長生きすることは幸せなことと、誰もが思っているでしょうが、日本の高齢者からは「長生きするだけしんどい」という声も聞こえてきます。老後、生きていく苦労をみていきましょう。

物価高で将来不安増…再び働き始める高齢者も

――生きているのも、しんどいですわ

そうつぶやく、76歳の男性。最近、市のシルバー人材センターでゴミ拾いの仕事を始めたといいます。定年退職して以来、年金と貯蓄で生活してきたものの、昨今の物価高で生活に不安を覚えるようになったといいます。

――この年で仕事を始めるとは思いもしなかったわ

仕事は週に2日程度、手にする給与は月4万円程度。それでも手取りで月12万円ほどだという年金生活に、プラス4万円はかなり大きいといえます。それでも将来を思えば不安は募るばかりのよう。

――長生きは幸せなことだと思ってたけど、お金の心配ばかりしてる、ほんと地獄

厚生労働省令和4年簡易生命表』によると男性の平均寿命は81.05年、女性の平均寿命は87.09年。ただこちらは若い時に亡くなった人も含めた平均値。平均寿命で考えると「あと5年」と考えますが、「平均余命」で考えると、76歳男性の場合「あと11.38年」と、倍近くにもなります。

その間、常にお金の心配をしなければならない……「しんどい」と、思わず口にしてしまうのも仕方がないことかもしれません。

総務省『家計調査 家計収支編』(2022年平均)によると、65歳以上男性の1ヵ月の生活費は、およそ15万円。平均値で考えると、男性は毎月3万円の赤字になります。1年で36万円の不足。平均余命11.38年であれば400万円近くの貯蓄があれば、ギリギリセーフといったところでしょうか。

【65歳以上男性の1ヵ月の平均支出】

◆平均消費支出:14万8,918円

・食料:40,938円

・住居:14,242円

・光熱・水道:14,748円

・家具・家事用品:4,631円

・被服及び履物:2,146

保健医療:8,124円

・交通・通信:19,409円

・教養娯楽:16,287円

・その他の消費支出:28,393円

出所:総務省『家計調査 家計収支編』(2022年平均)

しかし平均余命で考えていくと、11年後、87歳になったときの平均余命は「あと5.29年」。200万円強の貯蓄が必要となります。さらに92歳になったときの平均余命は「あと3.49年」。125万円強の貯蓄が必要……このようにみていくと、「生きているのも、しんどいですわ」といった男性の言葉も頷けます。

年金生活者の9割が「年金だけでは生活できない」が現実

金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査](令和4年)』で「年金についての考え方」を聞いたところ、「年金だけで生活できる」と思っている人はわずか7.6%。すでに年金世代に突入している70代ですら8.8%。生活水準は人それぞれですが、実際に年金世代の9割以上が「年金だけで生活はできない状態にある」といえるでしょう。

またその70代で「ゆとりはないが日常生活費程度はまかなえる」と回答したのが50.6%。「日常生活費程度もまかなうのが難しい」が40.6%でした。多かれ少なかれ、貯蓄の取り崩しがなくては老後の生活は成り立たない、というのが現状のようです。

さらに現役世代についていえば、いまの年金水準がこれからも続くというのは、ほぼありえません。20年後には、今の年金水準から2割減となるのが確実視されています。わたしたちは「今よりも年金をあてにすることはできない」ということを前提に備える必要があるのです。では年金2割減を見据えた、主な対策をみていきましょう。

年金2割減を見据えた事前対策①私的年金制度の活用

たとえば自営業・フリーランスであれば、月々の国民年金保険料に上乗せして国民年金基金に加入。選択する給付型や加入の口数、加入時の年齢、性別で月額掛金は決まり、上限の月6.8万円を20歳から60歳まで払い続ければ、年20万円を超える年金が上乗せできます。さらに月400円の付加保険料を納めれば、「200円×付加保険料を納めた月数」だけ年金を増やすこともできます。

会社員であれば厚生年金に加え、確定給付企業年金制度、確定拠出年金制度、厚生年金基金制度などに加入すれば年金額を増やすことができます。ちなみに厚生年金基金の平均受取額は年50万円程度。まずは勤務先にどのような制度があるか確認しましょう。

年金2割減を見据えた事前対策②iDeCo

個人向けの確定拠出年金制度であるiDeCo。加入は任意で、20歳以上60歳未満のすべての人が加入できます。発生した利益は非課税で、保険料は申告によって税金の還付が受けられます。運用益を手にできるのは60歳以降で、60歳から支給を受けるには加入期間10年以上が必要です。またもらえる年金額は運用成果によります。元本割れのリスクもあることを十分に理解し、自己責任で行われなければなりません。

年金2割減を見据えた事前対策③NISA

2024年から新しいNISA制度がスタートします。成長投資枠とつみたて投資枠があり、非課税期間は無制限。年金投資上限額は、成長投資枠が240万円、後者がつみたて投資枠120万円、非課税保有限度額は1,800万円で、そのうち成長投資枠の上限額は1,200万円になります。

年金2割減を見据えた事前対策④年金の繰り下げ

現在、多くの企業で60歳を定年年齢としていますが、本当に60歳で現役引退を選択している人は2~3割程度といわれ、「定年後も働く」がいまやスタンダード。原則、年金受給がスタートする65歳以降も働く人も珍しくありません。

もし、年金を受け取らなくても生活できるのであれば、「年金の繰り下げ制度」を利用。65歳から受け取れる年金を1ヵ月遅らせるごとに0.7%増額。75歳まで繰り下げれば増額率は84%となり、大きく年金受取額を増やすことができます。また国民年金厚生年金、どちらかは受け取り、どちらかは繰り下げる、ということも可能です。

(写真はイメージです/PIXTA)