今年3月にリリースした12枚目のアルバム『BLONDE 16』を携えた全国ツアー【加藤ミリヤ "BLONDE16 Zepp TOUR" supported by NOISM】の最終公演。デビュー19年目を迎える加藤ミリヤは、舞台美術や演出効果も含めたコンセプチュアルな世界観を構築することも得意だが、東京・Zepp HANEDAのステージは、派手な装飾は皆無で、バンドセットだけが置かれていた。それは、初めてブロンドにした16歳のデビュー当時を振り返ったアルバムを具現化したステージであり、鍛え抜かれた自分の体(声)ひとつで観客とコミュニケーションをとりたいという姿勢の表れであるようにも感じた。最新アルバムは平成ギャルのカリスマと称された自身のルーツを再確認するものだったが、ファンと一緒に純粋に音を楽しみたいという音楽の原点にも立ち返ったようなライブとなっていた。

 オープニングを飾ったのは、アルバムの1曲目である「Respect Me」であった。ダンサー4人を従えたミリヤがピンヒールニーハイブーツで登場すると、フロアは赤のペンライト一色で染まった。自分自身を褒め称え、崇める強い女性像を体現すると、観客のテンションは一気に引き上げられ、<ギャルならギャルらしく暴れろ!>と鼓舞する「GAL GO」から、平成ギャルのアンセムとも言える「ディア ロンリーガール」へ。ミリヤの「みんな最高! もっと声を聞かせて」という呼びかけを合図に大合唱が沸き起こり、会場が熱気と一体感に包まれるなかで、彼女は観客一人一人に向けて「大丈夫だから」というメッセージを届けた。

 大歓声で迎えた満員の会場を見渡したミリヤは「ヤバッ! すごっ!! 元気だった?」と声出し解禁ライブの再開に喜びの声をあげ、「自分のライブでみんなが前みたいにマスクを外せて、自由に歌えて、自由に叫べるっていうツアーがめちゃめちゃ久々で。ほんとに最高です」と笑顔を見せた。さらに、彼女の要望に応えて、ペンライトを赤で統一した観客に感謝の気持ちを伝えると、「赤いライト見ると、自然とめちゃめちゃテンション上がるの。赤は血の色で、これが自分の血液だと思って見てたから、血管が見える気持ちで幸せです」と続け、この日は生配信も行われていることを報告。「来月でデビュー19周年になるんですけど、このアルバムを作るときにデビュー当時を思い出して。メラメラしてて、めちゃくちゃ燃えてて、言いたいことがたくさんあった。そんな自分に、今になって戻れた感覚があったアルバムだから、今日もティーンに戻ったみたいなエナジーでステージに立とうとやってきて。そういうパワーをみんなに感じてもらいたいし、とにかく楽しんでもらうセットリストを準備してきたので、どうか歌って、踊ってください」と語ったあと、“自分を強く持っているギャルマインド”を提示したアルバム収録曲を連発。「1年前に描いた夏の曲なんですけど、こうやってみんなと一緒に歌えるのをイメージして作った、今日みたいな暑い日にぴったりの最高な曲」と紹介した「KILL MY LOVE」からインタールード「Kill Blonde 16」を挟み、「One Night Party」と続くアルバムと同じ並びのパートでは、ヒップホップをベースにしたエレクトロニックな夏のダンスナンバーで観客を踊らせ、「BAD CHASING」ではラッパーのShowyRENZOが登場し、東京公演のみとなるスペシャルなコラボが実現。歌、ラップ、ダンス、バンドのアンサンブルによって高揚感たっぷりのグルーヴが生まれ、今年5月にデジタルリリースされた「PRAYER」では、歌の根底に祈りや願いが込められているR&Bシンガーであるミリヤのラッパーとしての魅力を存分に発揮。さらに、アーバンなR&Bバラード「Lick Me Baby」ではオートチューンのかかった歌声を響かせて、観客を心地よく揺らするなど、彼女の表現者としての多彩さが際立つブロックとなっていた。

 ニューアルバムを中心としたセットリストの中で、ライブ中盤には、既発曲をEDMにリミックスしたアップリフティングメドレーも用意されていた。6枚目のアルバム『TRUE LOVERS』の収録曲「With U」や5枚目のアルバム『HEAVEN』収録曲で、DAISHI DANCEタッグを組んだハウスナンバー「I miss you」でライブハウスをダンスフロアへと変貌させると、清水翔太とのデュエットナンバー「Love Forever」ではフロアから<OH YEHA!>のコールが上がり、80'sシンセポップ「眠れぬ夜のせいで」では弾力性のあるパフォーマンスで観客のジャンプを引き出した。そして、「一回きりの人生、思い切りたのしもうよ」という彼女の言葉によってヴォルテージがさらに上がり、ダフトパンクの名曲をサンプリングした「FUTURE LOVER -未来恋人-」では<One More Time>を全員で大合唱。ミリヤは20代になった2008年ごろからR&Bやヒップホップと四つ打ちハウスの融合にトライしていたが、Y2Kファッションやギャルマインドとともに、音楽のトレンドもリバイバルしており、彼女のダンサブルな楽曲群はミラーボールが煌めくフロアで最新のサウンドとして響き、観客を踊らせていたことは特筆しておきたい。

