と言われて「持ってない」と言ったら驚かれたこともありました。天に召されると教えられてきているから、明るいんです。(お葬式で)拍手したり歌を歌ったりもしちゃうし。

塚原:ゴスペルとか。全然違うんですね。

――台本を読んでみていかがでしたか?

田中:私はもう、やばいと思って……。セリフが多くて。いや、もう、歳とともにほんとに覚えが、ね(苦笑)

塚原:でも昨日から台本離してらして。あんちょこがそこら中に貼られているなと(笑)今回セリフ量も多いし、一人で語るシ―ンが多いからなおさら難しいですよね。会話になったらごまかせる部分もあるけど。

田中:手助けが、ね。

塚原:でも真弓さん、しゃべっているだけで可愛らしさがにじみ出るというか、優しさとかキャラクタ―が出るので、面白いなと思って聞いています。僕ら身体が大きいじゃないですか。だからその真ん中に真弓さんがいたらそれだけで面白いだろうというイメ―ジが頭の中にあって、その通りになっているなと。

田中:役はだんだん瀬戸内寂聴さんという匂いがしてきました。背景も含めて。だから面白いですよね。それぞれの僧侶のこともわかってきて。

塚原:僕ら(僧侶役)もそうですが、お寺を訪ねてくる人がみんな訳ありで、面白いですね。僕の役柄も、元ヤクザで。真弓さんを母のように思っている役。忠誠を誓う昔気質の男なんじゃないかと思っていて、昔はきっと親分にそう接していて、僧侶になった今は住職をリスペクトしている。血の気は多いけど一本気なところがある役ですね。

田中:自分もそうですけど、当て書きというか、みんな無理に(役を)作るのではなくて、ぴたっとくる感じがしています。

――共演者の皆さんの印象や、真弓さんから見たゴツプロ!の印象はいかがですか?

田中:面白いですね。芝居の質はみんなそれぞれ違うんだけど。

塚原:窪塚(俊介)くんの受けの旨さというか。

田中うん!ね!濃い芝居しないのね。

塚原リズムとか間とか、いつも感心して見ていて。(那須)凜ちゃんはやっぱりね、エネルギッシュで。

田中:そうね、豪快。

塚原:古山の憲(憲太郎)ちゃんのあの空気感はなんですかね(笑)何事にも動じずに淡々と自分のペ―スで芝居を作っていくという。それぞれ作り方が違うから面白いですね。

田中:ゴツプロ!のやる演目はいつも違っていて。今回観てこういう集団かなと思ったら次は全く違うことをする。マンネリがないというか。それは大ちゃん(の意向)なんですか?

塚原:役者集団なので、いろんな作家さんや演出家さんと違う世界観を表現していくのは役者としては面白みだと思うし、なかなかそういう劇団もないと思います。

田中:だいたい座付き作家がいるもんね。

塚原:それはそれで、その世界観でやっていくのはいいと思いますけど、僕らはいろんな世界観を繰り広げていくという。

田中:それは絶対魅力ですね。

――真弓さんも劇団「おっ、ぺれった」を主宰されています。

田中:私がテアトル・エコ―の養成所の3期生だったんですけど、1期後輩で永井寛孝くんという子がいて。歌が好きなんだけどミュ―ジカルを受けると落ちちゃって、でも歌いたいよねということで、最初は曲だけ決めて、詞を永井くんが書いて有り物の曲で無理やり繋げたみたいな公演を一回やったんです。次のときに、永井くんが(脚本を)書いてきたんですよ。それが意外と面白くて。そこからはもう、書いてよっていうことで。

塚原:もう長いんですよね?

田中:30……40年近くなるんじゃないかな。年に3回やった年もあれば、解散したのかと思われたくらい、4年に1回になっちゃったときもあります。永井くんの筆が走ったときがあって、4月・6月・8月と連続してやったこともあった。筆が走るときもあれば、走らない時もあるので(笑)大変ですよ、10月も(笑)(※10月13日(金)より小劇場B1にて『おっ、ぺれった学園〜秋の文化祭は胸騒ぎ〜』を上演予定)

塚原:楽しみにしています!劇団にした経緯は何があったんですか?

田中:当時渋谷でミュ―ジカルを抜粋してやっているところがあって、そこのオ―ディションを永井くんと受けにいったんです。そこで「10年早い」って言われて(笑)それで、お酒を買って駐車場で夜を明かしながら、自分で(劇団を)作るしかないですよって。

塚原:劇団員は今何人くらいですか?

田中:12人くらい。ミュ―ジカルっていうと踊ったりもしないといけないし、オペレッタというと唱法が違う。だから、後ろ指さされないように、千鳥足程度の踊りと鼻歌程度の歌ということで、「おっ、ぺれった」にしたんです。

――真弓さんは声優としても活躍されていますが、俳優と声優の違いはどんなところですか?

田中:特に感じるのは、(声優は)型を置いていくということ。絵と自分、つまり相手役がいない。自分じゃないんですよ。アニメだと絵が出来上がっていて、洋画だと違う人が芝居していて、そこになるべく合うようにというのは、お芝居とは違う技術なんです。スキルではあると思うけど、自分の肉体を通してお芝居に使えるかというと、全く使えない。

塚原:画面のカウントが進んでいく中でやるんですもんね。

田中:声優の仕事が増えた時、だんだんと役者としての焦りを感じた時期もありました。

塚原:でも芝居って声がすごく重要じゃないですか。稽古でも、真弓さんの声はすごく聞きやすいし、内容がちゃんと伝わってくる。役者には感情表現がついてくるけど、感情が強すぎて言葉が届いてこない役者さんもいて、そうすると観ていてストレスなんです。だから、感情が乗っていても物語がちゃんと伝わることって、役者として重要なことだと思います。

――今までの芝居で印象に残っているのはどんな役ですか?

田中:これ(今回の役)になるのかもしれないなと思うけど、前だと、永井くんが書いた『恋はコソっと』という作品があって。私は新入社員の中田という役で、永井くんは課長の役。自分はすごく綺麗な先輩を好きになって、課長はかっこいい男の人を好きになるんだけど、自分たちがブサイクでモテないことを、同性が好きだからという言い訳にしたという話で。

塚原:何年くらい前ですか?

田中:40年近く前ですね。当時30歳くらいで。再演したんですよ。

塚原:数年後に?

田中:数年後ならいいんだけど、数十年後に(笑)それで、定年間近なのに新入社員の中田に変えようかとか(笑)

塚原:今回のチラシが出来上がった時に、たまたま下北沢で真弓さんに会ったんです。チラシをすごく喜んでくれてて。

田中:(両手を上げて)こうやって持って歩いてました。

塚原:その時に「やっと私はこれで、声優界に演劇人だって言える」っておっしゃっていただいて、涙ぐむくらい嬉しかったんです。

田中:ほんと。声優さんもわりと劇団もっているんですけど、声優さん同士でやっていることが多いんですよね。

塚原:この作品が真弓さんの代表作って言ってもらえるようにしたいですね。

田中:そうなります!観ない人は損をしますよ!(笑)という感じですね。力を入れて宣伝もしていますし、頑張ります。

塚原:今までにないゴツプロ!の色だし、今回15人出演しているのは今までのゴツプロ!で一番多いんですけど、それを田村くんがどう料理していくのか。“祈る”という純粋な行為が、演劇を通してお客さんに沁みわたっていったらいいなと思います。

稽古写真撮影:MASA HAMANOI