北朝鮮の国営・高麗航空は今月22日、平壌北京線の運行を3年7カ月ぶりに再開、隔日で運行されている。また、ロシアのウラジオストクからの便も25日に再開された。

陸路は16日に再開しており、滞在期間が終わっても帰国できずにいた留学生、派遣労働者、貿易関係者の帰国ラッシュとなっている。ただ、家族との再会を喜ぶ嬉しいものではなく、気が重くなるもののようだ。

久しぶりの帰国したとたん、空港から国家保衛省(秘密警察)の要員により連行される人も出ている。彼らの運命は、悪ければ収容所送りや処刑さえあり得る。

平壌のデイリーNK内部情報筋によると、新型コロナウイルスの国内流入を防ぐための国境閉鎖により帰国できなくなり、中国での滞在を続けていた貿易代表部のイルクン(幹部)たちは、運航が再開された高麗航空で順次帰国させられている。彼らは帰国後、1週間隔離され、医師による検査で問題がなければ、晴れて解放される。しかし、休む暇もない。すぐに総和(総括)が始まるためだ。

彼らに対する朝鮮労働党中央委員会(中央党)の総和(総括)事業の内容と日程が欠かれたスケジュール表が、所属する組織に送られた。例年なら1カ月から長くとも40日で終わる総和だが、今回は2カ月から2カ月半も行うという。北朝鮮はそれに伴い、予定されていた年1回の一時帰国と総和ができなくなった。そのため、現地で略式の総和を行って、その結果を本国に報告する方式としていた。

「海外で自分たちで総括を行って報告書を送るのは、(国境封鎖という)環境によりしかたなく行われた形式的なもの。そこで今回改めて詳しく評価しようとしている。コロナ期間の外交、国防、社会科学、保衛、貿易部門の海外駐在員の党的検討を深く行う」(情報筋)

北朝鮮の監視システムは性悪説に立脚しており、表向きは国と党、金正恩総書記に忠誠を誓っていても、裏では何をしているのかわからないと疑ってかかる。ひとりが複数の人を監視し、複数の人から監視されるという相互監視を行っているが、それでも監視がなあなあになることがある。海外で略式で行われた総和など、ほぼ意味がないと考えているだろう。

中央党によって行われる総和は、駐在期間中の本人の生活、目撃したこと、同僚など周囲の人物の動向などを報告させられる形式で行われ、非常に厳しいものだ。だが今回は、普段以上に厳しく思想闘争会議の様相を呈しているという。つまり、自己批判をした上で、他人の批判をする「相互批判」を行うため、全員が全員をけちょんけちょんにけなし合うことになる。

これに先立って、国家保衛省(秘密警察)の海外反探局(スパイ摘発部署)が、国境封鎖期間中にイルクンたちを対象に行なっていた反社会主義・非社会主義逸脱行為の動向資料が中央党に提出された。これに基づき、1次帰国者のうち、問題があると見做された3人が、平壌国際空港に降り立った直後に、国家保衛省の車に乗せられ、連行されたという。

今後、彼らの身にどんなことが起きるかはわからないが、少なくとも「自由の国」中国に戻ることは一生ないだろう。

総和を受けさせられるのはイルクンだけではない。派遣労働者、留学生などすべての帰国者がその対象だ。ただ、帰国後5日間の休息が与えられるとのことだ。

高麗航空のCA©stephan