俳優・タレントとして活動する北原里英が、小説デビュー作となる「おかえり、めだか荘」を8月30日(水)に発売。AKB48・NGT48のメンバーとして活躍したアイドル時代の経験も生かしつつ、ルームシェアをするアラサー女性4人の仕事や恋愛、結婚、家族の悩みをリアルに描いている。北原に本作へ込めた思いや、2021年に結婚してからの人生観の変化などを語ってもらった。
【写真】 「小説を出したことがゴールじゃない、映像化を目指す」と目標を明かした北原里英
■「光るものを感じます」と言っていただきました
――今回、北原さんが小説を書くことになった経緯を聞かせてください。
事務所の方が「編集者が小説を書けるタレントを探しているから、文を書くことは好きだし、やってみない?」と声を掛けてくれたんです。それで、今の「おかえり、めだか荘」に近い形のものと、擬音を使った絵本のようなテイストのもの、二種類を書いて送ってみたところ、編集担当の方から「光るものを感じます」と言っていただきました。「私が選ばれるはずがない」と半信半疑で話を聞きに行ったのを覚えています。
――文章を書く仕事の経験は?
全然やったことはなくて。連載などを持っていたわけでもないので、ブログやSNSに書いたちょっとした文章を見て事務所の方も声をかけてくれたのだと思います。私は書くことも好きですが、妄想もすごく好きなので、そういう“妄想力”のようなものにも期待していただいたのかなと感じています(笑)。
■自身のルームシェア経験を生かして執筆
――「おかえり、めだか荘」のアイデアはどういったところから生まれたんですか?
AKB48での活動期間や「テラスハウス」(フジテレビ)への出演などで、人より豊富にルームシェアを経験していたので、それを生かすのが良いんじゃないか、とヒントを頂きました。
それから、自分と同年代の30歳前後の女性は、人生の中でも特に多くの選択を迫られる年齢だと思うのですが、このお話を頂いたのは私が結婚をする前だったこともあって、そういう心境なら書けるんじゃないかなと思いました。それで、アラサー女性のルームシェアの話を書くことにしました。
■執筆期間に結婚したことで考えが変わった
――4人の女性が各章の主人公として描かれていますが、それぞれの性格やバックボーンは北原さん自身を反映させていることもあるのでしょうか?
4人がそれぞれ自分に近い人物だと全員が似てしまうなと思ったので、そうならないように書いていました。でも、ほぼ完成したものをAKB48同期の内田眞由美ちゃんに読んでもらったら「全員、里英ちゃんと似ているところがある」と言われたんです。やっぱり私が書いているので、どうしても私のエキスはちょっとずつ入っていたみたいです(笑)。
――登場人物の一人である楓が結婚に迷う場面で、北原さんの結婚観が垣間見えたような気がしました。
当時は、私自身も結婚に対して楓のように「これでいいのかな」という思いもありました。私は小さい頃から「30歳くらいで結婚したいな」と思っていたので、楓ほどの葛藤はありませんでしたが、それでも仕事と結婚を天秤にかけたことはあります。それは私だけじゃなく、仕事をしている女性だったら誰もが考えることなんじゃないかなと思うんです。
最初に楓の話から書き始めたのですが、2年の執筆期間の内に私自身が結婚したことで考えが変わり、この章は最後に書き直しました。
私も楓と同じように「結婚したら仕事の仕方が変わってしまうのではないか」という不安がありましたが、実際に結婚したら全然そんなことはなくて、むしろさらに「仕事を頑張ろう」と思えたり、人生が豊かになったりしたので、「結婚ってすごく良いものだな」という実感を持って書くことができました。
――北原さんご自身が結婚を決断した決め手は何だったのでしょうか?
私の場合はコロナ禍の影響が大きいです。それまですごくアウトドアでアクティブだった生活スタイルが大きく変わって、強制的に人生を見つめ直すような期間になりましたが、「二人でずっと家にいるのが楽しかった」ということが、結婚に踏み切るきっかけになりました。
■水着グラビアは「今でもやれます」
――俳優の那智が“脱ぐ”作品への出演に葛藤する場面もありました。
私自身は「脱がなきゃいけない」と切羽詰まった経験はないのですが、女優として舞台に立ったりしたことはあるので、想像して書きやすい話でした。
――北原さんはアイドル時代にグラビア活動もされていましたが、水着への抵抗はあったんですか?
