アート作品の価格はなぜ、数億円、ときには数十億円という超高額価格となるのか、不思議に思ったことはないでしょうか。元金融担当大臣秘書官であり日本初アートオークション会社の株式上場を主導した倉田陽一郎氏(現・Shinwa Wise Holdings社長)の著書『アートが変える社会と経済 AI、NFTメタバース時代のビジネスと投資の未来』(悟空出版)より、一部抜粋して紹介する本連載。今回は、「アートの価値の現在地」、また「アート作品の価格が高騰するワケ」について紹介します。

専門家ではなく「お金持ちが価値を決める時代」へ

さて、インターネットが普及した現在、アートの価値はどのように移り変わっているのでしょうか。誰もがアートをインターネットで検索できるようになり、アートフェアに行けば、有力な画商のブースを比較してアートを買うことができるようになりました。そしてオークション記録もインターネットで検索できるため、だいたいの値段も把握できます。

こういう時代になった今では、専門家の助言だけでコレクションする必要性が低くなり、コレクター自身が「アートの専門家」にもなれてしまいます。

画商のような目利きと呼ばれる専門家が、アートを選び推薦して販売していた時代は、情報が限られていたこそのことです。価値のあるアートや最新のアート情報を知るには、審美眼を持つ目利きの専門家に聞くしかありませんでした。

ところが現在は、誰もが「ニューヨークで何が流行っているか」とか、「誰がどこで賞を取った」とか、「その作品はいくらくらいで売られているか」などという情報を、簡単に入手できます。面白いことに、今まで目利きの専門家であった方も、自ら情報を探すのではなく、情報を持っている人からの発信をもとに、アートをコレクションする傾向にあります。そして近頃は、アーティスト本人も情報発信をし始めています。

こういう時代背景において、すでにアートコレクターは、目利きを信じる時代から、数ある情報を整理して自分で見極めることが主眼となってきたのです。

さらに、アートを買う手段にしても変化が見られます。これまで日本では百貨店や画廊でアートを購入していましたが、アートフェアやインターネットで展開できる販売サイトやオークションでも購入できるようになり、購入する手段の幅が大きく広がっています。

オークションに至っては、インターネットの情報で世界中どこからでも参加できるようになり、アートコレクターは世界でつながるようになりました。

アート作品の価格形成が変わり始めている

誰もが気軽にアートコレクションができるようになり、アート業界でその影響力が高まってきたのが、アートコレクターです。

アートコレクターには、美術商よりもお金持ちの富裕層もいます。しかも、アートコレクター自らが美術大学の卒業展などに出向き、そこで若い作家を見出し、パトロンとして育成に務めている人も出てきています。

変化の激しい時代の中で、最も変化したのは「アート作品の価格形成の在り方」です。前述したように、以前は目利きの美術商が主体となり、百貨店や画廊やギャラリーでアート作品を売って、アート作品の価格を決める時代でした。信頼できる美術商から購入することが最も安心できるコレクションの在り方でした。

1990年代以降、時代はオークションとアートフェアの時代になり、アートコレクターはアートフェアでアートの価格を一つ一つ確認できるようになりました。そして、オークションの価格を確認すれば、今のおおよその市場価格が把握できるようになったのです。そのため、オークションの価格は、美術商がつける値段ではなく、アートコレクターが競りをして価格をつける値付け方式となりました。

しかし、オークションはセカンダリーマーケットで換金ができるほど、すでに世の中で相当認知され、評価と価値が定まったものだけにしか値段がつきません。美術商が展開するアーティスト育成のためのプライマリーマーケットでの値付けは美術商が担い、評価の定まった流通可能な作品はオークションで市場価格が見える時代になったのです。

オークションでの価格形成は、公開の会場で、アートコレクター同士が競り上げるので、公正な取引として、価格の客観性が高まったと言えます。

アート作品の価格が高騰するワケ

オークションの価格形成にも穴があります。それは、落札を勝ち取る者(ウィナー)と、最後に諦める者(アンダービッダー)の二人により価格が決まるということです。

たとえばビル・ゲイツジェフ・ベゾスのような大富豪の二人が、まだ新人で、何の大した価値も付いていないアーティストの絵を気に入ってしまった場合、オークションでは二人の勝負になってしまいます。意地の張り合いで、どんどん値段が上がり、市場価格をはるかに超えて競り上がっていきます。

本来であれば100万円くらいの市場価格の作品が、大富豪二人の意地の張り合いでオークションパドルを下ろさなくなることで、1億円以上の値段に跳ね上ったとしても、オークションではそれが落札価格として記録されることになります。

オークションパドル:入札時の番号札。

当然その結果、市場では大富豪コレクター二人が意地の張り合いでついてしまった値段だと語り継がれることになりますが、オークション価格というのはあくまで富裕層のコレクターが二人で価格形成する形態であるという事実も残ります。

当然、ほとんどの参加者は、そのアーティストの市場価格や作品の状態など、さまざまな要因を知ったうえで参加します。そのため、通常は市場価格の範囲内で落札されることがほとんどです。しかし、あくまでオークションという価格形成の方式は、現代の資本主義を象徴するかのような競争原理の中で、価格が決まっていくということなのです。

(※写真はイメージです/PIXTA)