ジャニーズ事務所

ジャニーズ事務所の創業者、ジャニー喜多川氏(故人)の性加害問題がBBCのドキュメンタリーを通じ報じられ、元ジャニーズJr.を中心としたこれまでの被害者が告発し、社会問題化した。この度、外部の特別チームによる報告書が発表され、記者会見が行われた。

記者会見の模様についてはすでに報道された通りだが、各紙の報道の温度差、切り口などからこの問題の根深さが明らかになった。


■朝日新聞が大々的に報道

8月30日付朝刊において、全国紙でもっともページ数、文字数を割いたのは朝日新聞である。一面トップ記事に据えた上に、2面、さらには社会面で報じている。論説委員・編集委員などが加わり、多くの記者がこの問題を取り上げている。

200回以上被害を受けたという元ジャニーズJr.の大島幸広氏のコメントが写真入りで紹介されているほか、調査のきっかけの一つとなったBBCによるドキュメンタリー番組「J−POPの捕食者 秘められたスキャンダル」の制作を担当したモビーン・アザー記者の「虐待のサバイバー(生存者)たちに正義をもたらす動きのなか、正しい方向に進むための重要な一歩だと感じている」「サバイバーたちが勇気をもって声をあげたからだ」「この虐待は単に喜多川氏の犯罪というだけでなく、(日本の)不処罰文化をめぐる問題でもある」(原文ママ)というコメントを紹介し、被害者への補償、ジャニーズ事務所の抜本的変化、さらには社会の変化を強調した。

芸能界に詳しいジャーナリスト、松谷創一郎氏の「事務所が設立した特別チームが、ここまで踏み込んだ言及をするという姿勢に驚いた」「ただ退所したタレントを干すなど、共演者の起用をめぐるジャニーズとメディアの共犯関係への言及がないことは残念だ」というコメントを有識者の声として紹介している。


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■踏み込んだ批判を行う読売・産経

朝日新聞以外の全国紙では、毎日新聞も1面トップ記事で取り上げており、2面でも紹介している。日経は予想どおり、社会面で扱っただけだった。人権問題を熱心に報じてきた東京新聞は意外にも社会面のみで、小さな扱いだった。

ページ数では朝日に劣るものの踏み込んだ批判を行っていたのは、読売新聞産経新聞だった。読売新聞はハラスメント問題に取り組む小野山静氏(弁護士)、メディア研究者の影山貴彦氏(同志社女子教授)を有識者コメント欄に起用した。

小野山氏は喜多川氏個人の問題としてではなく、事務所による隠避が被害を招いた点、強者・弱者という一方的な権力構造が被害の潜在かを招いた点などに報告書は触れていると言及し、人権が尊重される世の中になるための第一歩になる報告書として評価した。

一方で、手厳しいのが影山氏だ。優良可でギリギリの「可」と断じ、組織全体の罪を指摘。屋号変更、解散などを提言した。非常に手厳しい指摘だといえる。


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■「芸能界の歴史的転換点」

産経新聞は企業統治に詳しい大和総研の鈴木裕主席研究員、アイドル評論家の中森明夫氏のコメントを紹介している。

鈴木氏は藤島一人株主体制の問題を指摘。経営陣の刷新だけでガバナンスの改善は期待できないとした。中森明夫氏は、日本芸能界の歴史的転換点と評価し、テレビ局などのメディアの責任、未熟な若者を育てるという日本のアイドル文化に潜む問題などを指摘した。

これまでの芸能界、ジャニーズ事務所並みかすると「踏み込んだ」内容なのかもしれないが、影山氏、鈴木氏のような文字どおり「踏み込んだ」批判も実に有益だ。報道を読み比べるだけでも、問題の根深さがわかる一方で、芸能界、メディアのズブズブ体質が明らかになる。

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■問題浄化に必要な外部の力

報告書や、各種報道で触れられた、企業統治、人権デュー・デリジェンスという概念はこの問題を深掘りする上で重要な概念だ。鈴木氏が指摘するように、単に同族経営、ワンマン経営という話ではなく、株主構成という点は大きな論点だ。

藤島ジュリー景子社長の辞任について報告書は触れているが、完全に浄化させるために、経営陣の刷新だけでなく、他のエンタメ企業、メディア企業などによるM&Aの可能性がないわけではない。ジャニーズ事務所の問題を浄化させる上でも外部の力は必要だ。

一方、同社は魅力的なコンテンツの宝庫でもあり、争奪戦が展開される可能性がなくはない。


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■芸能界やメディアの反応は…

また、経済メディアでよく報じられる人権デュー・デリジェンスという概念から、大きな変化が起こる可能性もある。人権デュー・デリジェンスでは、取引先に違法労働行為がないかなどが論点となる。

たとえば、児童労働や、従業員への虐待などが行われている下請け工場などと取引してはいけない。ミャンマーなどのように軍事政権が支配する国家やそれに賛同する企業との取引も問題となってきたのは周知の通りだ。

今回の報告書をたとえば、Netflix、Amazonなどの外資系プラットフォーマーが重大な人権問題として認識した場合、ジャニーズ事務所の浄化が明確にならない場合に、最悪の場合は配信停止になるシナリオもあり得る。たとえば、紅白歌合戦のような国民的番組や、大手企業のCMなどへの出演も、厳しい視点でみられるだろう。

そもそも、24時間テレビのあとにこの報告書の発表や記者会見があること自体、忖度体質が感じられるのだが。これを機会にジャニーズ事務所、さらには芸能界、メディアがどう変化するか注目だ。


■ジャニーズなしの紅白となるか

また、全国紙の報道は常に及び腰だったと感じざるを得ない。

今回も、20年以上前から頑固に報じ続けていたのは週刊文春だった。これが海外メディアに飛び火して国内問題となるというのは、立花隆氏による田中角栄の金脈問題とほぼ同じだ。

日本のメディアの自己批判も必要だ。今年の年末は、ジャニーズなしの紅白歌合戦で、我が国の膿を全部だしてしまわないか。もちろん、タレントにも、作品にも罪はないのだが…。


■執筆者プロフィール

常見陽平

常見陽平:千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/いしかわUIターン応援団長 北海道札幌市出身 一橋大学商学部卒業、同大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)


リクルートバンダイ、ベンチャー企業、フリーランス活動を経て2015年より千葉商科大学国際教養学部専任講師に就任。2020年4月より准教授。専攻は労働社会学。大学生の就職活動、労使関係、労働問題を中心に、執筆・講演など幅広く活動中。


平成29年参議院国民生活・経済に関する調査会参考人、平成30年参議院経済産業委員会参考人、厚生労働省「多様な選考・採用機会の拡大に向けた検討会」参考人、「今後の若年者雇用に関する研究会」委員、第56回関西財界セミナー問題提起者などを務め、政策に関する提言も行っている。


『僕たちは育児のモヤモヤをもっと語っていいと思う』(自由国民社)、『社畜上等!』(晶文社)『「働き方改革」の不都合な真実』(おおたとしまさ氏との共著 イースト・プレス)『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社新書)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など著書多数。

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(文/常見陽平

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