お笑いコンビ・バイきんぐ(小峠英二西村瑞樹)の単独ライブ「爆音」が、9月2日、3日に東京・日経ホール、9日・10日に東京・日本教育会館一ツ橋ホールで開催される。2008年3月開催の初単独ライブ「鬼火」から数え、今回13度目の単独ライブ。長年同コンビのネタを執筆する小峠は、「尺の長いコントはやらない」「ネタは6分~7分がちょうどいい」と、コント師としての独自のこだわりを語る。またコンビ結成から今年で27年。西村は解散を考えたことが「3~4回ほどあった」と告白。それでも踏みとどまった理由について尋ねると、小峠は、それぞれが「解散したい」と思い詰めることはあったものの、「そのバイオリズムがたまたまズレていた」と、独特な表現で長続きの秘訣を明かした。

【写真】バイきんぐの2人で自撮りに挑戦。独特な雰囲気に

■昔は4分、今は7分…コントの時間配分にこだわり

――今年も毎夏恒例の単独ライブが開催されます。今年はコンビとして初の2週連続にわたる計4公演での開催となりますが、公演数を増やした理由は何でしょうか?

小峠:2008年の初単独ライブからだんだんと会場のキャパが大きくなり、前回は1000人弱規模のところでやったんです。でも、コントをやるには広過ぎて、後ろのほうのお客さんは僕らの表情や手の動き、小道具などが見えていないんじゃないかと思って。そうなると、こっちが表現しているものを100%伝えることはできない。それは申し訳ないし、違うんじゃないかとなって、今回はもう少しキャパを小さくして、その分、公演数を増やしたんです。

――ネタは毎回、小峠さんが書いているそうですが、ネタを書く上でのこだわりを教えてください。

小峠:「尺の長いコント」をやらないことです。ネタを作家と相談しながら書くこともあるんですけど、その時によく、「これ、何分くらいあると思う?」と確認しています。僕的には、6分~7分がちょうどいいんです。世に出る前までは、「キングオブコント」も「オンエアバトル」も事務所ライブも、全部ネタ時間4分だったから、4分尺のネタしか考えていませんでした。それが「キングオブコント」優勝後くらいからだんだんと長くなっていき、今は7分前後がしっくりくるようになりました。ただ今回の単独では、10分くらいの今までで一番長くなりそうなネタができて、これをどうしようか悩んでいます。

――西村さんは、ネタが何分でも構いませんか?

西村:10分だと正直、「セリフ、多いのかな…」と少し身構えてしまいます(笑)。身体が慣れているのは、昔からやっていた4~5分のネタです。

小峠:人のネタを見ていて、10分って長いと思わない? 俺、YouTubeで人のネタを見る時に、サムネで「10分」って表示されたら「ちょっと長いな」って感じちゃう。

西村:あ~、わかるわかる、「10分もあるのか~」とは思う。

小峠:ただいままで1回もそれくらい長いネタをやったことがないから、経験としてやってみるのはありかも。いずれにしても、今回考えている長いネタは多少削ったとしても、おそらく今までで最長のコントになるでしょう。

――2012年に「キングオブコント」で優勝してから11年が経ちました。浮き沈みが激しいお笑い界において、バイきんぐが生き残り続けている要因は何だと思いますか?

小峠:「キングオブコント」に優勝した直後、今も一緒に番組を作っているディレクターさんと飲みに行った時に、「小峠くん、一つひとつの仕事を丁寧にね」と言われたことがあって。その方は「嫌な番組もあるかもしれないけど、そこのスタッフさんはほかの番組もやっていて、手を抜いたりしたらすぐに悪い噂が広まるから」と教えてくれたんです。それを聞いて「なるほど」と思い、それ以来ずっと「一つひとつの仕事を丁寧に」を意識しています。もちろん、しんどいこともありますけど、そんな時はその言葉を思い出して、「ちゃんとやらないと」と襟を正したりもしています。だから、世に出て最初の頃にその言葉を聞けて良かったなと思います。

――西村さんは、キャンプ芸人としてフィーチャーされるまで、“じゃないほう芸人”とされていましたよね。

西村:いや、今もです。僕は“じゃないほう芸人”の筆頭ですよ(笑)。どれだけ僕が一人で頑張ろうとも、小峠は一人でMCをやったり、色んな番組に出たりとそれ以上に活躍するものだから、この差は埋まらない。追いつけない格差があります。

小峠:いや、格差とかじゃないよ!進んでる方向が違うだけだから(笑)。

■小峠が西村を「ロケ共演NG」にした理由

――6月20日放送の「ロンドンハーツ」(テレビ朝日系)で、2人だけでのロケは「共演NG」だと明かしたことが話題になりました。その理由を改めて聞かせてください。

小峠:ある番組のロケに2人で行った時に、西村がボケの人間なのに、まったくボケなかったんです。仕方なく僕がボケたら、西村はツッコみもしない。これではロケとして成立しないと考えて、それ以来NGにしました(笑)。