 フロアの熱が冷めやらない中で、ミリヤは「マイクを通してない、本当の声を届けたい」という思いから、マイクを外して、観客に語りかけた。さらに、友達同士のような等身大で自然体のトークを繰り広げた彼女は、客席から飛んだ今後に対する質問に「私が歌ってる理由はあなたたちの存在があるからです。普段もらっているファンレターは全部読んでいて、パワーをもらっていて。みんなが『加藤ミリヤ、歌って』と言ってくれるから歌えます。私は歌い続けたい……歌わせてください」と答え、ファンへの思いを綴った「H.I.K.A.R.I.」を急遽、アカペラで熱唱すると会場からは温かく大きな拍手が送られた。

 スタンドマイクでエモーショナルに歌ったロックナンバー「Goodbye Darling」、観客が右手を掲げて左右にゆったりと揺らしたアーバンR&B「CryBaby」に続き、90's R&B「Lonely Hearts」では、スタンドからマイクを外し、ステージに跪いて観客と同じ目線で歌唱。楽曲の中で<みんな、大丈夫だから>と訴えかけた彼女は、その後のMCで「何か心の中に寂しいものがあって。毎日、それなりに楽しいことはあるけど、自分が人生に求めているものはこれじゃないって思うことがあって、音楽を始めて、歌を唄うようになって。いつも曲を書くときに、みんなのことを考えるの。『Lonely Hearts』は、みんなは一人ぼっちではなくて、<いるよ、私が>っていうことを伝えたかったんです。少なくとも、私はあなたのことをめちゃくちゃ必要としているよ」と真っ直ぐにメッセージを伝えた。そして、「私は歌って、みんなの心のそばにいくことが、自分の役割で、自分の使命だと思っていて。こうしてライブをしていても、みんなの顔を見ていると、めちゃくちゃ幸せでいてって思っていて。それが私からの愛だと思うし、私のBIG LOVEが伝わったらいいなと思います」と語り、ニューアルバムのラストナンバーで、「二人の子供のことを思って描いた」というピアノバラード「愛の人」をソウルフルに歌いあげると、彼女の心を尽くした歌声によって会場が大きな愛に満ち、温かい涙が誘われるほどの多幸感に包まれた中で締めくくられた。

 鳴り止まない“ミリヤコール”の声に応え、ステージに再び登場した彼女は、ルーズソックスにローファー、制服のようなミニスカートというJKスタイルで「オトナ白書」をドラマチックに歌唱し、自分に絶対的な自信を持っている強さのあるギャルマインドをもって、<愛するあなたのシンボルであり続ける>という決意を表明。改めて、「これからも活動し続けたいと思うので、皆さん、どうかずっとついてきてください」と未来に向けた思いを口にし、「KILL MY LOVE」の続編で8月16日にリリースしたばかりの新曲のレゲトン「ROCK YOUR BODY」、恋人にはなれない友達に対する揺れる恋心を歌ったラブソング「Never call me again」、<今夜が最高のShow>というフレーズを実感させてくれたチルアウトできるグッドバイブスのアンセム「WILD & FREE」で心と身体を開放し、ライブはクライマックスへ。「あなたたちは愛されているから、自分の人生に自信を持って楽しんで、一緒に生きていきましょう」と伝え、ヘヴィーなギターとシンセが響く「DEVIL KISS」でフロアをぶち上げ、真っ赤なハートビートとエネルギーをぶつけ合うと、「私が歌う意味を与えてくれて、本当にどうもありがとうございます。今日は胸がいっぱい」と感謝の言葉を送り、「愛し、愛されて生きてください」と続け、ステージから客席まで、一人ひとりの心が愛で満ち足りたライブはエンディグを迎えた。デビュー19年目を迎えて、10代の頃のようなギャルマインドを取り戻し、「まだまだやりたいことがたくさんある」と情熱的に語っていた彼女は、アルバムリリース後にすでに2曲も新曲を発表している。この先の未来も自分を強く持っている“ギャルのカリスマ”としてファンの人生に寄り添い、よりアクティブに活動していくことが期待できるようなツアーだったと思う。


Text : Atsuo Nagahori


◎公演情報
加藤ミリヤ "BLONDE16 Zepp TOUR" supported by NOISM】
2023年8月18日(金) 東京・Zepp Haneda(TOKYO)

<ライブレポート>加藤ミリヤが“ギャルマインド”を見せつけたZeppツアー最終公演「歌でみんなの心に寄り添うことが自分の役割で使命」