ビッグバン直後、ブラックホールがどのようにして、急速に大きく成長したのかという謎が間もなく解けるかもしれない。
史上初めて、宇宙の初期に重いブラックホールの「種」が存在したことを示す証拠が発見されたという。重いブラックホールとは、太陽の約4000万倍の質量を持つブラックホールのことだ。
まだ10億年も経過していない初期の宇宙では、太陽の10億倍もの質量を持つ「超大質量ブラックホール」が発見されている。
もしもブラックホールが一生を終えた星が崩壊することでしか誕生しないのだとしたら、これほどの短期間で超大質量ブラックホールにまで成長できるはずがない。
では、なぜ現実には初期宇宙に怪物のようなブラックホールがあるのか? 今回発見された重いブラックホールの種は、その謎を解明するヒントになるという。
【画像】 宇宙初期になぜ超大質量ブラックホールが存在するのか?
太陽の数百万倍から数十億倍も重たい「超大質量ブラックホール」は、まさに怪物のような大きさだ。だが、ただ大きいというだけなら天文学者にとってそれほど手強い相手ではない。
何十億年もの時間をかけて、周囲のガスや塵をたっぷりと飲み込み、他のブラックホールとの合体を繰り返したりすれば、そのこと自体は不思議ではないからだ。
天の川銀河の中心にあるいて座A*の質量は太陽の450万倍もあるが、そこまで成長するのに十分な時間があったし、太陽の50億倍とさらに巨大なM87銀河のブラックホールも然りだ。
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ところが、ビッグバンから10億年も経たない初期の宇宙で、それらに匹敵する巨大なブラックホールが見つかっている。本当に手強いのはこちらの方だ。
だらだらと周囲の物質を食べていたのでは、それほどの短期間でそこまで大きくなれるはずがない。
ならば初期宇宙に存在する巨大なブラックホールはどうやって誕生したのだろう? そのヒントとされているのが、重いブラックホールの「種」である。
太陽の数十億倍の質量を持つ超大質量ブラックホールのイメージ図 / image credit:NASA
重いブラックホールとは?
ここで言う「重いブラックホールの種( heavy black hole "seeds" )」とは、太陽の約4000万倍の質量を持つブラックホールのことだ。
よくあるブラックホールは大きな星が一生を終えて、自らの重力で崩壊することで誕生する。
一方、この重いブラックホールの種は、巨大なガス雲が直接崩壊することで作られると考えられている。一方、宇宙初期の星が崩壊してできた種を、軽いブラックホールの「種」という。
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また、このような重いブラックホールの種がある銀河のことを、「アウトサイズ・ブラックホール銀河(Outsize Black Hole Galaxy)」という。
4億5000万年後の銀河「UHZ1」に重いブラックホールの種が
今回、史上初めて発見されたのが、この銀河の有力候補なのである。
そのアウトサイズ・ブラックホール銀河の有力候補は、ビッグバンから4億5000万年後に形成された「UHZ1銀河」で、ここには「クエーサー」が発見されている。
クエーサーとは、銀河の中心にある宇宙で一番明るいとされる天体のこと。
その正体は「活動銀河核」の一種で、巨大なブラックホールが周囲の物質を飲み込むことで激しいエネルギーが放たれているのだと考えられている。
ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのアコス・ボグダン氏らのチームが、UHZ1銀河のクエーサーを調べたところ、そこから放たれているX線が太陽質量の4000万倍のブラックホールが放つものに相当することが判明。
さらにジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡がとらえた光から推定された質量も、それを裏付けていた。
こうした特徴は、アウトサイズ・ブラックホール銀河から理論上予測されるものとピッタリ一致している。
このことから、研究チームはUHZ1銀河は史上初めて発見されたアウトサイズ・ブラックホール銀河だろうと主張している。
これが本当だとすれば、宇宙初期に直接崩壊で重いブラックホールの種が形成されたことを示す強力な証拠がついに発見されたことになるのだそうだ。
この研究の査読前論文は現在『arXiv』(2023年8月4日投稿)で閲覧できる。
References:1st evidence of heavy black hole 'seeds' in the early universe | Space / written by hiroching / edited by / parumo
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