平均額を大きく上回る給与を受け取っている「勝ち組サラリーマン」。いまの生活も余裕シャクシャクなら、将来手にする年金額もはるかに高額なハズ。高給取りである本人も、それをうらやむ周囲の人たちも、そんな認識を持っているかもしれない。だが、現実はなかなか厳しい。実情を見ていく。

年齢を重ねたサラリーマン、「収入の谷」は2度訪れる

どれほど有能なビジネスマンでも、会社の規定に従い、いずれは引退の時を迎える。多くの企業は60歳を定年であり、以降はそこを区切りに「嘱託」「契約社員」等になってもらい、雇用を継続する。ほとんどの人は定年退職後の再雇用で給料の大幅減額となるが、だが、それで話は終わりではない。その先の年金生活では、さらに「使えるお金」は減少していく。

サラリーマンの場合、大きな谷は2つある。

たとえば大企業の部長なら、60歳直前で月収(所定内給与額)は78.4万円、年収1,326.7万円。だが、60歳を機に役職が取れると、月収は33.8万円、年収で551.1万円。「非正規社員」では月収32.5万円、年収で517.7万円。60歳を機に、収入は半分以下になる。ここがひとつ目の谷だ。

※ 厚生労働省令和4年賃金構造基本統計調査』大卒・男性、従業員1,000人以上事業所の平均値より。以降の金額はすべて同調査による。

そして65歳なれば、多くの人は年金生活に切り替えてリタイアすることになるが、そこで再び収入は激減する。ここが2つ目の谷だ。

エリートの給料の伸び、「右肩上がりの状況曲線」だが…

現状、サラリーマンの給料の伸びはどのような経過をたどるのか。

大企業に勤務する大卒サラリーマンの場合、各役職の平均年齢で係長(平均43.7歳)、課長(平均48.1歳)、部長(52.7歳)と昇進し、60歳を機に非正規社員になり、65歳まで勤務したとする。

平社員から係長へ昇進

40代前半:年収703万7,700万円 → 781万5,700円

※およそ80万円アップ。

●係長から課長へ昇進

40代後半:年収779万1,100円 → 1,023万4,500円

※およそ250万円アップ

●課長から部長へ昇進

50代前半:年収1,086万7,900円 → 1,267万4,000円

※およそ180万円アップ

給料は見事な上昇カーブを描く。では、将来手にする年金額はどうだろうか。

国民年金であれば「年金額×(保険料の納付月数÷480ヵ月)」で、厚生年金であれば加入期間が2003年3月までは①「平均標準報酬月額(≒平均月収)×7.125/1000×2003年3月までの加入月数」、加入期間2003年4月以降は②「平均標準報酬額(≒平均月収+賞与)×5.481/1000×2003年4月以降の加入月数」で計算できる。

厚生年金は便宜上②のみで計算すると、上記の男性の平均標準報酬額は、32等級あるうちのトップで65万円。厚生年金部分は月15万円ほどとなり、国民年金と合わせると、月21.3万円。

現役引退する前の月収である32.5万円から、3割以上もダウンするのだ。

60歳の定年から5年で…「月収3分の1」の現実を直視せよ

60歳の定年から5年で、収入は驚くほど減額する。だが、これは現実であり、多くのシニアがたどってきた道なのだ。

もし月収78万円だったころの感覚のまま65歳に突入すれば、生活の破綻はだれの目にも明らかだ。そのような不幸に陥らないためには、定年前から老後生活に備え、生活費のダウンサイジングを進めておくことが重要なのである。

まずは、下記のような取り組みを始めることをお勧めしたい。

①家計の把握とコンパクト化

収入に余裕がある人の家計は「どんぶり勘定」になりがち。だが、そんな金銭感覚で年金生活に移行すれば、生活の破綻は必至だ。年金生活になる前から、収入と支出を正確に把握するようにしよう。そして、削れる部分はバッサリと削っておく。今後の収入に見合った生活へダウンサイジングできるよう、前倒しで調整を進めておくのだ。

②住み替えの検討

60代を過ぎれば子どもたちも巣立ち、夫婦2人暮らしになるっている家庭も多いだろう。家族構成に見合わない広すぎる家ほど「金食い虫」な存在はない。子どもが小さいときに手に入れた家なら築古となっているだろうし、ならばリフォームや大規模修繕は必須だ。それ以外にも、庭木の手入れや日頃の掃除なども大変だろう。早い段階で手狭なマンションに住み替えるなどして、住居にかかるお金も身体的な労力も節約したい。

③不用品の処分

使わなくなった家具や家電、独立した子どもたちが遺した不用品は思い切って処分しよう。体が元気なうちにすませておかないと、年齢を重ねてからでは大変だ。生活空間に邪魔なモノがあふれると、掃除が行き届かなくなって不衛生になるのはもちろん、躓いて転倒するなどの不安もある。業者に依頼すると高額な費用も掛かるので、早めの対処がお勧めだ。

現役時代、平均額を大きく上回る給料をもらっていたサラリーマンでも、年金額となると、じつは平均的なサラリーマンとさほど大きくは違わない。

もし、今後も「平均より上」の生活を継続したいなら、いまからでも貯金に励むか、あるいは投資などで年金以外の収入を確保する必要がある。それでも、長生きするほどお金が必要になるので、程度の差こそあれ老後のダウンサイジングは必要になってくるといえるだろう。高所得なサラリーマンほど、早めの「環境適応」が必要なのだ。

(※写真はイメージです/PIXTA)