65歳夫婦の毎月の支出は26万~27万円。会社員+専業主婦(夫)という夫婦の場合、収入が年金のみとなると毎月4万~5万円ほどの赤字が発生することになりますが、そもそも、ここで平均値として挙げている「月22万円」の年金を受け取るためには、現役時代にどれくらいの給与をもらっていればいいのでしょうか。その難易度についてもみていきます。

65歳夫婦の平均支出は月24万円程度…年金だけでは毎月約2万円の赤字

老齢厚生年金の平均受給金額は月額14万5,665円。65歳以上に限ると男性16万9,006円、女性10万9,261円。あくまで平均値にはなりますが、会社員夫婦だと月27万円程度、会社員+専業主婦(夫)だと、月22万円程度の年金を受け取れることになります(厚生労働省令和3年厚生年金保険・国民年金事業の概況』より)。

一方、年金生活を送る高齢者夫婦の家計についてみていくと、年金を含めた1ヵ月の収入は24万円ほど。年金は夫婦で22万円で、可処分所得は21万4,426円。それに対して実支出は26万8,508円で消費支出は23万6,696円。

普通の暮らしをしているだけで、収入が年金のみの場合は毎月2万円ほどの赤字(可処分所得-消費支出)が発生する…これが、高齢者夫婦の家計の平均的な姿です(総務省『家計調査 家計収支編』(2022年平均)より)。

【夫婦ともに65歳以上の無職世帯の1ヵ月の家計】

◆実収入:246,237円

そのうち公的年金:220,418円

◆実支出:268,508円

そのうち消費支出:236,696円

(内訳)

・食料:67,776円

・住居:15,578円

・光熱・水道:22,611円

・家具・家事用品:10,371円

・被服及び履物:5,003円

保健医療:15,681円

・交通・通信:28,878円

・教育:3円

・教養娯楽:21,365

・その他の消費支出:49,430円

出所:総務省『家計調査 家計収支編』(2022年平均)

無職・高齢者夫婦を襲う「前年比3.1%」の物価上昇

年金以外にはなにも収入がない65歳夫婦の場合、普通の生活を営んでいるだけで毎月4~5万円程度の赤字が発生することになります。赤字は、貯蓄を取り崩して補填することになりますが、そもそも「月22万円程度」という平均的な年金を受け取れるのは、どんな夫婦でしょうか。会社員と専業主婦(夫)という組み合わせで考えてみます。

保険加入期間を40年、480ヵ月とすると、現時点では国民年金の老齢基礎年金を年間77万7,792円受け取れます。会社員として勤めてきた人は、この老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金を受け取れるわけですが、これを構成する「報酬比例部分」の計算に、現役時代の給与が関係してきます。

「報酬比例部分」は、2003年3月以前は①「平均標準報酬月額×7.125/1000×2003年3月以前の加入月数」、2003年4月以降は②「平均標準報酬額(標準報酬月額+標準賞与額)×5.481/1000×2003年4月以降の加入月数」によって計算することになりますから、「高い給与で長期間働く」ことが、受け取れる年金額を増やす方法です。

この計算式に当てはめると、会社員の標準報酬月額が35~37万円、年収にして520万~550万円程度であれば、65歳以降に夫婦で21~22万円の年金を受け取れることになります。

ただ、国税庁令和3年 民間給与実態統計調査』で給与所得者の年間給与額別の構成比をみてみると、男性の55%、女性の87%が500万円未満。保険料払い込む全期間において平均年収520万円以上をクリアするのは、なかなかハードルが高いということがわかります。

受け取れる年金額が22万円に届かない可能性が高い、会社員+専業主婦(夫)という老夫婦に追い打ちをかけるのが、直近の物価上昇です。総務省が8月に公表したところによると、23年7月の消費者物価は前年比3.1%増となりました。生鮮食品を除く「食品」は、同9.2%の上昇となっており、家計を直撃しています。

上でみた通り、65歳以上・無職の夫婦の1ヵ月の生活費は、平均23万~24円程度。政府が目標としている前年比2%の物価上昇が続いたとすると、単純計算、5年後には25.4万円、10年後には28.0万円になります。年金受給が始まったときに23万円程度だった生活費が、70歳の時点で月2万円ほど、75歳の時点で月5万円ほど上乗せされることになります。

少子高齢化が急速に進み、平均賃金が横ばいを続けている現状を鑑みると、年金の増額を期待するのは現実的ではないかもしれません。できることは、可能な限りの「節約生活」を送ることといえそうです。足りない分の生活費は貯蓄を取り崩して賄うことになりますが、預金残高が急速に減っていく様子をみるのは、大変なストレスになるはずです。

現役世帯が老後このような状況に陥らないためには、「積み立て×複利」で時間を味方につけた資産形成を行う必要があるでしょう。また、年金生活突入までの時間が限られている50代~60代前半の世代は、「自家用車を手放す」「固定電話を解約する」など、日々の生活にかかる固定費を削減するための工夫を行うことが重要です。

(※写真はイメージです/PIXTA)