北朝鮮で商いを営むのは非常に大変なことだ。国民の多くは、野菜や餅など小商いで生活費を稼いでいたが、イナゴ商人(露天商)への取り締まり強化で、商売上がったりの状態が続いている。

大口の商人とて気苦労が耐えないだろう。安全に商いを営むためには、庇護してくれる政府幹部とのコネ、そしてワイロは欠かせず、ちょっと儲かったからと派手な暮らしをしようものなら、当局に目をつけられ、全財産を奪われてしまう。

米国のヘリテージ財団が毎年発表する経済自由度指数で、世界最下位を記録し続けている北朝鮮だが、それでもうまくやって儲ける人は必ずいる。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋は、全国有数の流通の拠点、平城(ピョンソン)でブラジャーを製造して一儲けした2人の商人について伝えている。

コロナ前には、中国から輸入した生地で女性のアンダーウェアを製造し、全国の市場に卸していた2人だが、2020年1月の国境封鎖で輸入が完全に止まってしまった。豊かな暮らしをしていた人々も、封鎖が長期化するにつれ、蓄えを使い果たし、餓死する人まで現れた。

ところが2人は、コロナ前には売れずに塩漬けになっていた生地をかき集め、他の商人からも買い取り、ブラジャーを製造して販売した。北朝鮮では、中国企業からの依頼を受けて服の縫製を行う工場が多数存在したが、ブラジャーは国内製品がほとんどなく、あっても買おうとする人はいなかった。

コロナ鎖国で中国製ブラジャーがいっさい出回らなくなったところで、2人がブラジャーを作ったところ、飛ぶように売れたのだ。彼ら以外にも、服、靴などを作って売って儲けている人たちがいる。ほとんどの北朝鮮国民を飢餓においやったコロナ鎖国だが、彼らにとっては絶好のチャンスだったわけだ。

2人が製造している製品は、価格競争力も兼ね備えている。

「今後、国境が開かれれば中国からブラジャーが入ってきたとしても、値段が非常に安くなければ、彼らの作るブラジャーを買い求める人は減らないだろう」(情報筋)

起業家精神あふれる彼らのような人を大切にしてこそ、北朝鮮経済の発展があるはずだが、北朝鮮当局のやっていることは、むしろそんな芽を摘み取るようなことだ。

2019年7月に撮影された両江道恵山市の市場(デイリーNK=カン・ドンワン東亜大学教授)