スポーツを習得する上で、成績が停滞する時期のスランプ、実はそのスランプのなりやすさ、スランプになりにくい心の強さは研究において相関関係が認められています。今回は、スランプやメンタルの強さに関する論文を3本紹介いたします。

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スランプとは何か?

スランプとは運動の成績だけではなく、メンタル面にも多大なダメージを与えます。スポーツにおけるスランプは、初心者や熟練度が低い人がなりやすく、長年競技を行っている人にはなりにくいイメージがあります。しかし、ある論文では、スポーツの熟練度とスランプのなりやすさには相関関係がないという研究結果が出ています。

競技レベルが高いとスランプになりやすいのか?
この論文は、スポーツの熟練度や競技のレベルが高ければ高いほど、スランプになりにくいという仮説を立てて以下の条件で統計処理を行った結果に基づいたものです。

スポーツの競技に携わる(a)熟練度、(b)性別、(c)年齢、(d)スポーツ経験、(e)スポーツの種類(チーム対個人)の項目別に統計調査を行いました。Eの項目はバスケやラクビー、サッカーといった人との接触があるコンタクトスポーツ、陸上や水泳、テニスなどの対人接触を最小限に制限して行うノンコンタクトスポーツであるかどうかも区別しました。

この研究で参加者は677名のアスリートで、国際レベル(n=60)、国内レベル(n=99)、県レベル(n=198)、クラブ/大学レベル(n=289)、初心者レベル(n=31)で競技を行っているスポーツ選手が対象となりました。

その結果、スランプのなりにくさや精神力の強さと性別、年齢、スポーツ経験の間には有意な関係があることが明らかになりました。しかし、アスリートの達成レベルや参加しているスポーツの種類は、精神力と有意な関連は見られなかったと明記されています。

つまり、スランプになりやすいスポーツなりにくいスポーツの区分はなく、どんなスポーツの熟練度でもスランプになる人はいるということがわかったのです。

このことから、スランプのなりやすさや精神力の強さは、経験を積むこと、スポーツを開始した年齢の差によって変わってきます。スポーツの達成度、上手さがスランプをなりにくくする要因ではないのです。

悪循環を引き起こすのがスランプ

 また、強いプレッシャーに晒されるスポーツ選手のメンタルケアに関しても関心が非常に高くなって来ています。スランプというパフォーマンスの一時的なスランプの解消には睡眠の質も大きな相関があるという研究結果も出ています。そのため、スポーツ分野での精神メンタルケアに特化した医師や研究がされ始めています。

その論文によると、プロスポーツ選手は、キャリアの中で複数のストレス要因にさらされ、メンタルヘルスに重大な影響を及ぼしていることが判明してます。スポーツの競技や練習中でメンタル面で問題があった場合、放置をすればするほど、スランプになりやすいことが判明しました。ストレスはパフォーマンスの低迷や成績の低下を引き起こし、それがさらにストレスを悪化させるという悪循環に陥ってしまうのです。

特に、スポーツ選手のトップレベルになればなるほど睡眠の質の悪化、及び睡眠時間が短くなるという報告がされています。

スランプからの脱出法は良質な睡眠?

スランプから脱出する、もしくはなりにくくするには、正常な身体生理とエネルギーバランスを回復するためには十分な睡眠が必要であると明言しています。1日の睡眠時間を約7~9時間以上にすることです。人間の睡眠の制御には自律神経系が大きな作用を持っており、脳内物質において、ドーパミンエピネフリンヒスタミンセロトニンなど、特定の神経伝達物質が睡眠覚醒サイクルを調節・維持しています。これらは中枢神経系で覚醒を維持する役割を担っています。

これらの脳内物質の働きで、人間は2種類の睡眠のレム睡眠、ノンレム睡眠という二種類の睡眠を繰り返しています。体の機能や筋肉を休めるレム睡眠、脳も休ませるノンレム睡眠を1サイクル通常70~120分の周期で制御しているのです。ここで重要なのは、レム睡眠とノンレム睡眠の周期がアスリートは約4サイクル必要という結果です。これが乱れると、精神疾患やパフォーマンスのスランプに陥りやすくなることがわかっています。

さらに、スポーツにおける特定の要因が、概日リズムと睡眠スイッチのメカニズムを混乱させる可能性があることもわかっています。例えば、海外での試合への移動における時差ボケ、元々選手が持っているメンタル面での不調、競技前の不安、ブルーライト付き機器の使用、病気の治療で服用している薬物、怪我、練習スケジュールなどです。心身のスランプはこの睡眠の質も大きな関係性があり、スランプがあっても十分な睡眠をとることでストレス因子を減らし改善することができ、加えてメンタル面で大きなタフさを維持することが出来るのです。

まとめ

スランプから脱出するために焦る気持ちがよく理解できます。さまざまなアスリートのスランプに立ち会ってきたからこそ感じますが、スランプとは自分自身が大きく成長する前段階なのだと思います。そして、経験を積んでいくことでなりにくくなります。さらに、試合などの強いプレッシャーは睡眠の質を低下させて、スランプになりやすくなる要素になるので、意識して7時間以上の睡眠をとることをおすすめします。

参考文献
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0191886909000750
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9904424/

[文:スポーツメンタルコーチ鈴木颯人のメンタルコラム]

※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会
代表理事 鈴木颯人

1983年イギリス生まれの東京育ち。7歳から野球を始め、高校は強豪校にスポーツ推薦で入学するも、結果を出せず挫折。大学卒業後の社会人生活では、多忙から心と体のバランスを崩し、休職を経験。
こうした生い立ちをもとに、脳と心の仕組みを学び、勝負所で力を発揮させるメソッド、スポーツメンタルコーチングを提唱。
プロアマ・有名無名を問わず、多くの競技のスポーツ選手のパフォーマンスを劇的にアップさせている。世界チャンピオン9名、全日本チャンピオン13名、ドラフト指名4名など実績多数。
アスリート以外にも、スポーツをがんばる子どもを持つ親御さんや指導者、先生を対象にした『1人で頑張る方を支えるオンラインコミュニティ・Space』を主催、運営。
『弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉』『モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術』など著書8冊累計10万部。

スポーツにおけるスランプとメンタルの強さの関係