債権者が債務者を裁判所に呼び出し、債務者の財産について陳述させる「財産開示手続」。以前は債務者に対する罰則の弱さが問題視されていましたが、2020年4月の法改正によって罰則や申立権者の範囲が拡大されました。本記事では、「財産開示手続」とは何か、法改正の背景や、法改正によって何が変わったのかについて、特定行政書士である中島美春監修のもと解説します。

財産開示手続とは?

財産開示手続とは債権者(お金を貸した人)の申立てで、裁判所が債務者(お金を借りた人)を裁判所へ呼び出し自己の財産について陳述(口頭・書面で説明)させる手続きです。

債権者が金銭債権に関する裁判(お金を返すことを求める裁判)で勝訴しても、債務者が判決に従い弁済しない場合はあります。

そこで、債務者の財産を強制的に差押え、債権を回収する「強制執行」という方法がとられます。しかし、債務者の財産を差押えるには、その人がどんな財産を持っており、どの財産の差押えが可能か特定しなければなりません。

その場合に財産開示手続をとり、債務者本人から財産のありか(例:どこの銀行に預金口座があるのか等)を聴き出すのです。

民事執行法の改正で手続きが変わった? 

2020年4月1日に施行された改正民事執行法では、債権回収の実効性を高めるように罰則や申立権者の範囲の拡大等が図られています。ここでは法改正の背景と法改正前後の内容について解説します。

民事執行法の法改正の背景

財産開示手続は2003年に導入された制度ですが、それ以降債務者に対する罰則の弱さが指摘されていました。債務者が裁判所に出頭しないケースや、虚偽の供述を行ったケースでは30万円以下の過料が課せられるだけです。

罰則が弱いという問題もあり、債務者が裁判所の呼び出しに応じないケースは多く、次第に財産開示手続は行われなくなっていきます。2011年には1,124件実施されていましたが、2019年には577件まで落ち込み、実効性を高めるため法改正の必要が出てきました。そのため、2020年4月1日に改正が行われました。

裁判所ホームページ「司法統計 民事・行政令和2年度 1-2事件の種類と新受件数の推移  最高,全高等・地方・簡易裁判所

法改正前後の内容

2019年に577件まで落ち込んだ財産開示件数は、法改正後の2020年には3,930件まで急増しています。ここでは改正民事執行法で大きく変わった部分を3点取り上げます。

過料から刑事罰へ罰則が大幅強化

改正前:30万円以下の過料

改正後:6ヵ月以下の懲役または50万円以下の罰金(民事執行法第213条第1項)

改正前は債務者がたとえペナルティとして30万円支払っても、強制執行されるより安く済むと考え、裁判所へ出頭しないケースが多かったようです。

しかし、今回の改正で罰則は懲役・罰金は刑事罰となっています。刑事罰とは、罪を犯したときに科される死刑や懲役、禁錮、罰金などの刑を指します。いずれの罪も一生消えません。つまり債務者がこの罰則を受ければ「前科」となってしまいます。

そのため、債務者は前科がつくことを恐れて裁判所へ出頭し、真実を陳述する効果が期待されています。

申立権者の範囲拡大

下表のように申立てができる人の範囲は広くなっています。

改正前は債務を支払うよう命じた判決、調停調書等が作成された場合に財産開示の申立てが認められていました。改正後は、仮執行の宣言を付した支払督促・損害賠償命令、更には金銭等の支払いを目的とした公正証書でも可能です。

例えば、お金を支払わない債務者へ簡易裁判所から支払を督促してもらった場合や、離婚した元夫婦が公正証書で養育費等について取り決めをした場合、債務を履行しない相手方へ財産開示手続を利用できるようになりました。このように、利用する機会の拡充も図られています。

第三者からの情報取得手続を新設

また、法改正によって新たな手続きである「第三者からの情報取得手続」(民事執行法第204条~第211条)も設定されました。第三者からの情報取得手続は、債務者の財産に関する情報を第三者から提供してもらえる制度です。

この手続きは、改正後も引き続き非協力的な態度をとる債務者がいても、第三者からの情報提供で強制執行が円滑に進む効果が期待できます。

主な債務者の財産情報の入手先は次の通りです。

・土地・建物:法務局(登記所)から入手可能

・預貯金:金融機関(銀行)から入手可能

・株式・国債・投資信託:証券会社等から入手可能

・勤務先情報:市区町村役場、日本年金機構等から入手可能

給与差し押さえのために「債務者の勤務先の情報を聴取する」?