たしかに水着も脱いでいるな…と今、気付きました(笑)。そこに関してはびっくりするくらい抵抗はなかったですね。私はたぶん恥じらいがないタイプなので、「どうしても水着グラビアをやってほしい」と言われれば、今でもやれます。
――グラビアとは別物なんですね。
“脱げる人”が条件というオーディションもあるし、すごく面白そうな作品に「どうしようかな」と悩んだことはあります。私は結局そのオーディションは受けなかったのですが、心境はリアルに書けたのではないかなと思います。
小説を書いてみて、自分の語彙力の無さにびっくりさせられる毎日でしたが、そんな中で他の小説家さんが持っていないものと言ったら、「女優をやったことがある」という実体験だと思うんです。取材して書くこともできるかもしれないけど、取材だけでは分からない「舞台初日に乾杯するビールのおいしさ」などもあるし、そういった意味では、那智の話は少し自信の持てる章なんです。
■実体験のない章が一番難しかった
――父親との複雑な関係を描いた、柚子がメインの章もすごくリアルだと感じました。
そこは一番難しかったです。なぜなら、私は大円満のハッピー家庭出身なので(笑)、家族のトラブルって想像するしかなかったんですよね。私は会社に行ったこともないので、会社の場面を書くにも部長と課長の序列も分からないくらいでした。実体験が何もないような章なので、リアルと言ってもらえてすごくうれしいです。
――現段階で、次回作の構想はあるのでしょうか?
実は書きたい題材が一つあるのですが、今回のように書き上げるのに2年掛かるかもしれないし、2年後は今とブームが変わっているかもしれないな、と思ったりもしています。今後も書けるかどうかは私にも分かりませんが、達成感はあったし楽しかったので、もしもう一度チャンスがあるのならまた書きたいですね。
■“シェアハウスあるある”も小説の中に登場
――今作は北原さんのシェアハウスの経験を生かしたということですが、“シェアハウスあるある”のようなものは何かありますか?
「テラスハウス」に住んでいた時にごみ出しで揉めたのですが、その体験は小説の中にも入れていて、ほぼ実話です(笑)。当時はすごく忙しかったので、「申し訳ないな」と思いながらもごみ出しを全然やっていなかったんです。「テラスハウス」って6人で住むので、たくさんごみが出るんですよ。朝、ごみを出しそびれると溜まっていくので、役割をちゃんと決めるため会議になりました。
――結婚もある意味シェアハウスの一種だと思いますが、ご家庭では家事の分担をどうされていますか?
うちは「忙しくない方がやる」というスタイルを今のところ取っています。ただ、食事に関しては私が作って、食器洗いは旦那さんがやってくれるんです。洗濯は基本、暇な方がやりますね。
■30代、結婚…北原里英の人生観に変化
――アラサー女性を描いた本作ですが、北原さんは30代を迎えられて人生観に変化はありましたか?
子どものことも考え始めてはいますし、変化はあります。結婚をして、一人じゃなくなったことで「これから先はどうにかなる」と安心できたんです。仕事を辞める気はありませんが、子どもができたら少しセーブしたいなとは思っていて、今後は家族の時間に重きを置いていけたらいいな、とも考えています。
ただ、常に新しい挑戦をしないと気が済まないタイプでもあるので、今回、小説に挑戦させてもらえたことは光栄でしたし、30代後半、40代、と年齢を重ねた時に、また新しいものに挑戦できたらいいなという思いはあります。
■AKB48・OGメンバーとは家族ぐるみの付き合いに
――AKB48の元メンバーにも、結婚したり母親になったりとライフステージを変化させている方が多いですよね。
やっぱり、みんなのことは意識して見ています。子どもができたことによって交友関係に変化があったりして面白いんですよね。
ともちん(板野友美)がママになって、あきちゃ(高城亜樹)とYouTubeを撮っているのを見ました。旦那さんがアスリートのママ友という共通点もあってか、今まで以上に話が合うようになったんだろうなと感じます。
――北原さんは、結婚を経てより話すようになったメンバーはいますか?
たかみな(高橋みなみ)の旦那さんとうちの旦那がすごく仲良しなんです。もともと、私はたかみなの旦那さんとも仲が良くて、3人でご飯に行くような関係だったんですけど、夫を紹介してからは夫が先に誘われるようになりました(笑)。
家族ぐるみのお付き合いが最近増えてきて、それも楽しいです。子どもができたら人生観がまた変わると思うので、そういう時にまた文章に残すことができたらすてきだなと思うので、また書きたいものが生まれたらいいなと思っています。
■小説を出したことがゴールじゃない…映像化を目指す
――最後に改めて、読者の方にメッセージをお願いします。
“元アイドルの人”が書いている小説ということで、それによって手を取りやすいパターンもあるだろうし、それによって敬遠されちゃうパターンもあると思うんです。でも、そういうことを抜きに面白いものが書けたのではないかなと思っているので、作者が誰、ということを一旦忘れて読んでいただけたらうれしいです。同年代の女性の方には特に届いてほしいなと思っています。
それから、実は私、この作品で映像化を目指しているんです。小説を出したことがゴールじゃないと思っているので、本を出版したことによって新しい物事のスタートラインに立った気持ちでいたいなと思っています。
◆取材・文=山田健史
コメント