エアコンの効いた部屋から屋外に出たときに、体の調子が悪くなったことはありませんか。一般的に、急激な温度変化によって体がダメージを受けることを「ヒートショック」と言いますが、冬に浴室から出た際に起きることで有名です。冬のような寒い日だけでなく、暑い日もヒートショックが生じる恐れはあるのでしょうか。あんどう内科クリニック(岐阜市)の安藤大樹院長に聞きました。

動脈硬化」リスクが高い高齢者は要注意

Q.ヒートショックといえば冬に起こるイメージですが、気温が高い時期にも起きる可能性はあるのでしょうか。

安藤さんヒートショックとは、気温の変化によって体に起こるダメージの総称を言い、多くは気温の急激な変化によって血圧が急激に変化することによって起こります。場合によっては、心筋梗塞や脳卒中などを引き起こし、最悪の場合、死に至ることもあります。

もともと人間には『ホメオスタシス(生体恒常性)』といって、環境の変化に対して体の状態を一定に保とうとする働きがあります。ただ、現代社会はエアコンで冷えた部屋から猛暑の屋外に出るといったように、10度以上の急激な温度変化もざらにあります。こういった環境は、自然界にはなかなかありません。そのため、われわれの体は急激な温度変化に対して、ホメオスタシスが十分に働かないのです。

この寒暖差は、冬だけでなくもちろん暑い日にもあります。例えば、『暑い屋外から冷房の効いた店舗に入ったとき』『エアコンの効いた車から外に出たとき』『冷房の効いたリビングから2階の自室に上がったとき』などです。このほか、夏バテ防止のため、暑いサウナと冷水を行き来して『ととのう』のも、ヒートショックを起こす可能性があります」

Q.では、エアコンの効いた涼しい部屋から暑い屋外に移動した場合、体はどのような状態に陥るのでしょうか。

安藤さん「基本的に、われわれの体は気温が低いときには血管が細くなり、血圧が上がる一方、気温が高いときには血管が広がり、血圧が下がります。つまり、涼しい部屋から暑い屋外に移動したときは、急に血管が広がってしまい、結果として血圧が下がってしまいます。この温度差が大きいほど血管の伸び縮みの変化が大きくなり、血圧の変動も大きくなるため、脳や心臓にかかる負担が大きくなります。

高血圧症脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病の持病がある人の場合や、加齢などで動脈硬化が進んだ人の場合、血管の壁の内側に『プラーク』と呼ばれるこぶができます。プラークが剥がれて、脳や心臓の細い血管に詰まってしまった場合、心筋梗塞脳梗塞を発症してしまうのです。

血圧が下がったときに最初に起きる症状は血の気の引くような感覚で、これが進むと目まいや立ちくらみなどの症状が認められることがあります。ひどい場合は意識を失ってしまうこともあり、転倒して頭をぶつけてしまう危険もあります。

症状が重度の場合、胸が締め付けられるような痛みのほか、『呼吸困難のような感覚』『吐き気』『激しい頭痛』『ろれつが回らない』『意識がもうろうとする』といった症状が認められることがあり、その場合は心筋梗塞脳梗塞が疑われます」

Q.ヒートショックになりやすい人の特徴について、教えてください。

安藤さんヒートショックは、誰にでも起こる可能性があります。特に、車による荷物の配送業に従事する人や、屋外と屋内を行き来する営業職の人など、暑い場所と涼しい場所を行き来することが多い職業の人は、ヒートショックが起こりやすいです。同様に、飲酒後すぐの入浴や、サウナ室と水風呂を繰り返し行き来するといった、サウナでの温冷交互浴なども、ヒートショックを引き起こしやすいため、注意が必要です。

中でも、ヒートショックの危険性が高いのは、動脈硬化のリスクが高い人です。特に高齢者は、若い人と比較して血管が硬くなっているため、血管の壁の内側にプラークが生じやすいほか、血圧の変動に伴うリスクも大きい傾向にあります。また、高血圧症の人は健康な人に比べて血圧が変動しやすいことが明らかとなっており、急激な血圧変動が起きやすく、ヒートショックを起こす可能性も高くなります」

ヒートショック」とみられる症状が出た場合は?

