原子力潜水艦原子力空母は、燃料補給の不要さなどから複数の国が運用しています。しかし、その後の解体に関してはどこも苦労しているようです。

日本も関わったこともある原子力潜水艦の解体

2023年7月、イギリスの軍需企業であるバブコック・インターナショナルは、アメリカの造船会社であるHIIと戦略的契約を締結し、アメリカとイギリスにおける海軍艦艇と民間船舶の原子炉の廃炉と建設の機会について協力すると発表しました。

この協定により、両社は米英の既存の原子力艦艇における廃炉について、相互補完的な関係を構築し、米英以外の国にも技術支援を行うとしています。

こうした協力関係の強化には、オーストラリアが米原子力潜水艦(原潜)の購入を表明したことや、アメリカの原子力空母であるニミッツ級の退役が近づいていることに備えてのもののようです。よく原発の廃炉などの費用問題などがニュースになることはありますが、実はこうした原子力の艦艇も発電所ほどではありませんが、解体が難しいのです。

原潜に関しては、アメリカ、フランスなどで複数の解体実績があるものの、イギリスでは原潜の退役から30年経てようやく解体に着手しました。原潜は原子炉を廃炉しなければならないので、被爆や放射性物質の流出などの被害が出ないよう、解体までのプロセスを入念に決める必要があるのです。また、解体そのものコスト面の問題も常に考慮しなければいけません。

この原潜の解体問題に関して、日本も関わったことがあります。ロシア旧ソ連製原潜の解体です。ソ連解体と冷戦終了に伴い、ロシア海軍の軍事力は、一説には10分の1程度に縮小され、多数の原潜が退役しました。

しかし、原子炉の非核化処理を伴う解体作業に必要な予算はソ連解体から間もないロシアにはなく、1990年代の極東ロシアには41隻もの原潜が未処理のまま係留され、大半の艦が、腐食による浸水を起こしており、放射能漏れ事故も起こしていました。

1993年には、解体された原潜の液体放射性廃棄物を日本海に投棄したことも明らかになり、事態を重くみた日本政府はロシアに海洋投棄の中止を強く求めると共に、低レベル液体放射性廃棄物処理施設「すずらん」の供与を決定しました。

その後、2002年にカナダのカナナスキスで行われたサミットでG8により合意された「大量破壊兵器及び物質の拡散に対するG8グローバル・パートナーシップ」の一環として、極東地域の退役原潜解体事業に日本のほか、アメリカ、オーストラリアニュージーランド、韓国などが費用を拠出し、ロシア側の自助努力を促しつつ国際協力をするという方針になりました。

アメリカの原子力空母も続々退役

日本は日露非核化協力委員会を通じ、退役原潜の解体事業を「希望の星」と命名。ヴィクターI級やヴィクターIII級などの原潜6隻の解体に協力しました。ロシアの艦艇に関しては欧州でも放置されているものが多く、解体実績のあるフランスを始めとしたEU諸国が資金援助を行っていました。

2023年8月現在、アメリカでは世界初の原子力空母である「エンタープライズ」の解体に向けた話が進んでいます。原子力空母の解体はアメリカだけでなく世界でも初です。民間が請け負う形に落ち着きそうですが、2017年2月の同艦の除籍以降、なかなか方針が決まらず、艦の維持費に年間数百万ドルを費やすという、かなりお金のかかる退役艦となっていました。

アメリカ軍では2025年から、ニミッツ級原子力空母の退役も行われる予定です。原子炉の数は2基と、8基備えている「エンタープライズ」よりは少なくなっていますが、計10隻が就役しており、「エンタープライズ」である程度解体のシステム作りをする必要があります。

また、2023年に原子力潜水艦を購入する意向を固めたオーストラリアに関しても、同艦の退役後の処遇に関しては、人里離れた国有地に処分場を設ける方針で2024年までに場所を選定する予定です。しかし地元住民の反対などで調整が難航する可能性のほか、既に一部の市民団体からは懸念の声が出ているとのこと。原子力で動く艦艇は、原子炉さえ動いていれば、燃料補給が不要な観点から安全保障上、重要な位置に置く国は多いですが、退役後は大変なのはどこの国でも同じのようです。

ちなみに、日本でも軍艦ではないものの、 日本原子力船開発事業団が1970年代に運用していた原子力船「むつ」が、試験航行中に原子炉上部の遮蔽リングで、主として高速中性子が漏れ出る「放射線漏れ」が発生した1974年以降、風評被害を恐れるむつ市に帰港を拒否され、その後なかなか母港が決まらずたらい回しになったこともあります。なお、同船は1993年3月に原子炉が撤去されましたが、そのときは大きな問題はなかったようです。

老朽化した船体で浮かぶロシアの多目的原潜「クズバス」(画像:ロシア国防省)。