芸能人や著名人が事件を起こした際、大きく報じられることが多い「保釈金」。かなり高額な保釈金が話題となるケースもしばしばあり、SNSなどでは「保釈ってこんなにお金かかるの?」という声も聞かれますが、中には「金額はどうやって決まるの?」「もし支払えなかったら…?」といった疑問を持つ人もいるのではないでしょうか。

 いまさら聞けない「保釈金」のあらゆる疑問について、佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

「没取されたら痛い」金額であることが重要

Q.そもそも、「保釈」や「保釈金」とは何ですか。なぜ保釈にお金を払う必要があるのでしょうか。

佐藤さん「『保釈』とは、起訴された後に、勾留(身柄拘束)されている被告を釈放することです。刑事裁判が始まる頃には証拠の収集も済み、長期間に及ぶこともある裁判の間、被告の身柄を拘束し続けると負担も大きいことから、保釈の制度が認められています。

保釈は、被告やその弁護人、一定の親族などが請求でき(刑事訴訟法88条)、請求があれば、法定された除外事由(被告が一定の重い罪を犯した場合、被告が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある場合、被告の氏名または住所が分からない場合…など)がない限り、認められます(同法89条)。また、裁判所は職権で保釈を許可することもできます(同法90条)。

このように、原則保釈が許される建前になっていますが、実際には、罪証隠滅の恐れなどを広く認めることで、保釈が許されないケースも少なくありません。

保釈を許す場合には、保証金額(いわゆる『保釈金』の額)を決めなければなりません(刑事訴訟法93条1項)。『保釈金』とは、被告の出頭を確保するためのお金で、被告が裁判所に出頭しない場合には没取されます。無事に裁判が終われば、有罪・無罪にかかわらず、保釈金は返還されます」

Q.保釈金の額は、いつ、誰が、どのように決めるのですか。例えば、事件を起こした芸能人や著名人の高額な保釈金が話題になることがありますが、知名度なども関係するのでしょうか。

佐藤さん「保釈金の金額は、保釈を許す決定をする際に、裁判所が決めることになります。金額は、『犯罪の性質、情状、証拠の証明力、被告の性格、資産を考慮して、出頭を保証するに足りる相当な金額でなければならない』とされており(刑事訴訟法93条2項)、裁判所は個別の事情を踏まえて判断します。相場としては、100万円から300万円程度になります。

先述したように、保釈金の目的は『被告の出頭確保』にあるため、被告にとって『没取される不利益が看過できない金額』であることが重要になります。例えば、200万円を『没取されたら痛い』と感じるか、『没取されても大したことない』と感じるかは、被告の経済状況によるところが大きく、被告の資産や経済状況は、保釈金額を決める際の重要な考慮要素になります。

また、重い刑罰が科され得る事件では、被告が『保釈金を没取されたとしても逃亡しよう』と考える可能性があるので、保釈金の金額が高めに設定される傾向があります。

芸能人や著名人の保釈金が高額になることがあるのは、被告となった芸能人や著名人の資産が大きく影響しているものと思われます。知名度の高さによって、保釈金額が大きく変わることはないでしょう」

Q.もし、保釈金が払えなかった場合はどうなるのですか。減額、免除といった制度はあるのでしょうか。

佐藤さん「『保釈を許す決定は、保証金の納付があった後でなければ、これを執行することができない』(刑事訴訟法94条1項)とされており、保釈金を支払わないと被告の身柄拘束は解かれません。裁判所が減額したり、免除したりする制度もありません。ただし、『裁判所は、有価証券または裁判所の適当と認める被告以外の者の差し出した保証書をもって保証金に代えることを許す』ことができます(刑事訴訟法94条3項)。

そこで、全国弁護士協同組合連合会(全弁協)では保釈保証書発行事業を行い、逃亡や証拠隠滅の可能性が低く、保釈が認められる被告であっても、お金を用意できないと身柄拘束が続いてしまうという不平等を解消しようとしています。

保釈保証書発行事業は、全弁協が保証委託者(被告の家族など)の支払い能力を審査し、通過すれば、委託者から保証料と自己負担金を預かり、全弁協が保証書(上限あり)を発行するというものです。自己負担金は、被告の逃亡などにより没取されない限り、全額返金されます。万一、被告が逃亡し、没取となった場合、全弁協が保証金を納付し、委託者に後から返還を求めることになります」

オトナンサー編集部

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