大阪都心(中央区・西区・北区・天王寺区浪速区・福島区)の「新築マンション価格指数」は、過去10年間で+82%上昇し、東京都心と同水準の伸びとなりました。本稿ではニッセイ基礎研究所の吉田資氏が、関西圏の新築マンション市場の動向を概観します。

1. はじめに

総務省国勢調査」によれば、関西圏1の分譲マンションに居住する世帯2は、2005年から2020年の15年間で1.3倍(約90万世帯→約122万世帯)に増加した。

特に、大阪市では、1.5倍(約18万世帯→約27万世帯)に増加し、総世帯数に占める割合は約15%から約18%に上昇した(図表-1)。また、不動産経済研究所によれば、2022年の近畿圏で販売された新築分譲マンションの平均価格は4,635万円となり、2005年(3,164万円)の平均価格と比べて+46%上昇した(図表-2)。

このように、関西圏において分譲マンションで暮らす人々が増加し、マンション価格が上昇するなか、マンション市場の動向に関する人々の関心は高まっている。  

そこで、本稿では、複数回に分けて、関西圏の新築マンション市場の動向を概観する。

第1回の今回のレポートでは、まず、新築マンション市場を取り巻く需給環境を確認する。その後、関西圏の新築マンションの販売データ(2005年~2022年)を用いて、品質調整をした「新築マンション価格指数」を作成し、その価格動向について解説する。

次回のレポート以降では、「新築マンション価格指数」について、エリア別の動向や「タワーマンション価格」の動向について解説する。あわせて、新築マンション価格の決定構造が約20年間でどのように変化したかについても確認したい。


1 大阪府兵庫県京都府滋賀県奈良県和歌山県 2 「持家」かつ「3階建て以上の共同住宅」に居住する世帯

2. 新築マンション市場を取り巻く需給環境

以下では、関西圏の新築マンション市場を取り巻く需給環境について概観する。具体的には、(1)新規供給戸数、(2)、望まれる住宅形態、(3)人口移動、(4)新築マンション購入層に関する動向を確認する。

2-1. 新規供給戸数の動向~2022年の新規供給戸数は2005年対比で1/2の水準に減少

不動産経済研究所によれば、近畿圏の新築分譲マンションの新規供給戸数は、2005年の3.3万戸から2022年の1.8万戸へ約1/2の水準に大幅に減少した(図表-3)。各マンションデベロッパーは市場環境をみながら慎重な供給姿勢を維持している。  

一方、大阪市の新規供給戸数は、5千戸から1万戸の間を推移しており、2022年は約7千戸となった。関西圏の供給戸数を地域別にみると、大阪市の割合は、2008年の22%をボトムに緩やかな増加傾向で推移し、2022年には40%に上昇した(図表-4)。

2-2. 望まれる住宅形態~大阪圏ではマンション居住の意向が高まる

続いて、人々の住宅購入の意向について確認する。 国土交通省「土地問題に関する国民の意識調査」によれば、大阪圏3在住者を対象に「今後望ましい住宅形態」を質問したところ、一貫して「一戸建て」が最も多く、次いで「戸建て・マンションどちらでもよい」、「マンション」の順となっている(図表-5)。

ただし、「一戸建て」の比率が減少傾向(2006年66%⇒2021年53%)にあるのに対して、「マンション」(13%⇒16%)の比率が増加した。大阪圏では、依然として「一戸建て」を望む人が約半数を占めるものの、大阪市を中心に「マンション」居住を志向する人が緩やかに増加しているようだ。


