最新の歩兵戦闘車が必要だというウクライナの願いに応じ、スウェーデンがその供与に留まらず、ウクライナでの現地生産まで叶えそうです。どのような車両なのでしょうか。ロシアの反発は必至ですが、その背景に別の国の意向も見えます。

「最新の歩兵戦闘車が必要」を叶えるスウェーデン

ウクライナウォロディミル・ゼレンスキー大統領が2023年8月19日スウェーデンを訪問し、同国のウルフクリステルソン首相と首脳会談を行いました。ゼレンスキー大統領は会談終了後「戦場では最新の歩兵戦闘車」が必要とされていると述べています。

歩兵戦闘車は兵士を最前線まで輸送するとともに、搭乗する兵士が車内から戦闘を行える能力や、搭載する強力な火砲で敵の装甲車両などと戦う能力を兼ね備えた装甲車両です。

戦車は対戦車ミサイルなどによる兵士の肉薄攻撃に対しては意外と脆いのですが、歩兵戦闘車は搭載する火砲で敵兵士の戦車に対する肉薄攻撃を阻止することも重要な任務で、戦車の「相棒」として、近代的な陸軍には無くてはならない存在となっています。

ウクライナは反転攻勢のため各国に歩兵戦闘車の供与を求めています。スウェーデンはこの求めに応じた国の一つで、自国の陸軍が運用している「CV9040」歩兵戦闘車を50両以上、無償で供与したほか、予備部品の提供や整備、運用にあたるウクライナ軍要員の訓練といった支援も行っています。

スウェーデンが供与したCV9040はウクライナ軍の第21独立機械化旅団に配備され、その一部は戦闘で破壊されたり、ロシア軍に鹵獲(ろかく)されモスクワ近郊のテーマパーク「愛国者公園」で展示されたりもしているようですが、CV9040の高い攻撃力と機動力はウクライナ軍内部でも高く評価されているようです。

ゼレンスキー大統領も「CV90は前線で必要とされている“クール”な歩兵戦闘車だ」と述べています。同大統領に「クール」と言わさしめたCV9040とは、いったいどのような装甲車両なのでしょうか。

オールスウェーデンの最強歩兵戦闘車

CV90の開発は1984年から開始されており、車体は装甲車両メーカーのへグルンド・ビークル、主砲は老舗兵器メーカーのボフォース・ディフェンス、エンジンはスカニアという、オールスウェーデン体制で開発されました。

「CV」は戦闘車両の英語表記“Conbat Vehicle”の略語ですが、この名称は輸出仕様だけに使用されており、スウェーデン陸軍では戦闘車両のスウェーデン語表記“Stridsfordon”を略したstrf90と呼ばれています。

「90」の後ろの数字は主砲の口径を意味しています。スウェーデン陸軍が採用し、ウクライナにも供与されたCV9040は、ボフォース・ディフェンスが開発した40mm機関砲を主砲として装備しています。

一方ノルウェーなどに採用されたCV90は、主砲として口径30mmの機関砲を装備していることからCV9030、オランダなどに採用されたものは口径35mmの機関砲なのでCV9035と呼ばれています。

CV9040の40mm機関砲は、現在世界の歩兵戦闘車が装備している主砲の中では最も強力であると言われており、対戦車戦闘に用いるAPFSDS弾を用いれば、ほとんどの戦車の後部を貫徹できると言われています。

また段階的に能力向上改修が施されており、最新バージョンは、砲安定化装置の装備により40mm砲機関砲の命中精度が大幅に向上。スウェーデン陸軍の公式サイトに掲載されているウクライナへ供与されたCV9040は、防御力を強化する増加装甲の装着が確認されています。

CV9040をウクライナで生産? ロシアからの反発必至でも

ゼレンスキー大統領クリステルソン首相は首脳会談後、CV9040を通じた協力をさらに強化していくための意向表明書に署名しており、ゼレンスキー大統領は署名後、ウクライナ国内でCV9040を生産することで、スウェーデン政府と合意したとも述べています。

ウクライナ供与兵器の国内生産に踏み切る事例としては、ドイツの防衛大手企業ラインメタルが先行しています。同社のアーミン・パッペルガーCEO(最高経営責任者)が2023年7月、ウクライナの国営防衛企業ウクロオボロンプロムとの合弁企業を設立し、ウクライナ国内でラインメタルの装輪装甲車「フクス」を生産する計画を明らかにしています。

ただ「フクス」は機銃などの固定武装を装備しておらず、ゼレンスキー大統領の発言が事実だとすれば、強力な固定武装を持つ外国製装甲車両のウクライナ国内での生産は、CV9040が初となります。

スウェーデンロシアに対して断固たる姿勢を示す傾向の強い国ですが、実現すればロシアから大きな反発を受ける可能性の高いCV9040のウクライナでの生産は、容易なことではありません。

CV90の開発を主導した企業のうち、へグルンド・ビークルとボフォース・ディフェンスは、イギリスに本社を置く防衛大手企業、BAEシステムズの子会社となっています。

イギリスは様々な形でウクライナに強力な支援を行っている国の一つであり、CV9040のウクライナ国内での生産が実現するとすれば、同国政府がBAEシステムズを通じてスウェーデン政府にバックアップを確約したからなのではないかと筆者(竹内修:軍事ジャーナリスト)は思います。

2022年6月にフランスのパリで開催された防衛装備展示会「ユーロサトリ2022」にBAEシステムズが出展したCV90の最新仕様「CV90 Mk.IV」(竹内 修撮影)。