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今年のモントレーに登場したとびきりの一台

コレクターズカー・オークションの世界的リーダー格であるRMサザビーズは、8月のモントレー・オークションを頂点と位置付け、飛び切りの逸品を用意することで知られている。2023年のモントレーには愛好家を唸らすレアモデルが数多く用意された。その中でポルシェ・エンスージァストの注目を集めたのが、1956年に作られたポルシェ 550Aプロトタイプル・マン・ワークスクーペだった。

【画像】1956年ル・マン総合5位、クラス優勝のポルシェ 550Aプロトタイプ・ル・マン・ワークスクーペ 全41枚

現在までにポルシェのワークスチームが走らせた競技車両は、そのほとんどがシュツットガルトにあるポルシェ・ミュージアムに収蔵されている。しかし実はミュージアムにも漏れがある。そんなミュージアム未収蔵車のひとつが、1956年ル・マン24時間レースに参戦するために製作されたポルシェ 550Aプロトタイプル・マン・ワークスクーペなのである。

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ポルシェ 550Aプロトタイプル・マン・ワークスクーペ    Robin Adams/RMサザビー

ポルシェ 550Aプロトタイプ・ル・マン・ワークスクーペとは

ポルシェ1953年ル・マンに550RSクーペで挑み、1.5リッターながら大排気量のマシンを相手に総合15、16位、S1.5クラスの1、2位という快挙を成し遂げた。続く1954年は1.5リッターと1.1リッターの550/4 RSスパイダーを投入し、総合12位とS1.5クラス優勝。総合14位でS1.1クラス優勝と快進撃を続ける。翌1955年は総合4-5-6位を勝ち取り、S1.5クラスの1位から3位までを独占する快挙を成し遂げた。

それらの結果を踏まえてデザイナーのヒルドは1956年シーズンに向けクーペのデザインに更なるモデファイを加えた。フルワイズのウインドスクリーンが要求される新規定に対応するとともに、ル・マンでの最高速度を伸ばすために、キャビンを縮小し前面投影面積を減少。機構的にも戦闘力を高めるために、軽量スペースフレームとサスペンションに改良を加え、5速トランスアクスル採用のほか、数多くの改良が施された。特徴的な部分としては、通風スリットが刻まれたプレクシグラス製のサイドウィンドウ、二重構造のリアバルクヘッド、エンジンを容易に点検できるヒンジ付きアクセスパネルがある。

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ポルシェ 550Aプロトタイプル・マン・ワークスクーペ    Robin Adams/RMサザビー

1956年のタルガ・フローリオではウンベルト・マリオリが駆る550Aワークス・プロトタイプスパイダー(C/N:550A-0101)がデビューを飾り、フェラーリ290MMやマセラティ200S、メルセデス・ベンツ300SLなどの大排気量マシンを相手に、15分ものリードを築いて総合優勝を飾った。同年7月のル・マン24時間レースには2台のポルシェ550Aプロトタイプル・マン・ワークスクーペで挑んだ。ゼッケン25(C/N :550A-0104)は、リヒャルト・フォン・フランケンベルグとウォルフガング・フォン・トリップスがドライブし、総合5位、S1.5クラスの優勝を遂げ、パフォーマンス・インデックス2位を獲得するなど素晴らしい成績を成し遂げた。

現役後はアメリカで活躍

ル・マンの後に550A-0104は特徴的なファストバックのルーフを外し、8月のニュルブルクリンクで4位に入賞したのを最後にファクトリーカーとしての任務を終える。そしてアメリカで著名なジョン・ザ・キングフィッシュ・エドガーに売却されレースで好成績を残した。エドガーのチームを引退後は何人かのオーナーを経て、アメリカで定番だったエンジン・スワップが行われ、シボレー・コルベアフラット6エンジンが積まれる。その後も、何人かのオーナーが改造を重ね、姿は大きく変わっていた。

レースカーの宿命とはいえ、オリジナルの維持という面では不遇な状況にあった550A-0104だが、2004年にポルシェ初期コンペティション・モデルの世界有数のコレクターであるフリオ・パルマズが購入したことで風向きは変わった。彼はすぐさま社内レストア工房で、1956年ル・マン仕様に戻すという大仕事に取り掛かった。レストアを終えた550A-0104は、公の場にほとんど姿を見せなかった。しかし、2015年のアメリアアイランド・コンクール・デレガンス、2018年のレンシュポルト・リユニオンVI、2022年のモントレーでのル・マン100周年展示などに雄姿を見せている。

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ポルシェ 550Aプロトタイプル・マン・ワークスクーペ    Robin Adams/RMサザビー

予想落札額は10億9500万円

ポルシェ 550Aプロトタイプは4台が作られ、最後の1台である550A-0104が今回、RMサザビーズのモントレー・オークションに出品された。事前に発表された予想落札額は、550~750万ドル(約8億300万円~10億9500万円)と強気の設定だった。これは1956年ル・マン参戦時の姿に完璧に復元され、申し分のないレーシング・ヒストリーを持つ車両だけに、あながち不当な値付けとは言えまい。

過去のオークション結果から初期レンシュポルト・モデルの最高額を見ると、550スパイダーで533万5000ドル、718系ではRS60が540万ドルで落札されているので、550A-0104の予想落札額は順当なものといえる。モントレー・オークションの最終日となる8月19日に550A-0104は、オークション会場のステージに上がり入札が始まった。しかし最低落札額まで入札が続かず、流札に終わってしまった。

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ポルシェ 550Aプロトタイプル・マン・ワークスクーペ    Robin Adams/RMサザビー

流れた要因を探ると、フレームはオリジナルだがボディは後年に作られたものだけに、純潔さを求めるコレクターが拒否反応を示したと考えられる。また1950年代のポルシェに興味を持つ層が引退する時期となり、購買層が薄くなったことも影響しているかもしれない。もし5年前に出品されていれば、違った結果になっていたに違いない。

もっとも550A-0104の価値を考えると、ポルシェ・ミュージアムに入るのがもっと美しい結末といえるだろう。それはさておき、RMサザビーズでは価格応談で引き続き販売中だ。


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