米半導体大手エヌビディア(Nvidia)がこのほど発表した2023年5~7月期の決算は、純利益が前年同期比9.4倍の61億8800万ドル(約9000億円)となり、過去最高を更新した。生成AI(人工知能)への関心の高まりが、予想以上の速さで事業を成長させているという。

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売上高2倍 8~10月も好調見通し、市場予測上回る

 同四半期の売上高は同2倍の135億700万ドル(約1兆9600億円)で、こちらも過去最高を更新した。同社が手がける画像処理半導体(GPU)は、米オープンAIの「Chat(チャット)GPT」のほか、米グーグルや米マイクロソフトなどが開発する同様の言語生成システムなど、多くの人気AIツールの計算機能を担っている。

 同社は過去10年以上にわたりAI半導体とソフトウエアの開発に投資をしており、この分野で同社に匹敵する競合他社はないと、米ウォール・ストリート・ジャーナルは報じている

 23年5~7月期は、売上高、1株利益ともに市場予測を上回った。エヌビディアは23年8~10月期の売上高について、約160億ドル(約2兆3200億円)を見込んでおり、こちらも市場予測の35億ドル(約5100億円)を上回った。ロイター通信によると、エヌビディアの株価は決算発表日(8月23日)の米株式市場の時間外取引で一時終値から9.6%上昇し、過去最高値を付けた。

 AI向けの半導体を含むデータセンター部門の23年5~7月期における売上高は、前年同期比2.7倍の約103億2000万ドル(約1兆5000億円)だった。一方、かつて主力だったゲーム部門の売上高は同22%増の約24億9000万ドル(約3600億円)だった。

時価総額1兆ドル超え

 エヌビディアのジェンスン・ファンCEO(最高経営責任者)は決算説明会で、「生成AIの導入競争が始まっている」と述べた。同氏は「世界には1兆ドル相当のデータセンターがあり、それらはアクセラレーテッドコンピューティングと生成AIへの移行過程にある」とも述べた。

 これに先立つ23年5月24日、エヌビディアは5~7月期の売上高が市場予想の約40億ドルを大きく上回る110億ドル(約1兆6000億円)前後になるとの見通しを発表した。それ以降同社の株価は上昇し、5月30日に時価総額が1兆ドル(約145兆1800億円)に達した。これは、米アップル、米マイクロソフト、米アルファベットグーグル持ち株会社)、米アマゾン・ドット・コムに次ぐ規模だ(独スタティスタのインフォグラフィックス)。エヌビディアの株価は年初の3倍となり、8月23日時点の時価総額は1兆1600億ドルを超えた。

エヌビディアの課題とは

 ただ、ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、エヌビディアには課題が残っているという。AI半導体への過剰な需要によって、同社の供給能力が逼迫(ひっぱく)状態にあるという。エヌビディアは半導体設計に特化し、製造は、半導体受託生産世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)などに委託している。もしTSMCが生産体制を十分に拡大できなければ、エヌビディアの業績に影響が及ぶことになる。

 米調査会社のサードブリッジ・グループによれば、AI半導体市場でエヌビディアは約7割のシェア(金額ベース)を持つ。こうしたなか、ライバル企業もこの分野に力を入れている。同じくGPUを手がける米アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)は高性能AI半導体でエヌビディアに対抗している。米インテルや、スタートアップ企業、クラウドコンピューティング大手など、数多くの企業がシェア獲得を狙いそれぞれの計画や製品戦略を進めている。

 エヌビディアも23年8月、CPU(中央演算処理装置)やGPU、大容量高速メモリーを組み合わせた生成AI用半導体プラットフォームを発表した

 バイデン米政権が進める対中輸出規制もエヌビディアの業績に影響を及ぼすと指摘されている。米商務省は22年10月、AI向け先端半導体の中国への輸出を原則禁じた。これは、データセンターでAI計算に広く使われているエヌビディア製「A100」などを、事実上中国などの懸念国に輸出することを禁じるものだ。

 これを受け、エヌビディアは商務省が示した規制基準を下回る性能のAI半導体「A800」を中国市場向けに製造・販売した。しかし、ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、バイデン政権は、この対中輸出規制について、適用範囲の拡大を検討中だ。これによりA800であってもライセンスを取得しなければ、輸出が禁じられる可能性がある。

 エヌビディアのコレットクレスCFO(最高財務責任者)によると、23年5~7月期の全売上高に占める中国向け半導体の割合は20~25%だった。同氏は「世界最大市場の1つである中国における、米産業界の機会が永久的に失われる恐れがある」と述べた。

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(写真:AP/アフロ)