イ・ビョンホン×パク・ソジュン、トップスター2人の共演で話題の映画『コンクリートユートピア』(2024年1月5日日本公開)が8月9日に韓国で公開され、わずか公開16日間で観客数300万人を突破した。公開前の7月31日ソウルロッテシネマワールドタワーで開かれた試写会後の会見には、オム・テファ監督と主演のイ・ビョンホン、パク・ソジュン、パク・ボヨンが登壇し、暑い夏に極寒のシーンを撮影したエピソードなど、撮影の裏話を披露した。

【写真を観る】酷暑での撮影を振り返るイ・ビョンホン、パク・ソジュン、パク・ボヨンが笑顔を見せる!

■廃墟と化したソウルで唯一残ったアパートを舞台にした『コンクリートユートピア

コンクリートユートピア』はウェブトゥーン「愉快なイジメ(原題:유쾌한 왕따)」の第2部に当たる「愉快な隣人」が原作。大地震が起こり、廃墟となったソウルで唯一残った「ファングンアパート」が舞台だ。極寒のソウルで、寒さと飢えをしのごうと集まってくる人々と、自分たちの住居と食料を守りたいアパートの住民たちとの対立が深まっていく。

会見に登壇したキャスト3人が演じるのはいずれもアパートの住民だ。ヨンタク(イ・ビョンホン)は住民代表となってカリスマを発揮して住民をまとめ、住民以外をアパートから追い出そうとする。ミンソン(パク・ソジュン)は心の葛藤を感じながらも家族のためと割り切り、ヨンタクに従う。一方、ミンソンの妻ミョンファ(パク・ボヨン)は看護師でもあり、住民でない人たちとも共存したい気持ちが強い。

ヨンタクが住民代表として選ばれたのは、アパートの一室から火が出た時に率先して消火活動に当たったからだった。自分の部屋でもないのに危険も顧みずに必死で火を消す姿に住民たちは感動する。推されて住民代表となり、最初は戸惑っていたヨンタクだが、だんだん権力者のように振舞うようになっていく。イ・ビョンホン自身は、実はヨンタクとは性格的に正反対だと言う。「優柔不断で、物事を簡単に決められない。監督はしないのかとよく聞かれるが、監督という仕事は最初から最後まで決定の連続で、私が監督を務めたら大変なことになる」と笑っていた。

ヨンタクとは対照的に極限状態でも良心を捨てず、献身的に生きようとするミョンファについて、パク・ボヨンは「私がこんな状況に置かれたらミョンファみたいな心を維持できるだろうか、できたらいいなと思った」と話していた。

韓国でアパートと言うと、日本のマンションに相当する。日本では憧れのマイホームと言えば一戸建てのイメージが強いが、韓国ではアパートを買うのが夢という人が多い。特にソウルの不動産が高騰し、最近ではサラリーマンが一生働いても買えないほどだ。住民たちが団結して自分たちのアパートを守ろうとするのには、そういう背景もある。

試写会前のあいさつでパク・ソジュンは「いまみたいな暑い夏に撮影した」と話していたが、映画を観ると、出演者たちはコートを着込み、吐く息も白かった。オム監督は「白い息はCGで、しゃべるタイミングと合わせるのがなかなか難しかった」と打ち明けた。

パク・ソジュンは「現場が暑すぎて、最初は無理じゃないかと思ったが、人間は環境に適応するもので、だんだん耐えられるようになり、演技に集中できるようになっていった」と振り返った。パク・ボヨンは「暑いなかでの撮影だったからか、同志愛のようなものを感じた」と言い、共に苦労したことで絆が深まった面もあったようだ。イ・ビョンホンも「分厚い服を着込んで夏に撮影というのは大変だったけど、意外にスタッフも出演者も和気あいあい、楽しい雰囲気だった」と話していた。

