脚本家として多くの作品を生み、俳優、監督、バンド活動など幅広く活躍する宮藤官九郎。特にこの数年は携わるドラマ、映画、舞台に途切れがない。現在、NHK BSプレミアム再放送中の「あまちゃん」(2013年)も連日注目を集めている。そんな中、初の“企画”・監督・脚本を務めたドラマ「季節のない街」(ディズニープラスにて独占配信中)の公式サイトで「これを世に出したら、自分の第二章が始まるような気がしています」とコメントを寄せた。新たな始まりに期待が高まるが、その前にこれまでの活動を振り返ってみたい。(以下、作品のネタバレを含みます)

【写真】まさかの変わらなさ…!2018年の宮藤官九郎

■2023年は怒涛の勢いで携わる作品が相次ぐ

2023年の宮藤の活躍ぶりは、まさにすごいの一言。1月3日NHK総合で放送された正月時代劇「いちげき」(脚本)に始まり、1月13日公開の映画「イチケイのカラス」(出演)、4~5月には舞台「もうがまんできない」(作・演出・出演)、6月2日公開の映画「渇水」(出演)、Netflix6月22日から配信中のドラマ「離婚しようよ」(大石静との共同脚本)、7月7日より公開中の映画「1秒先の彼」(脚本)、8月9日より配信スタートしたドラマ「季節のない街」(企画・監督・脚本)、そして9月1日(金)公開予定の映画「こんにちは、母さん」(出演)、10月13日(金)公開予定の映画「ゆとりですがなにか インターナショナル」(脚本)と続く。

それぞれの準備や撮影は、かなり前から取り掛かっているはずなので一気にこなしているわけではないと思うが、いずれにせよ、この業界においてはオファーが絶えない=求められているということである。

■連続ドラマの初脚本「I.W.G.P.」で注目

1970年生まれ、宮城県出身の宮藤は、現在も所属する松尾スズキが主宰する劇団「大人計画」でキャリアスタート。1991年より参加し、舞台の作・演出・出演の他、バラエティー番組の放送作家も務めるように。

そして2000年に放送され、“I.W.G.P.”の略称で知られるドラマ「池袋ウエストゲートパーク」(TBS系)で連続ドラマ初の脚本を務めて注目。続いて翌年公開の映画「GO」で「第25回日本アカデミー賞」最優秀脚本賞を受賞し、一躍脚光を浴びた。

それから破竹の勢いとでもいおうか、脚本担当作品を次々と生み出している。ちなみにザテレビジョンドラマアカデミー賞では、「池袋ウエストゲートパーク」以来、「木更津キャッツアイ」(2002年、TBS系)、「タイガー&ドラゴン」(2005年、TBS系)、「あまちゃん」(2013年、NHK総合ほか)、「ゆとりですがなにか」(2016年、日本テレビ系)、「俺の家の話」(2021年、TBS系)など12作品で脚本賞に輝き、同部門歴代最多受賞を記録している。

■小ネタで笑いを盛り込みながら、人間ドラマを紡ぐ

宮藤脚本で特徴の一つが“小ネタ”が随所にちりばめられていること。例えば、現在NHK BSプレミアムにて再放送中の「あまちゃん」で、アイドルグループのメンバーとしてレッスンする主人公・アキ(のん)をプロデューサーの荒巻(古田新太)が「薄汚ねぇシンデレラの娘」とののしる場面。これはアキの母親を演じる小泉今日子1985年に主演したドラマ「少女に何が起ったか」でのせりふをオマージュしたもので、8月2日再放送回でもSNSで盛り上がりを見せた。

「俺の家の話」では、同じ長瀬主演の「池袋ウエストゲートパーク」のネタが登場して視聴者を沸かせたことも記憶に新しい。

そんな往年のドラマファンの心をくすぐるものをはじめ、小ネタが分からない世代、あるいは気付かなかったりしても、調べたりしてもう一度見ると楽しめるという側面もある。

2019年放送の大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」(NHK総合)にも笑いが盛り込まれたが、そのテンポに浸っているうちに不意にホロリとさせられる。人間ドラマの紡ぎ方がうまいのだ。「池袋ウエストゲートパーク」や「木更津キャッツアイ」(2002年、TBS系)のような若者たちの葛藤や絆、「11人もいる!」(2011年、テレビ朝日系)や「俺の家の話」のような家族のこと。笑いを差し込みながら人物像をしっかりと際立たせ、そこで展開するドラマに没入。そして感動へ導く。その塩梅が見事だ。

■時代を巧みに組み込み、心揺さぶる

また、時流を捉えた描写も視聴者の心を揺さぶる。この秋に映画で続編公開が予定されている「ゆとりですがなにか」は、ゆとり第一世代のアラサー男子3人が人生に懸命に立ち向かう姿を描いた。コロナ禍での放送となった「俺の家の話」では、主人公・寿一(長瀬智也)の妹・舞(江口のりこ)が「なんでもかんでも、コロナのせいにすんじゃないよ」と言う場面があった。同作は現代の課題である介護もテーマの一つにしている。

あまちゃん」の後半では、放送の2年前に起きた東日本大震災を扱い、傷ついた人々と復興への力を丁寧に紡いだ。「いだてん―」では、日本人初のオリンピック選手となった前半主人公の金栗四三(中村勘九郎)が関東大震災で壊滅した街を走ることで、四三の思いを乗せて時代と物語を融合させた。

巧みな構成力は、いくつもの名場面を生んできた。笑いあり、涙ありの心に残る描写で人々を飽きさせることなく、第一線を走り続けている。

最新作「季節のない街」は、こういった宮藤の集大成ともいえる作品だ。大人計画に本格的に参加するきっかけは、大学生になって見た黒澤明監督の映画「どですかでん」(1970年)が強烈な印象に残り、その原作である山本周五郎の小説「季節のない街」を読んでいたときだったとインタビューで明かしている。それからずっと同小説の映像化を願い、ようやく実現したのだ。

宮藤は、小説で描かれる戦後日本の片隅にあった貧しい“街”を、12年前に起きた災害で建てられた仮設住宅の“街”に置き換えた。現代日本の時流を映し出しながら、主人公・半助(池松壮亮)の飼いネコ・トラを皆川猿時によって擬人化したクスっと笑えるエピソード1篇(第3話)を入れつつ、第2話で仲野太賀演じる青年と母親の溝で泣かせたり、仮設住宅に暮らす人々のさまざまなドラマを見せる。

希代の脚本家であり、監督作品「真夜中の弥次さん喜多さん」(2005年)、「少年メリケンサック」(2009年)、「中学生円山」(2013年)、「TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ」(2016年)では独特の世界観を出しつつ、「カルテット」(2017年、TBS系)や「すべて忘れてしまうから」(2022年、ディズニープラスで配信中)、映画「イチケイのカラス」「渇水」などでは、役者として味わいのある演技がキラリと光っている。

これから“第二章”へと向かう宮藤のさらなる進化が楽しみだ。

◆文=ザテレビジョンドラマ部

宮藤官九郎 ※2023年ザテレビジョン撮影