23年8月、消費者物価指数の対象522品目のうち8割が前年に比べて上昇しています。本稿ではニッセイ基礎研究所の斎藤太郎氏が、各項目の動きを振り返りながら、年度末に向けての物価見通しについて解説します。

1.電気・都市ガス代の下落率拡大がコアCPIを押し下げ

総務省8月18日に公表した消費者物価指数によると、23年7月の消費者物価(全国、生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は前年比3.1%(6月:同3.3%)となり、上昇率は前月から0.2ポイント縮小した。事前の市場予想(QUICK集計:3.1%、当社予想は3.2%)通りの結果であった。

全国旅行支援の一部終了に伴い宿泊料(6月:前年比5.5%→7月;同15.1%)の上昇ペースが加速し、携帯電話通信料(6月:前年比2.9%→7月:同10.2%)の上昇率が高まったが、電気代、都市ガス代の下落率が拡大したことがコアCPIを押し下げた。

生鮮食品及びエネルギーを除く総合(コアコアCPI)は前年比4.3%(6月:同4.2%)、総合は前年比3.3%(6月:同3.3%)であった。

生鮮食品及びエネルギーを除く総合(コアコアCPI)は前年比4.3%(6月:同4.2%)、総合は前年比3.3%(6月:同3.3%)であった。

コアCPIの内訳をみると、ガソリン(6月:前年比▲1.6%→7月:同1.1%)が6ヵ月ぶりに上昇し、灯油(6月:前年比▲2.2%→7月:同▲1.4%)の下落率が縮小したが、電気代(6月:前年比▲12.4%→7月:同▲16.6%)、ガス代(6月:前年比▲1.1%→7月:同▲5.3%)の下落率が拡大したことから、エネルギー価格の下落率は6月の前年比▲6.6%から同▲8.7%へと拡大した。

ガソリン、灯油は6月から燃料油価格激変緩和措置の補助が段階的に縮減されている中、原油高、円安が進んでいることが価格の押し上げにつながっている。

食料(生鮮食品を除く)は前年比9.2%(6月:同9.2%)となり、上昇率は前月と変らなかった。外食は23年3月の前年比6.9%をピークに4ヵ月連続で伸びが鈍化し、7月には同5.5%となったが、菓子類(6月:前年比10.8%→7月:同11.5%)、調理食品(6月:前年比9.9%→7月:同10.0%)は伸びをさらに高めている。

サービスは前年比2.0%(6月:同1.6%)と上昇率が前月から0.4ポイント拡大した。外食の伸びは鈍化したが、全国旅行支援の縮小から宿泊料の伸びが加速したほか、タクシー代、携帯電話通信料の値上げなどがサービス価格を押し上げた。

  コアCPI上昇率を寄与度分解すると、エネルギーが▲0.78%(6月:▲0.58%)、食料(除く生鮮食品・外食)が1.91%(6月:1.88%)、その他財が1.00%(6月:1.23%)、サービスが0.99%(6月:0.89%)、全国旅行支援が▲0.03%(6月:同▲0.13%)であった。

2.物価上昇品目の割合は8割越えが続く

消費者物価指数の調査対象522品目(生鮮食品を除く)を前年に比べて上昇している品目と下落している品目に分けてみると、7月の上昇品目数は437品目(6月は438品目)、下落品目数は42品目(6月45品目)となり、上昇品目数、下落品目数ともに前月から若干減少した(横ばい品目が増加)。

上昇品目数の割合は83.7%(6月は83.9%)、下落品目数の割合は8.0%(6月は8.6%)、「上昇品目割合」-「下落品目割合」は75.7%(6月は75.3%)であった。

3.ガソリン、灯油価格は大幅上昇へ

7月のコアCPIは前年比3.1%となり、電気代、ガス代の下落幅拡大を主因として、上昇率が前月から0.2ポイント縮小した。しかし、コアコアCPIは前年比4.3%と前月から伸びを高めており、基調的な物価上昇圧力は高まっている。

ガソリン、灯油等に対する燃料油価格激変緩和措置の補助率は6月以降、段階的に引き下げられており、9月末には同措置が終了する予定となっている。

補助率の縮小に円安、原油高が重なったことで、ガソリンの店頭価格は13週連続で上昇している。8/14時点のガソリン店頭価格は、1リットル当たり181.9円(全国平均、レギュラー)まで上昇し、過去最高値(08年8月の185.1円)に近づいている。激変緩和措置が予定通り終了した場合、ガソリン、灯油は前年比で二桁の高い伸びとなる公算が大きい。  

また、23年2月から実施されている電気・都市ガス代の激変緩和措置は、10月には値引き額が半減される予定となっている。ガソリン・灯油、電気・都市ガス代を合わせた激変緩和措置によって、コアCPI上昇率は22年1月以降、押し下げられてきたが、23年10月には逆に押し上げ要因となることが見込まれる。

4.コアCPIは23年度末まで2%の物価目標を上回る伸びが続く見込み

足もとで再び円安が進んでいることには留意が必要だが、物価高の主因となっていた輸入物価の上昇には歯止めがかかっており、23年7月の輸入物価は前年比▲14.1%の大幅マイナスとなった。

このため、今後は原材料コストを価格転嫁する動きが徐々に弱まり、財価格の上昇率は鈍化することが見込まれる。  

一方、サービス価格は2%まで伸びを高めたが、サービス価格との連動性が高いベースアップが23年に2%程度となる中で、長期にわたり値上げが行われなかった分、値上げ幅が大きくなる可能性が高いことを考慮すれば、上昇ペースはさらに加速する可能性が高い。物価上昇の中心は、これまでの財からサービスへ徐々にシフトしていくだろう。  

現時点では、コアCPIは前年の高い伸びの裏が出ることもあり、23年9月に2%台後半に伸びが鈍化した後、電気・都市ガス料金の補助金が10月に半減された上で継続することを前提として、23年度末まで2%台の伸びが続くと予想している。

(写真はイメージです/PIXTA)