■豪華出演陣に監督「一生分の運を使い果たした」

オム監督はカン・ドンウォン主演の『隠された時間』(2016)をはじめ作品数は少なくないが、今回ほどの大作を手がけるのは初めてだ。世界の注目を集めるトップスターの共演はいかに実現したのか。オム監督が最初にオファーを出したイ・ビョンホンは「どこの国でも流行りの映画というのがあるが、本当に久しぶりに新鮮な素材の映画に巡り合ってとてもうれしく、非常に新しいと思いました。読んだ瞬間に出演を決めたほどストーリーがすばらしかった」と、シナリオを絶賛。イ・ビョンホンに続き、パク・ソジュン、パク・ボヨンが自ら出演を申し出て、オム監督は「一生分の運を使い果たしたかと思うぐらい、幸せでした」と振り返る。

イ・ビョンホンら3人だけでなく、アパートの住民たちは演技派俳優たちがそれぞれ個性を発揮し、複雑な人間模様が描かれた。オム監督は「俳優たちが自分たちで状況を作り出していってくれた」と言う。

最も記憶に残る場面について尋ねられると、パク・ボヨンとイ・ビョンホンは同じ場面を挙げた。アパートの住民たちがパーティを開く場面だ。アパートの外では寒さや飢えで死ぬ人たちもいるなかで、食べ物を持ち寄り、歌って踊る住民たち。パク・ボヨンは「一歩離れてみると奇怪な風景で、ファングンアパートの状況を第三者の立場から見せるような場面」と語った。

イ・ビョンホンはシナリオを読んだ時からこの場面が非常に重要だと思い、準備に力を入れたという。特に歌いながら踊ることに自信がなく、「一番おじさんっぽいダンスを教えて」と後輩に頼んで練習した。「笑いと緊張感を繰り返すのがこの映画の魅力だと思う。笑わせながら、一方でダークな面も見せる場面」と、イ・ビョンホン。パーティーで騒ぎながら、ヨンタクの暗い過去が明らかになっていく。

一方、パク・ソジュンが挙げたのは黄桃の缶詰を食べる場面。食料の争奪戦が繰り広げられるなか、なんとか黄桃の缶詰を手に入れたミンソンはミョンファとこっそり2人で食べようとする。お腹を減らした親子がそばにいて、ミョンファは分け合いたいと思うが、ミンソンに止められる。パク・ソジュンは「あのシーンがこの映画で一番甘いシーンだったと思う」と語った。

パク・ソジュンとパク・ボヨンの相性については、パク・ボヨンが「初日に小道具として使うためのウェディング写真やデートの写真を撮ったのもあって、それだけ早く近づけた」と言うと、パク・ソジュンは「僕は最初から通じ合ってると感じました」と言い切り、会場を沸かせた。2人はこの日ピンクの衣装を身に着けていたが、偶然だったようだ。彼らを見てイ・ビョンホンも慌ててピンクの物を探したが見つからなかったという。

映画の中ではどんどん食料がなくなり、殺伐とした雰囲気になっていくが、現場は豊富な食料に恵まれていたようだ。イ・ビョンホンは「(出演者が)人気俳優たちなので、コーヒー車や軽食車がよく来て、多い日は3台も来た。監督は真っ先に列に並ぶくらい喜んでいた」と振り返った。韓国では撮影現場にコーヒーや軽食の差し入れが車で来る。ファンたちがお金を出し合って応援する俳優の写真で飾った車を贈り、移動式販売のような形で無料で振舞われるというものだ。極寒でなく酷暑、食料不足でなくおいしい物であふれた真逆の現場だったらしい。

日本公開が冬だと知ったイ・ビョンホンは「直接ファンの皆さんと会って対話できる機会があればうれしい」とコメント。最後にパク・ソジュンは『コンクリートユートピア』を必ず映画館で見てほしいと強調した。「家でテレビで見るのとは違い、映画館の音響だからこそ作品の世界に入り込める」。イ・ビョンホンは「私は若干違う文化圏の映画を見るのが好きなんですが、海外の皆さんがそういうおもしろさを味わってくれたらうれしい」と話していた。

取材・文/成川 彩

来日希望を語ったイ・ビョンホンとパク・ソジュン/[c]2023 LOTTE ENTERTAINMENT & CLIMAX STUDIO, INC. ALL RIGHTS RESERVED.