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通りすがりの一般人が、たまたま遭遇した悪党に正義の鉄槌を下して懲らしめるーー。映画や漫画ならスカッとするストーリーだが、最近は現実社会でも近いことが。しかし、その反応はというと……。

「最近、痴漢や盗撮犯などを見つけて“私人逮捕”する動画を投稿するユーチューバーが増えているんです。これまでも、禁煙エリアでタバコを吸っているなどマナー違反な人を注意してトラブルになる様子を撮影した動画は多々ありましたが、それよりもさらに踏み込んだ、“犯罪者を捕まえる”ことを目的とした、いわば自警団的な活動をしている人たちです。目的自体は悪いことじゃないんですが、行き過ぎた行為も度々指摘されています」(WEBメディアライター)

こうした動画の再生回数は数十万から多いものでは100万回を超えるなど、人気のコンテンツとなっている。各テレビ局が頻繁に放送する『警察24時』シリーズの“私人版”といったところだ。しかし、要件を満たした現行犯の私人逮捕は違法ではないが、投稿されている動画には疑問の声が上がるものも多々ある。

例えば、とある動画では、「3時間以上、駅周辺を徘徊している人は問答無用で警察に引き渡します」として、具体的な犯行を見たわけでもなく、長時間駅をうろついていた男性を大勢で取り囲み「女性を見ていましたよね?」と詰め寄り、「迷惑防止条例違反だ」などと詰問した挙句、男性に「もうしません」と反省の言葉を述べさせた上で、「不審者だから」と交番まで連れていき、一部始終を動画で撮影し、それを公開している。

また、別の動画では、《盗撮の現行犯を目撃した》とのテロップが流れた後に、駅のホーム上でユーチューバー男性が逃げようとする男性を捕まえて引き倒し、羽交い締めにし、「証拠隠滅されたらこっちが困るから」と男性の携帯電話を強奪し、最終的には警察に引き渡している。

「この2つの動画は、結果としてはどちらも盗撮犯であったことが後に判明しているため、手荒な手法であっても、行為の正当性を視聴者に認めさせている部分はあるのかもしれません」(前出・ライター)

しかし、また別の動画では“言いがかり”とも言えるような内容も。

朝の通勤ラッシュで混雑したホームに並んでいた男性が、別の列の女性の後ろに並び直したことが「怪しい挙動」だとして、男性を複数人でマーク。乗車時に一瞬だけ男性の手が女性の腰に触れるのを確認したとするが、それ以降は一切の痴漢行為は確認できないまま、被害者とされる女性も不在の中、電車内で男性を取り囲み詰問するというもの。「何もしていない」と主張する男性に「被疑者なんで」と詰め寄り「次で降りますよ」と大勢で取り囲んだ状態で降車させ警察を呼ぶが、被害者もおらず解散となる。

こうした行き過ぎとも思われることもある“自警団”YouTuberの行為は法的に問題ないのだろうか。弁護士法人松本総合法律事務所代表の松本賢人弁護士は次のように話す(以下、カッコ内は全て松本弁護士)

「自警団的なユーチューバーの行動が全て誤りではなく、中には社会的意義を有するものもあるかも知れないがですが、その行動の目的が最終的には広告料収入にあり、過去の事例を見ると、閲覧者を増やすため撮影者が思慮を欠く行動に出やすい傾向はあるので、そうしたやり過ぎの活動については、法的責任が発生する場合があります。どのような責任が生じるのかは具体的な事情次第ですので個別具体の事情によります」

例えば、前述の3時間駅を徘徊していただけの男性の動画のケースの場合は次のようなことが考えられると言う。

「これは、取り囲んでの詰め寄りや詰問の評価にもよりますが、条例違反を理由に捜査機関に連れていかれかねないと畏怖させる行動との評価もありえます。そうなると強要罪としての刑事責任を負う可能性があります。またそれとは別に、肖像権、プライバシー権侵害、強要による精神的被害を理由に民事上の損害賠償義務を負うリスクがあると思います」

また、盗撮犯を駅のホームで組み倒したケースの場合、仮に盗撮した男性がYouTuber男性を刑事告訴したらどうなるのか。

「暴行罪に当たる可能性があります。盗撮男性が怪我をした場合は、傷害罪になります。私人の現行犯逮捕でも一定の行動は許される余地はありますが、といってそれは手を掴んで後ろに回して相手の動きを制するような行動等必要かつ相当な範囲で、地面に引き倒したり、まして投げ飛ばしたりすることが当然に正当化されるわけではありません。今回のその動画だけではっきり適法と断じることは困難で、むしろ刑事的には犯罪に該当する可能性が高いのではないかと思われます」

また結果として盗撮犯であったことが判明しても、YouTuber側の違法行為が“帳消し”にはなるわけではないという。

「取り囲んでの詰め寄り、詰問、交番の連行後に盗撮が判明したとしても、盗撮者が後に条例違反で刑事責任を負うのは別の話です。そのことだけでYouTuberの側が当然に刑事責任を免れるわけではありませんし、民事上の損害賠償義務が全て免責されるわけでもありません」

では、なぜ違法行為になりえる行為を動画で公開しているYouTuberたちは逮捕されたりしないのだろうか。

「その場で警察官がYouTuberを捕まえていないことからもわかる通り、犯罪に当たるかどうかと、実際に逮捕されるかには開きがあります。警察は犯罪に当たれば何でも逮捕するというわけではなく、一定の政策的考慮をしています。しかし、だからといって、全くの無罪放免という意味でもありません。例えば、あるユーチューバーがお店に迷惑をかけて実際に起訴されて有罪判決を受けた事例がありましたが、こうした起訴される犯罪に付随して過去に行ったものが犯罪として立件されたり、そうでなくても情状として斟酌されたりして、不利に働くことは実務ではよくある話です」

そして、逮捕の時は“突然”訪れるという。

「日本の警察は政策的考慮の元に捜査し逮捕する案件を判断していますが、このことを実際にやってる本人たちはそれがわかってないから、やっていいものだと思い始める。それで調子に乗ってやってるうちに、ある時いちばんひどいところを警察が犯罪として捜査し、場合によっては逮捕される。そうすると、”そういえばこういうこともやってたな”ということで余罪の捜査が始まることなどざらにあり、しっかりした犯罪になって裁判で痛い目に遭うことになりかねません。それゆえに、このような活動をするにあたっては道を踏み外さないよう細心の注意が必要だろうと思います」

過激なYouTuberたちが逮捕されていないからといって、一連の行為を真似たりすることにはリスクがあるという。

「仮に動画の収益を目的にしていたとしても、そうした自警団が必ずしも悪いわけではありません。問題はやりすぎは困るということ。警察官として教育や訓練をされてない人がやるわけだから、行き過ぎになったり、間違えることは当然出てくる。そのときどうなりますかという話です。刑事事件で起訴されて有罪になると、執行猶予がついたとしても前科がついてしまいます。最近は少しづつ変わりつつありますが、それでも日本社会は前科者には厳しいです。どんどんアクセルを踏んでいってしまった結果、裁判官の前で反省の弁を述べることになったときにはもう遅いのです」

暴走が指摘される自警団YouTuberの存在。いっぽうで、ネット上の一部では“抑止力としているだけマシ”といった声があるのも事実。まずは、痴漢や盗撮を未然に防げるような社会になることを祈るばかりだ。