今から2年後の「2025年」には日本の人口の「約2割」が75歳以上となり、超高齢化社会が到来します。その後も高齢化はさらに進む見込みで、いわゆる「老老介護」が増えると明らかに想定されます。しかし、経済ジャーナリストの荻原博子氏は、過度に心配する必要はないといいます。なぜでしょうか。荻原氏の著書『年金だけで十分暮らせます』(PHP研究所)より、日本における介護問題の今後の展望について解説します。

これから日本の介護環境は激変する

これから20年で、日本社会はどう変わっていくか、みなさんが最も心配な「介護」の面から見てみましょう。

みなさんは、「2025年問題」をご存じですか?2025年には、いわゆるベビーブームで生まれた団塊の世代の方々が、75歳以上の後期高齢者となり、日本の全人口の18%を超えると言われています。日本の人口の約2割が75歳以上になるのです。

65歳以上も高齢者に含めると、なんと人口の3割が高齢者で占められます。この高齢化社会2040年まで続き、2040年には人口の約4割が65歳以上という超高齢化社会がやってきます。

けれど、その先は、団塊の世代が徐々に減っていき、介護施設なども余っていくはずです。

ですから、現在の介護保険の仕組みさえ守られれば、今の40代、50代は、もしかしたらそれほど介護で困らないようになっているかもしれません。

団塊の世代は資産を介護に当てられる

確かに、団塊の世代の介護を考えると、自分たちの未来も暗くなるかもしれません。

しかし、多くの団塊の世代は、他の世代にはない強みを持っています。

それは、貯金や資産が意外に多いということです。

今の高齢者世帯は、平均貯蓄額が2,414万円。65歳以上の17.9%が4,000万円以上の金融資産を持っています。しかも、その金融資産のほかに、ほとんどが持ち家なので、イザという時には家も売れます。なかには、先祖伝来の田畑があるという人もいます。

しかも、日本の給料が一番高かった時に退職金を手にし、一番高かった給料を基準とした年金を死ぬまでもらい続ける人が圧倒的に多いのです。

そういう意味では、これまで蓄えてきた資産を介護に当てれば、なんとか乗り切れるという人は多いのではないでしょうか。

地域ぐるみの明るい「老老介護」に向けて

もう1つ、今の団塊の世代の強みは、若くて元気なこと。ややもすると、今の50代よりも元気という人もいます。

これから増える団塊の世代の介護のために、国が推進しているのが「地域包括ケアシステム」です。

これは、住み慣れたところで自分らしく最後まで生活できるように、地域の力を活用して、お年寄りを支えていこうという、「介護の切り札」とも言われています。

これまでは医療や介護が必要だと、本人が医療機関などに出向いたり施設を探して入居したりしていましたが、施設自体が足りなくなってくるので、逆に、医療機関から医師や看護師が自宅に派遣され、さらには介護ヘルパーなども自宅を訪れ、本人は自宅で生活しながら様々なサービスを受けられるようにしようというもの。

そのサービスのつなぎ役となる「地域包括支援センター」は、ブランチ・サブセンターを含めると全国各地にすでに7,000カ所以上もあります。

支え手として求められる「ボランティア」の役割とは

そこで期待されているのが、地域の専門家だけでなく、支え手としてのボランティアの存在です。介護保険では、高齢者が望んでも、庭の草むしりや家族の衣類の洗濯などは介護サービスの対象ではないためできません。けれど、地域のボランティアなら支え手になれます。

例えば、岐阜県大垣市は、ライフサポート事業として、地域ごとに〝支え合い活動〟をつくっていて、30分100円で働く有償ボランティアもいます。

大垣市では、主婦や定年退職者など約60人が有償ボランティアに登録しており、月平均150時間働いています。

介護されるのも支えるのも老人という「老老介護」ですが、団塊の世代は、リタイアしても家でくすぶっているよりは地域のために役に立ちたいという前向きな人も多い。

介護する側は、年上の弱ったご老人を支えることで自分の生き甲斐ができるし、お小遣いも稼げるので経済的なゆとりができる。介護されるほうも相手が少し若い同じ地域に住むご老人ということで気が許せる。

こうした人たちに、元気なうちは介護の手助けをしてもらい、地域ぐるみの介護が進めば、「老老介護」の未来も、決して暗いものばかりではなくなるかもしれません。

2040年、2万人の医者が介護の担い手に!?

