グローバル化やテクノロジーの爆発的な進化に比例して、人として「コミュニケーション力」がますます重要視されるなか、「子どものコミュニケーション力」に悩む保護者が増えていると、東京西徳洲会病院小児医療センターの秋谷進医師はいいます。そこで今回、単なるスキルにとどまらない、“子どもの成長”と“コミュニケーション力”の関係性に加えて、子どもコミュニケーション力を育む5つの方法について、秋谷医師が伝授します。
「子どものコミュニケーション力に悩む親」が増加
「うちの子、他の子と比べて話すのが苦手みたいで、友達ができないのが心配……どうしたらいいですか?」
「子どもが感情をうまく表現できず、イライラしてしまうことが多いんです。コミュニケーション力を上げる方法はないでしょうか?」
「先生からコミュニケーションが苦手だと言われてしまって、どう接すれば子どもの自信を取り戻せるか悩んでいます」
——筆者の児童精神科外来には、そんな「子どものコミュニケーション力」について悩んでいる保護者が本当に増えています。
コミュニケーション力は社会人としてのスキルだけでなく、子どもの心の健康にも大きく影響します。実際、子どもの頃に育んだコミュニケーション力は、脳の成長にも欠かせないことが医学論文でも証明されているのです。
今回、子どものコミュニケーション力に焦点をあてて、いかにコミュニケーション力が子どもの成長に重要かを医学論文によって見ていきます。そして、コミュニケーション力を実際に育む5つの方法を紹介します。
これからの社会に必要な「コミュニケーション力」
世界中と繋がり、異なる文化や価値観を持つ人々と共に働く機会が増えるなかで、より円滑なコミュニケーションが求められるようになっているのです。
また、世界保健機関(WHO)の報告書では、特にコロナ禍から「メンタルヘルスを保つためには、SNSなどのインターネットの情報をうのみにせず、リアルなコミュニケーションを持つことが大切である」とあります。
医学的に証明…コミュニケーション力が子どもの脳に与える効果
社会的にも重視されるコミュニケーション力ですが、コミュニケーションは脳の発達にも欠かせません。実際、子どものコミュニケーション力が成長や脳の発達に重要であることは、多くの研究で証明されています。
たとえば、コミュニケーション力や感情的なボキャブラリーの数と、学童期のメンタルヘルスの関連性を調べた論文によると、社会的コミュニケーション能力が高いほうが、行動的メンタルヘルスの問題が起きにくいとされています。
また、子どもの言語能力やコミュニケーション力は、脳の機能や神経回路の発達そのものに大きな影響があることが示されています。たとえば、虐待や暴言などで正しいコミュニケーションが取れなかった子どもは、疑似的な自閉症や注意欠如多動症(ADHD)様症状の障害がでやすいといわれています。
現に、虐待により親と正常なコミュニケーションを取ることができなかった子どもは、併存症として、広汎性発達障害(29.1%)、注意欠陥多動障害(15.7%)、知能障害(8.6%)、反応性愛着障害(40.8%)、解離性障害(47.1%)、PTSD(32.3%)、反抗挑戦性障害(19.6%)、素行(行為)障害(25.3%)など、数々の脳機能に関わる問題が生じることがわかっているのです。
このように、子どものコミュニケーション力を育てることは社会的側面だけでなく、脳機能の面からもとても大切だといえます。
子どものコミュニケーション力を育む5つの方法
では、コミュニケーション能力を適切に育てるためには、どんなことに気をつければよいでしょうか。特に重要とされるポイントを5つあげてみましょう。
①親子でコミュニケーションを大切にする
まずは、子どもとの会話を積極的に楽しみましょう。
子どもの話を聞くことはもちろん、親が自分の考えや感情を伝えることも重要です。親子間のコミュニケーションが円滑であれば、子どもは自分の意見を表現する力や他者への理解力を自然と身につけることができます。
②子どもの興味や関心をサポートする
子どもの興味や関心に対して、親が関心を示し、一緒に活動を楽しむことで、コミュニケーション力の向上につながります。
特に大切なのは、適切なタイミングで「ほめる」こと。子どもの特定の行動をほめると、子どもはもっと気分が良くなり、どんどん興味があることにチャレンジしていきます。
さらに「よくやった!」だけではなく、「特によかった点」をもっと具体的にほめるようにしてみましょう。
③うまく言えないときも焦らずサポートしましょう
最初の時はなかなか適切な単語が出てきません。そんな時、「なに言ってるかわからない!」と子どもを怒鳴りつけていませんか? すると、子どもコミュニケーションに自信がもてなくなってしまいます。
子どもが感情をうまく表現できるように、親がサポートしてあげる姿勢が大切です。感情を理解し、適切に表現する力は、コミュニケーション力の基本。子どもが感情を抑え込まず、自然に表現できる環境を作るようにしていきましょう。
④聴く力を養う(アクティブリスニング)
コミュニケーション力を向上させるためには、他者の話を理解し、受け入れる必要があります。そのため、親は子どもに対して、相手の話を聞くことの大切さを教え、練習させることが重要です。
そのようななか、最近取り入れられている方法が「アクティブリスニング」と言われる方法。アクティブリスニングは、「きちんとあなたの話を聴いているよ」と伝えるために、励ましの笑顔や肯定的なうなずきなどのジェスチャーを使用していきます。そうすることで、子どもはより安心して、親とのつながりを感じられるのです。
他のアクティブリスニングの技法として、「どうしてそう思ったの?」などの質問をして、相手の話を熱心に聞いていることを示してあげるのも有効です。アクティブリスニングができると、自然と会話が弾むようになり、友達と会話がしやすくなります。
⑤他者との関わりをうながす
親と十分なコミュニケーションの練習ができれば、家族以外の人とも関わる機会を与えてみましょう。友達や先生、近所の人との交流を通じて、子どもはコミュニケーションスキルや社会性を学びます。
また、チームスポーツやクラブ活動に参加させることも、子どものコミュニケーション力を向上させる手段です。とにかくどんなスキルも数が必要。場慣れすることで、どんどんスキルがアップしてきます。
以上、子どもの成長にも欠かせないコミュニケーション能力を育むためにも、ぜひ普段から意識してみてください。
秋谷 進
東京西徳洲会病院小児医療センター
小児科医
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