「25度はアイスが売れ、30度は氷菓が売れる」...気温や天候によって客の心理は大きく変化し、売上にも影響が出ます。本記事では、ローソン在籍時に「Pontaカード」や「コンビニ業界初のセルフレジ」を発案し実現させた市原義文氏の書籍『アイデアをお金に変える「マネタイズ」ノート』(三笠書房)より一部抜粋し、気温や天候によって変化する客層心理について、実際の事例をもとに解説します。 

「気温が5度変わる」と、売れる商品はガラッと変わる

商売の基本は「千客万来」――。

これは、筆者がローソン在籍時に、当時の専務取締役から教わり、以来ずっと意識していることです。「千客万来」とは、多くのお客様がひっきりなしに店を訪れ、絶え間ないこと。商いに携わる人にとって、「千客万来」は基本であり目指すべき理想でもあります。

実際、お客様はそう簡単には来店してくれません。そのお店に行く理由があるからわざわざ足を運ぶのであり、意味もなく来店してくれるお客様などいないのです。お客様は、なぜ来てくれるのか? お客様は、なぜ来てくれないのか? それらを考える際に、ぜひ押さえておきたいことがあります。「数字」と「お客様心理」です。

たとえば、「気温」です。「今日は暑いね」で終わらせるのではなく、具体的に30度などと「数字で表す」ことが大切です。なぜなら、気温によって、お客様が来店する動機は変わるからです。

よく言われるのが、25度になるとアイスクリームが売れ、30度を超えるとアイスクリームより、さらに冷感の強い氷菓が売れるようになるというものです。

同じ気温でも、春から夏に向かう場合と、秋から冬に向かう場合では、気温の感じ方は異なります。それはお客様の購買行動にも異なる影響を与えます。前日が30度を超えた日の25度と、前日が20度だった時の25度では、同じ25度でも感じ方が異なることは、容易に想像できるでしょう。

前者なら温かいものを、後者なら冷たいものを、店舗に品揃えすることになります。さらに、POPでその商品をアピールするとより効果的です。

ちなみに、お盆明けに、なぜかコンビニにおでんが並ぶのも、同じ理由です。お盆明けは、急に気温が下がる時があります。そのタイミングを見越して、おでんを店頭に準備しているのです。

気温以外では、「天候」も数字化すべき要素です。降雨や降雪は人が外出するのを嫌がる理由の上位に入ります。みなさんも実感があると思います。実際の商売の現場では、翌日が雨予報の時には、仕入れや仕込み数量を調整することで、来店数の減少に対応しようとします。

これらの気温や天候変化で、お客様の行動がどのように変わるのか、また実際にどのように変わったのかなどを数字(データ)にしておくことで、お客様の動きが数字に表れるようになります。その数字の事実を使って、アイデアをつくっていくのです。

「数字の変化」の裏には、必ず「お客様の心理の変化」があります。

「雨だから外出したくない」「猛暑だから出かけたくない」というのも心理の表れです。同じ晴れ間でも、梅雨の晴れ間であれば貴重さが加わり、心理的にプラスに作用するものです。

ほかにも、正月や卒業、入学や就職、転職、結婚などのいわゆる「ハレの日」でも、人の心理は大きく変わります。自分が対象とするお客様はどういう心理状況なのか? そのお客様心理と照らし合わせてアイデアを練り直すことが大切です。

気温を利用して成功した総合ベーカリーチェーンの事例

筆者が、総合ベーカリーチェーンの経営立て直し支援で行なった実例を紹介します。もともとこのチェーンは、売上の下落に歯止めがかからない状況でしたが、夏場はさらに厳しさを増します。唾液がパンに吸い取られるような印象があるのか、夏はパンが売れないのです。夏場をどう乗りきるかは死活問題でした。

そこで注目したのが気温です。「25度になるとアイスクリームが売れる」という一般論を応用してみました。アイスクリームの触感に近いクリームを開発し、メロンパンに挟んでみました。また、クリームにザラメを入れることで、氷のような冷たさを感じてもらう工夫をしました。さらに、できあがったパンを冷蔵しておくことで、ヒンヤリとした触感を保つようにしました。これは、大変ご好評をいただきました。

このようにお客様の気温に対する心理の変化に着目して商品開発や販売方法を工夫することで、「夏場にパンは売れない」という常識に立ち向かったのです。結果は上々でした。日差しの強さがまだ弱い早朝と夕方を中心に、来店客数が約10%増加したのです。

多くのお客様は、少しでも「涼」を感じたいと思っていたようで、この新商品を目当てに来店されました。来店されれば、「ついで買い」にもつながります。結果的に、通常の夏場と比較して、ベーカリーチェーン全体の売上は8~12%程度も上昇しました。つまり、「夏場にパンは売れない」という打つ手なしと思われた常識に、勝てるやり方を1つ獲得できたのです。

人の何気ない行動の裏には、「気温」や「天候」が大きく作用しているものです。 「数字」と「お客様心理」をあなたのアイデアづくりに応用してみてください。

市原 義文

株式会社シャイン&コー代表取締役社長

経営コンサルタント