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これまでのアイスマンの予想復元は間違っていた可能性 / image credit:WIKI commons CC BY-SA 4.0

 1991年、アルプス山脈にあるエッツ渓谷の氷地で1人の男性の遺体が発見された。彼は5300年前を生きていたことが判明し、アイスマン「エッツィ」と名付けられた。

 驚くほど保存状態の良好なミイラ化したその遺体は、その後、研究者たちにヨーロッパ銅器時代への新たな窓を開くことになった。

 2012年にエッツィの遺伝子解析が行われたが、使用したサンプルに現代のDNAが混入して正確ではなかったと考えられるため、今回新たに、より高度な解析技術を用いてもう一度遺伝子解析を行った。

 その結果エッツィは現在トルコの一部となっている地域から移住してきた農民の子孫であることが判明。浅黒い肌をし、薄毛だったことが明らかになったという。

【画像】 今から5300年前を生きたアイスマン「エッツィ」

 エッツィは、1991年中央ヨーロッパ、エッツタール・アルプスの氷地から発見され、紀元前3350~3120年の間に生きていた人だったと推定された。

 それ以来、見事に保存された彼の体は、綿密に研究されてきた。背中を矢で射られて死んだとき、おそらく45歳くらいだったと考えられている。

 発見されたとき、エッツィのそばからザックのフレーム、毛皮の帽子、矢筒や短剣、剥片、矢が入った道具袋、斧が見つかった。

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 同位体分析から、斧はトスカーナ南部で作られたことがわかった。

 全身の皮膚には61個の入れ墨が入れられていて、胃の内容物の分析からは、アイベックスや鹿の肉、穀類など、最後の食事はかなり豊かだったことが明らかになった。

 これまで、エッツィは人類学者や遺伝学者が研究できる、たくさんの材料を提供してくれた。

エッツィの遺伝子を最新技術で新たに解析

 しかし、今回、5300年前の未解決事件に関する遺伝情報を再び検討した結果、さらに研究を掘り下げることができた。

 クラウスの研究チームは、エッツィの腸骨とその周りの組織から採取した2種のサンプルをから、彼のゲノムを解析した。

 この新たな広範囲のゲノムは、以前に発表された配列より汚染の割合が10分の1であることがわかった。

エッツィの祖先はトルコ出身である可能性

最新の解析で、エッツィのゲノムには東ヨーロッパのステップ遊牧民の痕跡がまったく見つからなかったことに大変驚きました。狩猟採集民族の遺伝子の割合も非常に少なかったのです

 論文の共著者で、マックス・プランク進化人類学研究所のヨハネス・クラウス氏は述べた。

 エッツィの祖先は、遺伝的に狩猟採取民の集団と混ざることなく、アナトリアから直接やってきたという。アナトリアとは現在のトルコ共和国のアジア地域のことだ。

 現在の北イタリアで発見されたにもかかわらず、エッツィはほかのヨーロッパ人種グループとあまり混じりあっていない、東部の出身だと思われるという。

エッツィは浅黒い肌を持ちハゲになりやすい傾向

 これまで金髪、白い肌のヨーロッパ人だと考えられていた彼の肌は、かなり浅黒く、髪の毛の色も濃く、その遺伝子は禿頭になりやすい傾向を示していた。

 これは、エッツィが頭髪がない状態で発見された理由を説明するもので、これまでのエッツィの復元図とは矛盾する。

 また、糖尿病や肥満になりやすい素因を持っていたことも判明し、ちょっと太り気味だったことも示唆されている。

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以前の復元予想ではヨーロッパ系だったが新たな研究では東部系であることが示唆される / image credit::WIKI commons CC BY-SA 4.0

エッツィの肌が浅黒いのは、氷の中で保存されていたからだと、これまで考えられてきましたが、今、私たちが見ているその肌の色は、彼の本来の肌色だったのかもしれません

 論文の共著者のひとりである、ユーラック・ミイラ研究所のアルバート・ツィンク氏は言う。

 現在、エッツィのミイラは、ボルツァーノにある南チロル考古学博物館の、厳重に温度管理された部屋に所蔵されている。

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保存状態の良いエッツィのミイラ / image credit:Sudtiroler Archaologiemuseum / Eurac / Marco Samadelli-Gregor Staschitz

 エッツィのケースは特殊なことに思えるかもしれないが、昨年の論文によれば、死んでから1500年間の間に、彼のミイラは解凍と再凍結を繰り返した可能性が高いという。

 氷河考古学者で、論文の筆頭著者であるラース・ピロは、エッツィの発見状況は奇跡が重なった結果ではなく、氷河遺跡における通常のプロセスで、より詳しく説明できると断言している。

 気候変動のせいで、ノルウェーからモンゴルにかけての氷地が急速に溶けているため、今後はさらに多くの氷河ミイラや遺物が出現する可能性があるという。

 この研究結果は、 『Cell Genomics』(2023年8月16日付)に掲載された。

References:High-coverage genome of the Tyrolean Iceman reveals unusually high Anatolian farmer ancestry - ScienceDirect / Otzi: dark skin, bald head, Anatolian ancestr | EurekAlert! / written by konohazuku / edited by / parumo

 
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アイスマン「エッツィ」は、トルコからの移民の子孫で浅黒い肌で薄毛だったことが明らかに