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株式会社ジャニーズ事務所の創業者、故ジャニー喜多川氏による性加害問題を受けて創設された外部専門家による再発防止特別チームが、本日8月29日東京都内で記者会見を開催。ジャニーズ事務所ガバナンス上の問題に関する調査結果報告書および再発防止策に関する提言書を本日29日に提出するにあたり、その内容を報道陣に説明した。

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この問題は今年3月、イギリスBBCによるドキュメンタリー「J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル」の公開に端を発し、4月に元ジャニーズJr.のカウアン・オカモト氏が日本外国特派員協会でジャニー氏による性加害を訴えたことにより各報道機関で取り上げられるようになった。5月5日にはオカモト氏とジャニーズ事務所代表取締役社長の藤島ジュリー景子氏が面談を行い、同14日にはジュリー氏がジャニー氏による性加害に関する会社としての見解と今後の対応を説明する動画を公式サイトで公開した。

その後ジャニーズ事務所は、所属経験者を対象とした心のケア相談窓口を5月31日に設置。またガバナンス上の問題点の把握と、再発防止策の策定と提言を受けるため、元検事総長の弁護士・林眞琴氏と、公益社団法人全国被害者支援ネットワーク理事で公益社団法人被害者支援都民センター理事長の精神科医・飛鳥井望氏、上智大学総合人間科学部心理学科准教授で臨床心理士の齋藤梓氏による再発防止特別チームを発足させた。

会見には林氏、飛鳥井氏、齋藤氏が出席。5月26日から本日8月29日まで被害者等23名とジャニーズ事務所関係者18名に行ったヒアリングや関係資料の精査などを経た調査の結果を、67ページにわたる報告書とあわせて発表した。この中で特別チームは調査の結果得られた事実関係として、ジャニー氏が古くは1950年代から、ジャニーズ事務所においては1970年代から2010年代半ばまで自宅や合宿所、公演先の宿泊ホテル等において多数の未成年者に対して「長期間にわたって広範に性加害を繰り返していた事実が認められた」と断定。これらにより、被害者には「さまざまな状況で被害の場面がフラッシュバックする」「被害を思い出させる人物や事物を避ける」といった典型的なトラウマ反応が見られるほか、性的不全や性依存、自己否定感などさまざまな深刻な影響が生じていることを明かした。

一連の性加害を巡るジャニーズ事務所内の認識として、実姉で副社長のメリー喜多川氏は1960年代前半にはジャニー氏の性嗜好異常(パラフィリア)を認識していたが、事務所を守るためにあえて積極的な調査をせずに隠蔽していたと考えられること、またジュリー氏は元ジャニーズJr.メンバーによる暴露本の出版や「週刊文春」による報道などを通じて疑惑を認識していたと認められるが、性加害の事実を調査するなどの積極的な対応は行っていなかったとした。また事務所としても1960年代からの週刊誌での報道、2002年以降の「週刊文春」との裁判、2022年のBBCからの取材依頼などを通じて繰り返し問題視されてきたにもかかわらず、適切な対応を取ってこなかったとした。

特別チームは、この性加害が思春期の少年に対して頻繁かつ常習的に行われた根本的原因は「ジャニー氏の個人的性癖としての性嗜好異常」であると分析。また、メリー氏がそれらを知りながらも止めることを断念し、徹底的な隠蔽を図ったこと、1970年代からは芸能界で周知の事実として知られるようになった中でも事務所側が見て見ぬふりに徹したこと、加害者と被害者の一方的な強者と弱者の関係性などが被害の拡大につながったと考察した。

またそれらの背景には創業者たる経営者による違法行為があった場合には誰もそれを止めることができないという同族経営の弊害、圧倒的に弱い立場にあるジャニーズJr.に対するずさんな管理体制、取締役会の機能不全や内部監査部門の不存在といったガバナンスの脆弱性があったとし、さらにマスメディアジャニー氏の性加害問題について沈黙し自浄能力を発揮することなく隠蔽体制を強化していったことや、性加害やセクシャルハラスメントが発生しやすいエンタテインメント業界の土壌についても言及した。

被害者へのヒアリングの際に再発防止策についても尋ねたという特別チームは、「組織として性加害が事実であることを認め、真摯に謝罪することが不可欠」とし、速やかに被害者との対話を開始してその救済に乗り出すべきであると提言。補償についての知見と経験を有する外部専門家からなる「被害者救済委員会」(仮称)の設置を求め、人権方針の策定、性加害やハラスメントに関する研修の実施なども提言した。

さらに特別チームは、ガバナンス強化に向け、ジュリー氏の代表取締役辞任を提言。代表取締役社長就任後も性加害の事実の調査等をせず、取締役としての任務を懈怠した」とし「ジュリー氏が経営トップのままでは、役職員の意識を根底から変え、再出発を図ることは、極めて困難であると私たちは考えます」としてジュリー氏の辞任を求め「これにより、ジャニーズ事務所におけるガバナンス不全の最大の原因の一つである同族経営の弊害も防止し得ることとなる」と説明した。

このほか人権方針の策定や研修の充実といった施策の責任者としてCCO(チーフコンプライアンスオフィサー)の設置やメディアとのエンゲージメント(対話)を開始し、「人権デュー・ディリジェンスを通じて相互監視する関係へと再構築する」ことなどを提言した特別チームは、ジャニーズ事務所に対し「この提言をジャニーズ事務所が積極的に受け入れて、すべてを実施・実現することによって、今回の件を契機に再出発を果たしていただきたい」と要請。「一企業として再出発するだけでなく、ジャニーズ事務所が率先してエンタテインメント業界全体を変えていくことに期待する」と報告書を結んでいる。

質疑応答で性加害に対して沈黙していたメディアへの調査の有無を尋ねられると、林氏は「ジャニー氏の性加害に対する事実の調査、再発防止策の提言を目的としており、メディアそのものの責任の評価、メディアに対する調査やヒアリングは行っていない」と回答。メディアによる報道が行われなかったことが被害の拡大につながったこと、今後メディアと“相互監視”していくことの難しさを認識しつつ「従来の考え方からかなり踏み込んで、対話をすることによって相互に人権侵害を防止していく責務がある。会社の対応も人権尊重という方向に行かなければならないし、相互に人権侵害を防止していく責務がある。そういう新しい考え方を急にできるか。しかし今こそそれをやっていくべきだ」と話した。

「被害者の中には現役で所属しているタレントも含まれるのか」という質問には、飛鳥井氏が2名へのヒアリングを行ったことを明かしつつ「現役の方のヒアリングも行いましたが、被害者には含まれておりません」と説明。また5月に行われた特別チーム設立会見では調査に要する期間が未定とされていたこと、今回の発表が先週末の日本テレビ系24時間テレビ」放送後となったことを問われると、林氏は「ジャニーズ事務所がどのような番組を抱えているかは調査機関にはまったく関係がございません」と説明。「7月いっぱいの段階で、8月には被害者として名乗り出ていただいている方へのヒアリングの目処が立ってきたので『8月末には作業を終えて提言ができるであろう』という見通しをその頃に立て、今日に至っている」と経緯を語った。

なおジャニーズ事務所の公式サイトでも今回の調査報告書を公開。「本件に関しまして、皆様に多大なるご心配とご不安をおかけしておりますことを、改めて心よりお詫び申し上げます」とし、今後は同社による記者会見を実施することを公表している。

再発防止特別チームの林眞琴氏。