止まらぬ物価高、上がらない給与……日本全体にどこか停滞感が漂いますが、そんなのどこ吹く風というような高所得のサラリーマンたち。ただ、そのすべてが万事順調というわけではなく、なかには自己破産に追い込まれる人もいるとか。みていきましょう。

40代サラリーマン「上位3%」にあたるエリート層の年収

内閣府『消費動向調査(月次)』によると、2023年7月「暮らし向きが良くなる(「良くなる」と「やや良くなる」の合計)」は4.7。対して「暮らし向きが悪くなる(「やや悪くなる」と「悪くなる」の合計)」は52と、半数以上にのぼりました。昨今の値上げに次ぐ値上げで生活は苦しくなるばかり……そんな人たちが国民の半数以上にのぼるということでしょう。

また「収入の増え方」については、「良くなる」が6.3、「変わらない」が55.2、「悪くなる」が38.5。賃上げのニュースをよく耳にしましたが、私たちの生活を良くなるほどの結果には至っていないのでしょう。暮らし向き、収入の増え方、どちらをみても、明るい未来を見据えることはできません。

――給料アップで喜んでいるのは、一部のエリート層だけだろ

そんな声も聞こえてきます。厚生労働省令和4年賃金構造基本統計調査』で月収の分布をみていくと、たとえば40代前半・大卒サラリーマン、会社人としても重要なポストにつく人も出てくる年代の月収、その中央値は37万9,400万円。平均して3.5ヵ月分の賞与を得ていることからすると、年収は600万円にいま一歩届かず、588万円程度。これが大卒40代前半のサラリーマンのちょうど真ん中にいる人たちです。

そして60万5,100円、年収で940万円弱になると上位10%。さらに月収80万円、年収1,200万円を超えると上位3%に入り、いよいよ限られたエリート層となります。

大学卒ということだけでも、学歴でふるいにかけられて残った人たちですが、なかでも上位3%にもなると、ほんのひと握り。ここまでくると、暮らし向きとか収入の増え方とか、いちいち気にしないレベルかもしれません。

自己破産の理由「低所得」が6割だが…高所得でも破産に陥る可能性

月収80万円、年収1,200万円を超える40代エリート総務省『家計調査 家計収支編』(2022年平均)で、この年収帯の家計収支をみると以下の通り。住居費は持ち家や賃貸含めた平均値なので低めですが、この年代の住宅ローン返済世帯に限ると、平均月8万7,000円ほどの返済負担を抱えています。一方で高所得世帯の貯蓄は平均2,000万円を超え、平均的な家庭と比べると余裕のある暮らしぶりが想像できます。

【「年収1,200万円世帯」の1ヵ月の収支】

食料:100,420円

住居:21,146

光熱・水道:25,907円

家具・家事用品:16,646円

被服及び履物:18,133円

保健医療:17,920円

交通・通信:63,473円

教育:42,296

教養娯楽:48,925円

確かにこれで「うちも色々と大変なんだよ」といわれたら、嫌味にしか聞こえません。ただそんなエリートのすべてが順風満帆かといえば、そうではないようです。

――うちの課長がとんだらしい

小耳にはさんだ噂話を呟く、30代の女性会社員。とんだというのは、出世コースの先頭を走る40代の課長だといいます。課長の同期から話を聞いたところによると、どうも自己破産に追い込まれた、とのこと。

借金を自分の力ではどうすることもできなかったとき、ひとつの選択肢となるのが「自己破産」。2022年の「破産件数」は7万0,602件(新受件数)で、そのうち「自己破産」は6万4,833件でした。

日本弁護士連合会『2020年 破産事件及び個人再生事件記録調査』によると、自己破産理由の1位は「生活苦・低所得」で61.69%。「経済的に苦しい→借金が膨れ上がる→自己破産」というケースが6割を占めます。

【「自己破産理由」トップ5※複数回答】

1位「生活苦・低所得」61.69%

2位「病気・医療費」23.31%

3位「負債の返済(保証以外)」20.48%

4位「失業・転職」17.58%

5位「事業資金」16.13%

一方で、収入とは関係のない破産理由も。たとえば「教育資金」9.84%、「住宅購入」7.26%。

――子どもを全員私立に通わせているが家計が火の車

――ちょっと無理して高級マンションを買ったが返済が苦しい

そんな見栄などから、身の丈以上の支出が恒常化し破綻する高収入世帯も珍しくありません。また「浪費・遊興費」11.37%、「ギャンブル」7.18%と、「あればあるほど使ってしまう」という人たちも。これらは、度が過ぎると治療が必要になるもの。高収入の人手も十分に考えられる破産理由です。もちろん、このようなケースは珍しく、実際に高所得で自己破産に至る人はかなりの少数派ですが、余裕しゃくしゃくで胡坐をかいていられるほどではないようです。

ちなみに呟きで登場した課長は、会社に内緒に飲食業を開業し、資金繰りがうまくいかずに自己破産に至ったのだとか。お金がなければ会社に内緒で店を出すこともないので、高収入エリートらしい破産理由といえそうです。

自己破産…給与は差し押さえの対象か?

自己破産には、手続き開始と同時に破産手続が廃止になる「同時廃止事件」、破産管財人による破産手続が実施される「管財事件」、弁護士に依頼した場合に利用できる、通常より費用が安く収まる管財事件である「少額管財事件」の3つがあります。

破産手続は、裁判所に選任された破産管財人が破産者の財産調査を行い、必要に応じて財産を現金化し、債権者に分配する手続き。一般的に破産者が現金化できるほどの財産を所有していない場合は同時廃止事件、価値の高い資産を持っている場合は「管財事件」が実施されます。

自己破産は、財産の換価処分を前提とした手続きですが、保有財産をすべて失うわけではありません。しかし自動車やマイホーム、20万円以上の財産等は差押えの対象になる可能性が高いもの。平均2,000万円を超えるとされる、高収入世帯の預貯金も差し押さえの対象です。ほかにもブラックリストにのったり、郵便物が破産管財人に転送されたりするなど、自己破産にはデメリットがあります。しかし「借金が全額免除」となるのは大きなメリットだといえるでしょう。

「給与」も差し押さえの対象となるのかは気になるところですが、原則、給与は差し押さえの対象外。しかし破産手続き開始時点で受け取る予定の給与(給与債権)は、その一部が差し押さえの対象となります。ただ全額ではなく、上限33万円で給与債権の4分の3は手元に残すことができます。また給与債権については、実務上は差し押さえらることはほとんどないといいます。

しかし給与口座に振り込まれる貯まった給料は預貯金として差し押さえの対象となり、99万円を超える財産は差し押さえの対象になります。一方で破産手続き開始後の財産は差し押さえの対象外。自由に使っても問題ありません。しかしこのことが「高所得者の自己破産逃れ」と批判の対象になることがあります。

(写真はイメージです/PIXTA)