3 近畿圏整備法による既成都市区域及び近郊整備区域を含む市町村大阪府京都府兵庫県奈良県の指定を受けた市町村

2-3. 人口移動の動向~関西圏全体では、転出超過が続く。一方、大阪市は転入超過が継続

総務省「住民基本台帳人口移動報告」によれば、関西圏の転入超過数4は、2011年を除き、マイナス(転出超過)の状況が続いている(図表-6)。

都道府県別にみると、大阪府は2015年以降、滋賀県は2021年以降、プラス(転入超過)で推移しているが、その他の都道府県では、長期的にマイナスで推移している。  

また、政令指定都市の転入超過数をみると、堺市は2013年以降、神戸市は2014年以降、京都市は2017年以降、マイナス(転出超過)に転じている(図表-7)。

一方、大阪市の転入超過数はプラスかつ概ね増加傾向で推移しており、2019年には+約1.7千人に達した。コロナ禍後はやや勢いが鈍化したものの、2022年の転入超過数は+約9千人となり、プラスを維持している。  

関西圏全体では、長期的に「転出超過」の状況が続いているが、大阪市のみ「転入超過」となっている。


4 転入超過数=転入者数-転出者数

2-4. 新築マンション購入層の動向~「夫婦のみの世帯」と「未就学児がいる共働き世帯」が需要を支える

リクルート住まいカンパニー「関西圏新築マンション契約者動向調査」によれば、関西圏における新築マンション購入者の世帯構成は、「夫婦のみの世帯」と「子供あり(第1子小学校入学前)世帯」の占める割合が大きい(図表-8)。

総務省国勢調査」によれば、関西圏の「夫婦のみの世帯」は2020年に185万世帯となり、2005年対比+13%増加した(図表-9)。大阪市においても22.2万世帯となり2005年対比+6%増加した。  

一方、関西圏の「夫婦と子供から成る世帯(6歳未満の子供あり)」は2020年に59万世帯となり、2005年対比▲16%減少した(図表―10)。大阪市では、2005年の8.3万人から2015年の7.8万人に減少した後、2020年に7.9万人にやや増加した。

ただし、国立研究開発法人建築研究所の推計5によれば、関西圏の未就学児がいる共働き世帯6は、2020年に22万世帯となり、10年間で+37%増加した(図表―11)。

特に、大阪市では2.4万世帯となり、10年間で+47%増加した。少子化の進行に伴い、未就学児がいる世帯総数は減少しているが、未就学児がいる共働き世帯は大幅に増加している。リクルートの調査によれば、関西圏の新築マンション契約世帯に占める共働き世帯は、2005年の37.5%から2022年の50.8%に増加している。  

したがって、「夫婦のみの世帯」と「未就学児がいる共働き世帯」の増加が、関西圏における新築マンションの需要を支えていると考えられる。


5 中野 卓,今野 彬徳「共働き子育て世帯に関する全国・都道府県市区町村別集計」、建築研究資料、No.209、2023 6 6歳未満の末子を有する共働き世帯(共に正社員の世帯および正社員とパートタイムの世帯)

3. 「新築マンション価格指数」の作成

続いて、関西圏の新築マンションの販売データ(2005年~2022年)を用いて、品質調整をした「新築マンション価格指数」を作成し7、その動向を把握する。 


7 新築マンション価格指数の作成方法は、「新築マンション価格指数」でみる東京23区の市場動向(1)』 3章を参考にされたい。

3-1. 「新築マンション価格指数」の算出結果(関西圏)

図表-12に、関西圏の「新築マンション価格指数」(年次)の算出結果を示した。

2005年以降の価格動向をみると、次の3つのフェーズに分類することができる。1つ目は、「2005年~2008年:リーマンショック前までの価格上昇局面(不動産ファンドバブル期)」、2つ目は「2009年~2012年:リーマンショック後の価格下落局面(東日本大震災を含む)」、3つ目は「2013年~2022年:アベノミクス以降の価格上昇局面」である。

直近2022年の価格指数(2005年=100)は「175.3」となり、アベノミクスがスタートして以降の過去10年間で+59%上昇した。  

人手不足に伴う建築コストの上昇やマンション用地価格の高止まりを背景8に、マンションデベロッパーが慎重な供給姿勢を維持するなか、関西圏の新築マンションの新規供給は減少傾向にある。

一方、マンション居住の意向が高まり、主なマンション購入層である「夫婦のみの世帯」と「未就学児がいる共働き世帯」の増加が続くなか、低金利環境がマンション購入を後押している。