西村:僕はそのことを、小峠がテレビで話しているのを見て知りました。「そうなの?どうりで最近、2人でのロケがないんだ」っていう感じでした。

――小峠さんはそうは言いつつも、22年5月放送の西村さんの冠番組「西村キャンプ場」(テレビ新広島)で、約6年ぶりにロケで共演していますよね。

小峠:いや、あれも実は最初、断ったんです。でも、「100回目だから」と頼まれて仕方なく出ました。

西村:もう200回目も来てくれる約束は得ましたから。これからも節目節目で来てもらう予定です。ただ「150回目も来てくれ」とお願いしたら、「スパンが短すぎる!」とさすがに拒否されましたけど(笑)。

――また小峠さんは、KOC優勝直後、自分だけがテレビに出るようになっても、日曜日だけは「西村の収入を稼ぐためバイきんぐで営業へ行く日にする」と空けていたという話を聞きました。

西村:いやほんと、「キングオブコント」優勝直後は、営業がなかったら食えてなかったですから。仕事が月に3本の営業しかないなんて時期もありましたし。でも当時は「小峠、よく一緒にやってくれるな」としか思っていませんでした。実際にそれで僕、助かりましたから。

■解散するコンビと解散しないコンビの違い

――今年でコンビ結成から27年が経ちました。長い活動の中で解散しようと思ったことはありますか?

西村:ありますよ。僕らにはどの事務所にも所属していない期間が三年ほどあって。その当時、インディーズのライブに出たりはしていましたけど、特に何の目標もなく、希望も見えませんでした。この三年の間に、解散の話は3~4回ほど出たと思います。

――解散を踏みとどまった理由は何だったのでしょうか。

西村:“解散”に対して同じテンションじゃなかったからでしょうね。小峠が「ダメだ。もう解散しよう」と切り出した時には、僕は「まだいけるだろ」と説得する。逆に僕が「解散しよう」と言った時には、小峠が「まだいけるだろ」と押しとどめる。なので、もしもお笑いへの熱量が2人同時に下がっていたら、本当に解散していたかもしれません。

小峠:要するに「解散したい」の波がお互いちょうどズレてるんです。これが同じバイオリズムのコンビは、解散するんじゃないかと思っています。片方が「ダメだと思う」と口にして、もう片方も「俺もそう思う」と同意してしまえば、そのコンビは終わりですから。僕らはそのバイオリズムが、たまたまズレていたんです。

――では、30年近く一緒にいる中で、関係性が変わったということはありますか?

西村:特に変わらないです。

小峠:多少の言い合いはありましたけど、「あの時、仲悪かった」という期間もありません。だから、たまにテレビとかで仲が悪いコンビの話とか見たら「この状態でお笑いはできないな」と思いますもん

西村:たしかになぁ。

小峠:この状態で一緒にお笑いやっていたんだ、舞台に立っていたんだってびっくりします。あんなに仲が悪い関係性で、ネタ合わせとかしんどいだろうなって思いますもん

■ネタ書くのはしんどい。でもやるんでしょうね。

――単独ライブの話に戻りますが、今後も単独は継続して毎年開催したいと思いますか?

小峠:しばらくはやるんじゃないですかね。

西村:さまぁ~ずさんがずっと、単独ライブをやられているんです。あれを見ると「すごいな」と思います。本当に尊敬しますし、僕もお二人みたいにやり続けたいです。とはいえ、ネタを書いてくれる小峠次第ですが(笑)。

――小峠さんはネタを書き続けたいですか?

小峠:いや、書きたくないですよ。ネタを書くの嫌いですし、しんどいですし。ただ、やるんでしょうね。今「キングオブコント」の審査員を任せてもらっていますけど、ネタを現役で書いていないと、ネタの構成がどうだとか、ネタのフリがどうとか、全体的にどうだとか、おそらくあの場で何か言えないような気がするんです。単独ライブは年1回、4カ月くらい費やしますけど、この4カ月間はずっと頭を使っています。この脳みそをフル活用している期間が毎年定期的にあるからこそ、新しいコントをパッと見た時に、ネタの分析ができて、コメントが言えるんだと思うんです。

――なるほど。

小峠:僕は、ネタを書く能力が落ちるのが嫌なんです。「キングオブコント」で10年前に優勝した時のように、あそこまでヒリヒリするようなネタはもう書けないかもしれない。ただあの時、日本で一番面白いコントを書ける脳みそを持っていたわけだから、その能力がある程度衰えるのは仕方ないとしても、ガクンと落ちるのは嫌です。ネタを書くのはしんどいですけど、お笑いをやる上では必要なことだと思っています。

――最後に単独ライブを楽しみにしている方へ向けて、メッセージをお願いします。

小峠:今年も新ネタを9本くらいやるので、ぜひいらしてください。あとはグッズ。今回、初めて僕らが監修したので、お手に取っていただければ幸いです。

西村:去年は2回、今年は4回と、倍の公演数で、より多くの方に見てほしいです。

取材・文=小島浩平

単独ライブ「爆音」を開催するバイきんぐ/撮影=小島浩平