債務者の給与も差し押さえの対象です。そのために、債務者の勤務先はどこなのかを把握する必要があります。ここでは、財産開示手続と第三者からの情報取得手続で、情報の把握が可能かについて解説します。

財産開示手続の場合

債権者は原則として、債務者の現在の住所地を管轄する地方裁判所に申立て、地方裁判所は債務者を呼び出します。申立人は裁判所の許可を得て、債務者へ財産についての質問が可能です。

債務者の所有する土地や建物の不動産資産、預貯金や株券等の金融資産の有無・所在、更に勤務先の情報開示も可能です。この情報を把握できれば、仮に預貯金のような回収しやすい資産がなくても、給与の差し押さえができます。

第三者からの情報取得手続

第三者から開示してもらうことも可能な開示情報は、債務者に給与や報酬または賞与を支払う者の名称・住所です。

ただし、勤務先情報はプライバシー性が高く、取得できる人は次の請求権を有するケースに限定されています。

・養育費・婚姻費用等の支払請求権

・生命・身体の侵害による損害賠償請求権

支払いが滞ることで子供の養育費等が払えなくなる場合、または生命・身体へ重大な侵害を受けたことで賠償を受ける場合、というように情報開示の重大性の高いケースがあげられます。情報の入手先は市区町村役場、日本年金機構厚生年金を扱う団体となります。

法改正後の「財産開示手続」や「第三者からの情報取得手続」の要件とは?

法改正後であっても財産開示手続の要件は変わらず次の2点となります。

・強制執行、担保権の実行による配当等の手続きをしたものの、一部の弁済しか得られなかった。

・把握していた債務者の財産へ強制執行をしても、一部の弁済しか得られない疎明があった。

なお疎明とは、債権回収するのがどうやら難しいようだ、と裁判所が推測できる債権者の言い分を指します。

一方、第三者からの情報取得手続は、やや厳格な要件となっています。

・申立人が「執行力のある債務名義の正本(確定判決・和解調書・強制執行認諾文言付き公正証書いずれか)」を有する金銭債権の債権者である

・過去6ヵ月以内に強制執行の手続きをしたものの完全な弁済は得られなかった

・現在判明している債務者の財産だけでは完全な弁済を得られない

・(不動産情報・勤務先情報のみ)3年以内に財産開示手続が実施された

法改正後の手続きの手順・必要書類等

ここでは、それぞれの手続きの手順・必要書類等について解説します。

財産開示手続の手順・必要書類

財産開示手続は、債務者の現在の住所地を管轄する地方裁判所に申立てます。申立て~財産開示期日まで1ヵ月程度かかります。手続きの流れは次の通りです。

1.確定判決や調停調書、仮執行宣言付支払督促、公正証書等、強制執行の際に必要な書類があるかチェック

2.申立て書類の収集・作成

3.地方裁判所に申立て

4.期日前の準備:債務者は期日の約10日前に財産目録を提出・債権者は質問書を提出

5.財産開示期日:裁判所が債務者へ質問、その後に申立人またはその代理人(弁護士)が債務者へ質問も可能

6.強制執行の手続きへ:得た情報を用い強制執行の段階に進む、財産記録の閲覧も可能

提出する主な必要書類は次の通りです。ケースによっては追加の書類が必要となる場合もあります。

・財産開示手続申立書

・当事者目録

・請求債権目録

・財産調査結果報告書

・収入印紙2,000円:郵便局やコンビニ等で取得

・予納郵便切手6,000円分:郵便局やコンビニ等で取得

・その他:執行力のある債務名義の正本、住民票

財産開示手続申立書、当事者目録、請求債権目録、財産調査結果報告書は地方裁判所の窓口かHPで取得できます。

裁判所ホームページ「財産開示手続を利用する方へ

第三者からの情報取得手続の手順・必要書類

第三者からの情報取得手続も、債務者の現在の住所地を管轄する地方裁判所に申立てます。手続きの流れは次の通りです。

1.申立て書類の収集・作成

2.地方裁判所に申立て

3.審理開始:要件が満たされていると判断されたら、裁判所は情報提供命令を発令

4.裁判所は申立人へ情報提供命令正本を送付

5.情報提供命令が確定後、第三者へ情報提供命令正本を送付

この申立てと同時に還付申請をすれば、原則として債務名義正本等は最初提出された情報提供書の写しに同封して申立人へ送付され、強制執行の準備が進められます。

提出する主な必要書類は次の通りです。ケースによっては追加の書類が必要となる場合もあります。

・第三者からの情報取得手続申立書

・当事者目録:第三者目録含む、原本・写しも提出

・請求債権目録:原本・写しも提出

・所在地目録:不動産情報の場合のみ必要

・財産調査結果報告書

・債務名義等還付申請書

・その他:財産開示期日実施証明申請書(不動産情報・勤務先情報のみ)、住民票

第三者からの情報取得手続申立書、当事者目録、請求債権目録、所在地目録、財産調査結果報告書、債務名義等還付申請書は地方裁判所の窓口かHPで取得できます。

なお、予納郵便切手・予納金等は細かく設定されています。下表を参考にしてください。

裁判所ホームページ「第三者からの情報取得手続を利用する方へ

手続きは弁護士に依頼

申立人本人だけでこれらの手続きは可能です。しかし、収集する証拠種類や提出する書類はとても多いため、素人が一人で対応するのは大きな負担となります。

そのため、法律の専門家である弁護士に手続きを依頼した方が無難です。弁護士の助力のもとで冷静に強制執行への準備を整えることができるはずです。弁護士への報酬は10万円以上かかるものの、円滑な債権回収のため是非検討してみましょう。

記事監修

中島 美春

なかしま美春行政書士事務所/特定行政書士/相続診断士

株式会社サステナブルスタイル

後藤 光

(※写真はイメージです/PIXTA)