農村部と都市部での経済格差が問題となっていた中国ですが、2011年から徐々に格差が縮小しています。また、特に産業化が進んでいる東部沿海地域と内陸地域とのあいだの格差にも変化が生じているようです。本記事では、株式会社伊藤忠総研・主任研究員の趙瑋琳氏の著書『2030年中国ビジネスの未来地図』より、中国国内における地域間格差の現状をデータから解説します。

都市部と農村部の格差は縮小傾向に

中国の経済発展のアンバランスの結果、都市部と農村部の格差が拡大し、二元化構造が形成されました。2002年には、都市部と農村部の一人当たり可処分所得の開きが初めて3倍を超え、都市部と農村部の経済格差問題が浮き彫りになります。

翌年、2003年10月に開かれた「三中全会(中国共産党第16期中央委員会第3回全体会議)」では、都市部と農村部の発展のバランスを図ろうと、都市部と農村部の一体化改革が打ち出されます。

その後2006年に、1958年から実施された農業税を廃止することになり、農民(農業戸籍者で農業を仕事にしている人)の負担が減ることになりました。そのほかにも農作業の効率化などが進められ、都市部と農村部の収入格差が2011年から縮小する傾向に変わったのです(図表1)。

都市部と農村部の「社会保障制度・格差」はいまだ喫緊の課題

しかし、都市部と農村部には経済格差だけでなく、社会保障制度の格差も存在しています。農村部の社会保障制度は十分に整備されておらず、保障水準も低い状況がありました。都市部・農村部の一体化改革が推進されるなか、喫緊の課題となっているのが、農村部における社会保障の強化です。

2003年から「新型農村合作医療制度(新農合)」が一部の地域で試験的に導入され、2008年に全国に広げられました。「互助と共済」を基本とした制度設計で、農民の個人拠出、中央と地方政府の財政支援が財源となります。また、2009年から「新型農村年金保険制度(新農保)」も実施されました。

ただし、制度が整備されたとはいえ、今後は地域間の個人負担・給付格差の是正や、都市化の進行に伴う戸籍の変更と都市部の社会保障への組み入れ問題の解決など、さらなる改善が求められています。

収入と社会保障以外に、都市部と農村部における主要耐久消費財の世帯所有状況も見比べてみましょう(図表2)。

2001年と比べると、2021年には家電製品や車、携帯電話などにおける開きが明らかに縮小しています。とりわけ、農村部における携帯電話の普及ぶりが突出しており、100世帯における所有台数は都市部よりも多くなっています。これは農村部のデジタル化進展を可能にする重要な武器と言っても良いでしょう。

沿海地域と内陸地域とのあいだの格差

都市群とは別に、中国国家統計局が地域別のデータを発表するときに用いられる地域分類があります。それが東部、中部、西部、東北部という4つの地域分類で、中国の31の省・直轄市・自治区が含まれています(図表3)。東部は一般に沿海地域を指し、中部と西部は内陸地域とも呼ばれています。

「改革・開放」以降、その政策の恩恵を最も受けやすい東部沿海地域が目覚ましい発展を遂げています。しかし一方では、沿海地域の高成長と対照的に、中部や西部などの内陸地域が後れをとっていることがよく指摘されています。これが中国における格差問題の1つである地域格差の由来です。

地域間の「雁行型発展」の実現...2030年代は内陸地域に期待

中国は地域格差問題の解決を念頭に、不均衡な地域発展をバランスのとれた地域発展戦略へシフトしようとしてきました。2000年代に入ってから、中国政府はまず「西部大開発」計画を打ち出して、インフラ建設をはじめとする環境の整備や人材育成などに注力し始めます。

その後、2003年には、東北三省の振興による経済の活性化を図る「東北振興」戦略を、2006年には中部地域の開発と勃興を目指す「中部崛起」計画を明らかにしました。中部地域は、中国における交通の要衝という地理的優位性を活かした生産拠点や物流拠点としての発展が期待されました。

ここでは、これら地域発展戦略に対する評価はしません。それよりも特筆したいのは、地域発展戦略のもと、道路や空港、高速鉄道などのインフラ整備とともに、沿海地域から内陸へ産業の移転が進んでいることです。

東アジアの経済発展プロセスを説明するとき、よく「雁行型発展」と表現されます。第二次世界大戦以降の高度成長を遂げた日本から始まり、東アジア諸国が次々と発展していく様が空を飛ぶ雁の一群に似ていることから、このように呼ばれるようになりました。

中国国内の状況も同様です。沿海地域は、経済発展に伴って人件費の上昇や汚染問題、工業用地の限界などの課題を抱えていました。その課題解決のため、製造業を中心とする産業は他国ではなく、広い土地と豊富な安い労働力を擁する内陸地域へ移動し、その受け皿となった内陸地域の経済発展が進みます。

こうして先行している東部沿海地域の経済発展がほかの地域に広がっていきました。産業の拠点の移り変わりと人の移動で中国国内でも地域間の「雁行型発展」が実現しているのです。

「西部大開発」や「東北振興」、「中部崛起」のような地域発展戦略が発表されてから十数年の歳月が経ち、伸長した地域と萎縮した地域が明暗を分けたものの、沿海地域と内陸地域との地域格差が以前より縮小しているのが現状です(図表4)。

地域ごとに、GDPや人口、貿易総額などの経済指標における全国に占める割合を見ると、東部が低下し、中部と西部が上昇しています(図表中の下線部参照)。しかし一方では、東北部の衰退ぶりは一目瞭然です。GDPや工業企業利益はわずかながら増加していますが、人口減少(流出)と小売総額の減少は特に深刻です。

2000年代初期のデータと比較したほうが変化をより鮮明に映すと思われますが、2016年と2021年を比較するのには理由があります。それぞれ「第13次5ヵ年計画(2016-2020年)」と「第14次5ヵ年計画(2021-2025年)」の最初の年であり、経済が減速した直近5年間の変化を如実に表すと同時に、これからのトレンドを測るデータとなるからです。

要するに、内陸地域は今後、さらなる成長の可能性を秘めており、2030年代の中国ビジネスの中心になると言っても過言ではありません。

趙 瑋琳

株式会社伊藤忠総研 産業調査センター

主任研究員

(※写真はイメージです/PIXTA)