2025年には、「看護師バブル」が弾けると言われています。今まで、看護師は、いろいろなところで不足していました。そのため、育成が急がれ、1991年には11校しかなかった看護大学や大学の看護学科が、2020年にはなんと274校にも増え、入学定員数も、1991年には558人だったのに、今や2万4,878人になっています。

結果、2025年頃には14万人もの看護師が余ると言われている(2014年時点での試算)のです。

看護師だけでなく、バブルが弾けそうなのは医者も同じ。2023年の医学部定員数は9,384人(国公立・私立合計)で、2007年の7,625人より年々増加しているのだそうです。

厚生労働省の試算では、このまま医学部の定員数が維持されると、医者の需要と供給がマッチングするのは2033年(上位推計)で、2040年になると1.8万人近くの医者が過剰になり、「医者余り社会」になっているとのこと。

そうなれば、働く場所のない医者や看護師が、地域の介護老人を支えるということになるかもしれません。

20年後は、「介護ロボット」の世話になる?

「両親はお金があるから、介護もなんとか切り抜けられそうだけれど、自分たちは収入が少ないから、将来は暗い」

そう思っている40代、50代も多いことでしょう。けれど、今の40代、50代には、団塊の世代が持っていない、お金ではない強みがあります。

それは、今の40代、50代が介護に突入する20年後、30年後には、介護関連の医学とテクノロジーが飛躍的に進歩しているということです。

今から約30年前のことを振り返ってみましょう。1995年、多くの人が、初めてインターネットというものを目(ま)の当たりにしました。

それまでインターネットは、大学の研究者間ではやりとりされていましたが、多くの人がインターネットを身近に感じたのは、マイクロソフト社がWindows95を発売してからです。そして、そのインターネットは、今や手のひらに載せて自由自在に操作できるスマートフォンになりました。

スマートフォンでインターネットが操れるようになっただけでなく、電話や写真、動画の撮影、録音、翻訳もできて、ラジオも聴けて電卓代わりにもなる。

しかも自分の顔を認証し、話し相手にもなってくれるようになったのです。

こんな変化を、30年前に、誰が想像できたでしょう。

しかも、今は、30年前とは比較にならないほど、倍速でテクノロジーが進歩しています。最近、高齢ドライバーの運転事故が問題となっていますが、20年後には車はほぼ自動運転になっているでしょうから、事故の心配もなくなっているはずです。

テクノロジーの進歩は、介護の現場もガラリと変えるでしょう。

先日、ある施設で、介護用のマッスルスーツロボットを着用させてもらったのですが、60キロのものを20キロくらいの感じで持ち上げることができて驚きました。

介護の現場は「きつい、汚い、給料が安い」の3Kだと言われますが、20年後には、入浴、排泄、歩行支援、食事、癒し、見守りなど、すべての面で介護ロボットが飛躍的な進歩を遂げていることでしょう。

今介護の現場では、介護人材の不足が深刻になっています。けれど、驚いたことに、旧ホームヘルパー資格も含めると介護の資格を持っている人はなんと約400万人もいるのです。

介護が抱える課題の1つが、身体への負担です。介護者を持ち上げる際に、腰を痛めてしまう人が多いというのです。そのため、せっかく資格があるのに、力仕事が多いため働くことをためらう人は少なくないようです。

しかし、介護がどんどん機械化してくれれば、主婦がパート感覚でちょっとだけ働くということも容易になるでしょう。

iPS細胞により介護人口が激減する

介護を劇的に変えるのは、機械だけではありません。医学の分野も、20年の間に飛躍的に進歩し、誰もが長生きできる時代が到来するかもしれません。

がんも、つい最近まで、死に至る不治の病(やまい)と言われていました。けれど、現在は5年生存率が6割近くで、半分以上の人が治っています。しかも、早期発見なら9割が治る病気になりました。

がんと闘いながら働いている人は、2020年時点で44.8万人もいます。厚生労働省も、働く人のために、夜間でもがん治療を受けられる方向で検討を始めています。

がんは、体内に入ってくる異物をチェックするT細胞の老化が引き起こすという説がありますが、これも、山中伸弥教授らが開発したiPS細胞を使って遅らせることができるとわかってきました。

すでに、iPS細胞で目の網膜をつくったり、不治の病と言われているパーキンソン病治療の研究が進められたり、脊髄損傷の治療に使って完全麻痺を治そうという試みが始まったりしています。

その進歩の速度を見ると、20年後には、再生医療が飛躍的に進化していて、病で傷んだ臓器まで、自分の細胞で新しくつくり出したものと取り換えられるようになっているかもしれません。

そうなると、元気で働けるお年寄りが増え、介護人口そのものが減っていく可能性もあります。

荻原 博子

経済ジャーナリスト

(※写真はイメージです/PIXTA)