世界平和統一家庭連合(旧統一教会)が2022年10月の会見で、「改革の担い手」の一人として紹介した日本人弁護士がいる。コンプライアンス(法令遵守)・インテグリティ(高潔さ)の専門家として活動する中山達樹氏だ。このとき、米国人弁護士2人とともに渋谷区松濤の本部でお披露目された。

以来10カ月間、「クライアント統一教会世界本部)の意向」として沈黙を貫いてきたが今回、弁護士ドットコムニュースの取材に応じた。

「私は信者ではなく、教会の評判が悪いということも知っていた」というが、なぜ、四面楚歌のなかで案件を引き受けたのか。今夏にも出ると報じられている解散命令請求をどうとらえているのか。東京・溜池山王の事務所で約1時間にわたって語った。

●「誰もやらないなら自分が」と受任

――受任した経緯を教えてください。

2022年8月末、大手事務所に勤める友人の弁護士から「誰もやる人がいないが受けてもらえないか」と頼まれました。日本本部ではなく、(韓国・清平にある)世界本部からの依頼です。英語ができ、しがらみがない中小の事務所で、一定の経済的基盤はある。自分がリスクを引き受けるべきと決断しました。

受任理由は、端的に言えば「惻隠(そくいん)の情」(編集部注:相手の立場に寄り添って物事を考える)です。「誰もやらないなら私がやるか」と。これだけ批判が強ければ、私のビジネスに影響もあることは覚悟していました。放っておけない男気とリスクとを天秤にかけて、死にゃあしないだろうというギャンブルに出ました。

数は多くないですが、離れてしまった依頼者もいます。後悔はしていませんが、この選択が私のキャリアにとってプラスだったかは10年、30年経たないとわからないでしょう。

――2022年11月の取材依頼には検討中とのことでしたが、なぜ今回、取材を受けることになったのでしょうか?

世間の風向きに応じてクライアント統一教会)の意向が変わったからです。昨年末までは、(統一教会側が)何を言っても報道してもらえない、揚げ足を取られるという無力感があった。ですから、新聞社からも取材依頼はありましたが、いい記事が期待できないため控えていました。

ただ、今なら理解してもらえる人も増えたため、私が話すことでプラスになりうる状況になりました。

――信者ではない立場で関わってみて、統一教会の印象は変わりましたか?

受任前には、一切の予備知識はなく、世間の人が持っている程度の印象しかありませんでした。「アドバイザー」「第三者」的立場で加わり、日本の家庭連合の手続きを代理しているわけではありませんが、改革推進本部長勅使河原秀行さんや弁護士の福本修也さんともやりとりを重ねています。実際に会ってみたら、みんないい人です。ずるがしこい人はいません。

●解散命令はあり得ない

――これまで解散命令が出たのは、オウム真理教と明覚寺の2件のみで、いずれも最高裁まで争われています。確定までオウムは8カ月、明覚寺は3年かかっている。請求が出されたとしても、実現可能性は低いでしょうか?

裁判所が解散命令を出す可能性はゼロだと思います。最近十数年の教団の改善と、他の宗教法人との比較が主な理由です。「著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした」(宗教法人法81条の解散命令事由)という要件は、めちゃめちゃハードルが高い。 また(政府がポイントとして掲げた)組織性・継続性・悪質性もない。

(請求を出す主体である)文科省には、解散要件を満たさないので請求をしないよう5度の申し入れをしています。解散命令の可能性がないことについては、緊急出版した『拝啓岸田文雄首相 家庭連合に、解散請求の要件なし』という冊子にまとめました。

――2009年のコンプライアンス宣言以前は、間違ったこともあったけど、今の統一教会は黒いところはなく、クリーンだということでしょうか?

黒いところはないと思います。ざっくり言えば。2009年以前のことは、私は昨年に依頼を受けたばかりなのでわかっていない部分があるかもしれませんが、下っ端がやりすぎちゃうとか、ちょっとしたいざこざは、いつでもどの組織にもある。

ただ、少なくとも、2009年以後はトップの意思で黒いことをしてはいません。内部規定はクリーンで、人事評価は下からの評判を元にしているくらいです。

実際、2009年以降に行われた献金について、ほとんど新たな訴訟は起きていません。ただ、15年以上前の判決を見れば個々人の行き過ぎもあったようにも読み取れるし、過去の活動には改善の余地もあったと思います。それは反省すべきところだし、今も現在進行形で反省しています。悪いところがあったらご指摘くださいということです。

●「私を騙す人は弁護しない」

――世界本部のトップといえば、韓鶴子総裁ですが、お会いしたことはありますか?

一度もありません。オンライン上での面会やメールのやりとりもしたこともないです。世界には何十万、何百万の信者がいまして、簡単に会える存在ではないので。

――統一教会に利用されているのではないかと感じることはないですか? キャリアに傷がつくリスクを負っても、それを超える正義があるということでしょうか?

「利用」という言葉の定義によりますが、どんな企業もお金を払って弁護してもらうなら、弁護士を利用するものです。

私は「私を騙しているな、うそをついているな」と思った人は弁護しません。受任後、そう感じたことはありません。統一教会問題は、「これを弁護しなきゃ弁護士じゃない」くらいの正義感でやっています。

――35年以上にわたって献金被害などの相談に乗ってきた全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)のやり方に対して批判しています。疑問があるんでしょうか?

共産主義などの政治的背景や、信者を拉致監禁して強制的に脱会させるなどの疑義があります。もっと報道されるべきです。

自民党家庭連合が「ズブズブ」だと主張しているジャーナリスト・鈴木エイトさんの表現にも疑問があります。一般論として、国民が政治家と関係を持とうとするのは普通の「ロビーイング」ですよね。

(献金被害に遭ったとされる100人超をまとめる弁護団との)調停など日本の案件のいずれも、私は代理人にはなっていません。文科省の質問権の対応も、福本弁護士です。ただ、情報は共有していまして、被害主張額は教会側が把握している額とかなり開きがあると聞いています。

――最近は、現役2世信者の会や全国拉致監禁・強制改宗被害者の会シンポジウムで講演するなど、積極的に発信されています。バッシングなどの懸念はありませんか?

家族は心配もしていますが、幸い事務所も自宅も被害はありません。リスクヘッジはしています。教会側としては、全国弁連や国との対立構造をつくりたいわけではなく、基本的な姿勢を理解してもらいたいということです。

【取材協力弁護士】
中山 達樹(なかやま・たつき)弁護士
1974年神奈川県生まれ、東大法学部卒、2005年弁護士登録。三宅・山崎法律事務所を経て、2010年にシンガポール国立大学ロースクール修了後、2015年に中山国際法律事務所を開設。国際弁護士として、企業に高潔さ・誠実さ(インテグリティ)の重要性を説く研修などを行っている。『インテグリティーコンプライアンスを超える組織論』(中央経済社)など著書多数。「人と同じことをしない」ことがモットーで、白スーツがトレードマーク。
事務所名:中山国際法律事務所
事務所URL:http://www.nkymlaw.jp/

統一教会に「黒いところはない」「解散命令あり得ない」依頼を受けた中山弁護士が断言