この結果、関西圏の新築マンション市場は良好な需給環境が継続しており、リーマンショック後の価格下落局面(2009年~2012年)を除いて、長期にわたり価格上昇が続いていると考えられる。


8 「新築マンション価格指数」でみる東京23区の市場動向(1)』 2章を参照にされたい。

3-2. 「新築マンション価格指数」の算出結果(大阪市)

図表-13に、対象エリアを大阪市に限定した「新築マンション価格指数」(年次)の算出結果を示した。算出結果をみると、「大阪圏」と同じく、「上昇フェーズI」→「下落フェーズII」→「上昇フェーIII」のトレンドで推移している。

2022年の価格指数(2005年=100)は「186.0」となり、関西圏(175.4)を上回る結果となった。

大阪市と関西圏の各フェーズ(I~III)における価格変動率を比較すると(図表-14)、「上昇フェーズI」(大阪市21%・関西圏18%)と「下落フェーズII」(大阪市▲9%・関西圏▲7%)では、大きな違いはみられなかった。しかし、「上昇フェーIII」では、大阪市(+69%)の上昇率が関西圏(+59%)を上回った。特に、2018年以降、その格差が拡大している。  

また、大阪市東京23区の価格変動率を比較すると、「上昇フェーズI」では、大阪市(+21%)の上昇率は東京23区(+30%)を下回ったが、「上昇フェーIII」では同水準の上昇率(+69%)となっている。

3-3. 「新築マンション価格指数」の算出結果(大阪市エリア別)

以下では、大阪市を、「大阪都心」(中央区・西区・北区・天王寺区浪速区・福島区)と「大阪郊外」(「大阪都心」を除く18区)の2つのエリアに分類し、「エリア別価格指数」を算出した。

算出結果をみると、両エリアが、「大阪市」と同じく、「上昇フェーズI」→「下落フェーズII」→「上昇フェーIII」のトレンドで推移している。2022年の価格指数(2005年=100)は、「大阪都心」が「201.7」、「大阪郊外」が「169.4」となった(図表-15)。

フェーズ(I~III)における価格変動率をみると(図表-16)、「上昇フェーズI」では、「大阪都心」の上昇率(+26%)が「大阪郊外」(+15%)を上回った。次に、「下落フェーズII」では、エリアで大きな違いはみられなかった(大阪都心▲12%・大阪郊外▲10%)。

最後に、「上昇フェーIII」では、「大阪都心」(+82%)が「大阪郊外」(+63%)を大幅に上回った。「大阪都心」の上昇率は、東京23区で最も価格が上昇した「東京都心」9(+83%)と同水準に達している。

次回以降のレポートでは、「新築マンション価格指数」について、関西圏エリア別の動向や「タワーマンション価格」の動向を解説する。あわせて、新築マンション価格の決定構造が約20年間でどのように変化してきたについて確認したい。 


9 『「新築マンション価格指数」でみる東京23区の市場動向(2)』2章を参照にされたい。

(補論)関西圏「新築マンション価格指数」と「平均価格・m2単価」(不動産経済研究所公表)の比較

「新築マンション価格指数」と不動産経済研究所が公表する「平均価格」を比較すると(図表-17)、2014年以降、両者のかい離が広がっている。

不動産経済研究所によれば、関西圏の新築マンションの平均面積は、2005年の74m2から2022年の60m2となり、15年間で▲19%縮小した。アベノミクス以降の価格上昇局面において、面積を狭くし価格(総額)を抑える動きが進み、両者のかい離が拡大したと推察される。

また、「新築マンション価格指数」と「m2単価」を比較すると(図表-18)、両者の長期トレンドは概ね一致しているものの、2015年以降、「m2単価」の方が大きく上昇している傾向がみてとれる。

関西圏の新築マンション新規供給において、価格水準の高い「大阪市」の割合が拡大していることが一因と考えられる(図表-4)。

(写真はイメージです/PIXTA)