Q.もし、自分や家族にヒートショックのような症状がみられた場合、どのように対処すべきなのでしょうか。

安藤さん「先述のように、暑い日のヒートショックで多いのは、涼しい場所から暑い場所に移ったときに起きる血圧の低下です。目まいや立ちくらみを感じたら、無理に立ち上がろうとせずに頭の位置を低くして、十分な水分補給を行い、気分が落ち着くまで横になって休みましょう。十分な休憩を取っても症状が改善しない場合、もしくは頭痛や吐き気といった症状が生じたときは、血液の循環が悪くなっていることが疑われるため、受診をお勧めします。

もしご家族が『胸が締め付けられるような痛み』『息苦しさ』『激しい頭痛』『ろれつが回らない』『意識がもうろうとする』といった症状を起こした場合は、心筋梗塞脳梗塞など、緊急性の高い病気の可能性があるため、迷わず救急車を呼んでください。

もし、ご家族が入浴中に浴槽の中で倒れてしまった場合、溺れてしまう危険があるため、直ちに浴槽から引き上げてください。引き上げるだけの力がないなどで難しい場合は、お湯を抜いた上で119番通報し、救急車を待ちましょう。また、嘔吐(おうと)している場合は、吐しゃ物が喉に詰まり、窒息してしまう恐れがあるため、顔を横向きにする『回復体位』を取ってください」

Q.暑い日のヒートショックを未然に防ぐためのポイントについて、教えてください。

安藤さん「何よりも『寒暖差を少しでも減らすこと』がポイントです。また、脱水や体調不良もヒートショックのリスクになるため、要注意です。主に次の4点に取り組んでみましょう」

(1)部屋の温度を調節する
10度以上の寒暖差は、ヒートショックのリスクを高めるため、室温と外気温との差が10度以上にならないように調節しましょう。ただし、熱中症の危険があるため、室温が28度以下になるよう、エアコンの設定温度を調節してください。

普段いる部屋と他の部屋との温度差にも注意してください。特に気を付けたいのは、トイレや脱衣所、浴室です。トイレで息むと心臓に負担がかかるほか、排便後には血圧が下がるため、ヒートショックのリスクが増します。排便後は、ゆっくり立ち上がるようにしましょう。

(2)寒暖差の前に体を慣らす
プールに入る前は、心臓の辺りに水をかけて体を慣らすと思います。ヒートショックも、このような対策が有効です。例えば、外出時は突然、外に飛び出すのではなく、少し外気を入れてから外に出るようにしてください。外出先、特にスーパーなど生鮮食品を扱っているような場所は、室温が低く設定されていることがあるため、出口付近で外気温に体を慣らすようにしましょう。

一番危険なのは、クーラーで冷えた車内から急に暑い屋外に立ち上がって出るときです。10秒程度でいいので、ドアを開けてから立ち上がるまでの時間を確保してください。

(3)熱いお風呂や冷たいシャワーを避ける
入浴は特に温度差があるため、暑い日でも注意が必要です。まずは入浴前に十分に水分を摂取しましょう。脱水になると血液の流れが滞るため、ヒートショックのリスクが格段に増します。食事を取った直後や飲酒後も血圧が下がりやすいため、気を付けてください。

お湯の温度が高過ぎると、血圧の乱高下を招くため、温度が40度以内になるように調節しましょう。また、長風呂は体に負担をかけるため危険です。入浴は10分程度にとどめるのが良いでしょう。

暑い屋外から帰宅した後、すぐに冷たいシャワーを浴びるのも要注意です。急に血管が閉まってしまい、心筋梗塞脳梗塞を起こす危険性があるからです。こうした病気にかかるリスクが高い人でご家族が同居している場合、家族に声を掛けてから入浴するのをお勧めします。

(4)普段の体調管理に気を付ける
当たり前ですが、普段の体調管理が非常に大切です。ゆだるような暑さが続いている近年の7~9月は、食欲が落ちたり、睡眠の質が悪くなったりして、体調の管理が難しくなってきています。屋外でのちょっとした活動も熱中症のリスクになるため、どうしても運動不足にもなりがちです。

普段から有酸素運動をすると、血圧を調整する力が強くなります。有酸素運動を習慣付けるとよいでしょう。また、暑い時期は山芋やニラ、大葉、豚肉、カツオ梅干しキュウリなど、夏バテ予防に効果的な食べ物を積極的に摂取するのをお勧めします。質の良い睡眠を取るために、夜間でも積極的にエアコンを使用してください。

オトナンサー編集部

暑い日も「ヒートショック」に要注意