ロシアとの戦闘で供与されたレオパルト2戦車を使い始めたウクライナ軍ですが、さっそく実戦に即した改造車体が現地で登場しています。原型とどこを変えたのか、そしてその必要性について見てみます。

旧ソ連系戦車より乗員の生存率高いぞ!

2022年2月以降、ロシア軍と激しい戦闘を続けるウクライナ軍ですが、今年(2023年)6月以降、反転攻勢を開始しています。そういった中、ウクライナ軍の新たな戦力として最前線に投入されるようになったのがドイツ製戦車「レオパルト2」。ただ、よくみて見ると、さっそく現地改造が施されている模様です。

改造の内容はどのようなものなのか、筆者(白石 光:戦史研究家)なりに推察してみました。

そもそも「レオパルド2」は世界屈指の高性能な戦車で、しかも冷戦終結に伴い、ドイツオランダなどが軍備削減の一環で中古車体を安価で周辺諸国に売却するようになったため、ヨーロッパの多くの国々が購入。あっという間に事実上のヨーロッパ標準戦車というべき地位にまで上り詰めています。

そういった経緯から、ロシア軍と激しい戦闘を繰り広げるウクライナは、自国の戦車不足を補う意味からも、その供与を切望していましたが、ついに2023年1月25日ドイツ政府は同車の同国への引き渡しを承認するとともに、他国が保有する同車の供給も認めました。

これを受け、ウクライナは戦車要員をポーランドなどに派遣し、レオパルト2の教育訓練をスタートさせると、前述したように2023年6月上旬から始まったロシアに対して攻勢をかける際に、レオパルト2をさっそく最前線に投入しています。

激戦が続く最前線では当然ながら数多くの損耗・損傷車両が生じており、インターネットで検索すればウクライナの地で撃破されたレオパルト2の画像を数多く見ることができます。ただ、その一方で同車の実戦における戦訓も収集されており、その中で従来ウクライナ軍が使用していたT-64T-72などの旧ソ連ロシア)系主力戦車と比べて、乗員の死傷率が低いことが評価されている模様です。

死傷率の低減以外に士気向上も

というのも、戦車兵は戦闘機パイロットほどではありませんが、特殊な技能を求められる兵士であり、その養成には時間も費用もかかるため、できれば死傷者を低減させたいからです。たとえ戦車が全損してしまっても、乗員さえ無傷なら、別の戦車をあてがうことで比較的短時間で戦力を回復させることが可能です。

一方、乗員が死傷して戦線から離脱するようだと、いくら高性能な戦車が十分な数あったとしても、それを乗りこなせる乗員が不足して、動かすことができず戦力にはなり得ません。

ウクライナには、ドイツのみならず各国から「レオパルド2」が引き渡されているので複数の型式が同軍によって運用されていますが、そのなかで最も多くの数を占めるのが、同車の初期型であるA4です。

ただ、レオパルド2A4は、それより後に登場したA5型やA6型などと比べると、どうしても防御力が見劣りします。そこでウクライナ軍は、レオパルド2A4に対し、独自の防御力強化を施しています。これが、冒頭に記したウクライナの独自改修です。

同じレオパルド2でも、タイプによって防御力に違いがあるため、こういった改修を施すことで、被弾した際の乗員の生残率を向上させるだけでなく、初期型2A4に乗る兵士らの士気を向上させる効果もあると筆者(白石光:戦史研究家)は推察します。

では、具体的にはどのような改修が施されているのでしょうか。レオパルド2の初期型A4と後期型A6で比べた場合、防御力の差は、前者では垂直に切り立っていた砲塔前面の防盾部に対して、後者は砲塔前面左右と同側正面に楔(くさび)形の空間装甲板を装着したことが主な違いです。加えて、さらなる改良型のレオパルト2A6Mでは、車体底面に装甲板を増設して、地雷に対する防御を強化しています。

「実際の効果は薄い」それでもやる価値はあり

ウクライナ魔改造レオパルド2A4” の詳細な情報は公開されていないようですが、外見では、車体側面への爆発反応装甲(ERA)の装着、砲塔防盾部とその前側面への装甲の追加、操縦手席周囲へのパネルの装着などが確認できます。

また内部は、砲塔重量の増加に対処するため、砲塔旋回用の油圧ポンプやスタビライザーが強化されている模様です。車体の底面は確認できませんが、ウクライナ軍は反転攻勢でロシア軍の地雷に苦労しているので、レオパルド2A6Mのように底面に対地雷用の装甲板を装着しているかもしれません。

一説によると、今回のレオパルド2A4に加えられた改修は対外発表用のプロパガンダ的なもので、実際の効果は薄いとも評されているようです。しかしウクライナ軍は、これまでの厳しい戦訓によって、どのような防御力強化が対ロシア戦で有効かを熟知しているはずです。特に爆発反応装甲にかんしては、多数の貴重なノウハウを会得していると考えられます。

ゆえに今回、ウクライナ軍がレオパルト2A4に施した現地での防御力向上改修は、「ウクライナ流の実戦派防御力強化」あるいは「ウクライナ魔女の魔改造」とでも形容できるでしょう。筆者は、決して無駄ではなく相応の効果があるものと推察しています。

ウクライナ陸軍のレオパルト2A4戦車。砲塔前面に、後付けの鉄製フレームとゴムマットを取り付けているのがわかる(画像:ウクライナ軍参謀本部)。