今年31回目の開催となったAnime Expo(通称AX)は、毎年7月4日の独立記念日の連休に米ロサンゼルスで開催される、アニメや漫画のファンイベント。今年も前売りチケットが完売し、有料入場者数16万人超、4日間の通算で38万人超を記録した。毎年規模を拡大し行われるAXだが、ここ数年の北米におけるアニメ人気拡大を受け、ファンイベントも過渡期を迎えている。

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ロサンゼルスのダウンタウンにあるコンベンション・センターで行われるこのイベントのオリジンは、1991年カリフォルニア大学バークレー校のアニメクラブが開催したAnime Con。以降30年の年月をかけ、北米最大の日本ポップカルチャーの祭典に育っていった。運営は非営利団体の日本アニメーション振興会(SPJA)で、AXのほかにも若い参加者にターゲットを絞ったAnime Expo Chibiやオンライン版も行っている。日本のエンターテイメント、音楽、ファッション、ビデオゲームなど様々なジャンルの祭典には、アメリカ全土や日本、世界各国からファンが集う一大イベントとなり、今年は東宝アニメーションNetflixワーナー・ブラザーズジャパンなどが自社の最新作品の紹介を行うプレゼンテーションを開催。またYOSHIKI天野喜孝の特別トークセッションなども行われ、幅広い参加者を取り込むコンベンションとして新たなステージに向かっていることがわかる。アニメスタジオやプラットフォームのプレゼンテーションが増え、毎年7月中旬にサンディエゴで行われているComic Conに追いつきそうな勢いを感じる。

AX初日の7月1日に行われたNetflixのプレゼンテーションには「ポケモンコンシェルジュ」(2023年12月配信予定)から女優ののん、「ゾン100~ゾンビになるまでにしたい100のこと~」(8月3日配信予定)からは主演の赤楚衛二と原作の作画担当の高田康太郎が来場し、AXのファンに新映像をお披露目した。手塚治虫の「鉄腕アトム」の1エピソードをもとに浦沢直樹がリメイクした「PLUTO」(10月26日配信予定)のアニメ化からは、エグゼクティブ・プロデューサーでアニメスタジオMAPPAを率いる丸山正雄が登壇。ティザー予告編が公開されると、コミックのファンもMAPPA作品のファンも大きな歓声をあげて喜びを表現していた。

プレゼンテーションのトリを飾ったのは実写ドラマシリーズ「ONE PIECE」(8/31配信予定)の日本語版吹き替え声優発表。実写版ルフィ役のイニャキ・ゴドイがアニメ版の声優である田中真弓と対面するビデオが公開された。毎年会場には「ONE PIECE」のコスプレをしたファンが多く、なかでも麦わら帽子を被ったルフィのコスプレは“定番”。コンベンション。センター入口にも実写版ONE PIECE」の特大バナーが飾られ、まさにAXの顔となっていた。

呪術廻戦」や「鬼滅の刃」など、北米でも人気を誇る作品のプレゼンテーションも多くのファンが楽しみにしている目玉イベント。2022年に北米発のアニメプラットフォーム、Crunchyrollとアニメ配給会社Funnimationが共同配給した「Jujutsu Kaisen 0(英題)」は、2200館以上で公開し3454万ドル(約48億円)の興行成績を修めた。約7500人を収容する大ホールで行われたイベントは満席で、アニメシリーズ第二期配信開始を前に、大きな盛り上がりを見せた。

呪術廻戦」を手掛ける東宝アニメーションも初のプレゼンテーションを開催。「ゴジラの権利をすべて持つスタジオです」という紹介から「呪術廻戦」「僕のヒーローアカデミア」の新シーズン、そして「狼と香辛料」「怪獣8号」「葬送のフリーレン」といった新作の発表を行った。これだけの人気作品を揃える東宝は新会社Toho Globalを設立し、ゴジラに特化したサイトとアニメグッズのEコマースサイトを立ち上げる。世界におけるアニメ市場は拡大し続け、その多くはグッズ販売であるにも関わらず、日本以外の国で正規品を手に入れるのは非常に困難。映画やアニメシリーズのヒットとともに、マーチャンダイジングを柱の一つとするのはとても理にかなった市場展開だと言える。

一方、7月28日に全米公開される『THE FIRST SLAM DUNK』は北米プレミアを開催。入場口で日本の劇場用パンフレットと「SHOHOKU(湘北)」「SANNOH(山王工業)」のメガホンが配られ、応援上映を実施した。舞台挨拶には、英語吹き替え版で宮城リョータの声を務めたポール・カストロジュニアが登壇し、メガホンを使った応援の練習などを行った。

サプライズで、原作者で監督の井上雄彦のメッセージが流れると会場のファンも大興奮。映画の中でシュートが決まるたびに大歓声が起き、さながら試合観戦をしているような応援上映だった。

前年までのAXと変わったところでは、YOSHIKIのAX出演がある。この日、YOSHIKIのイベントの前には天野喜孝のトークが行われていて、YOSHIKIの新曲「レクイエム」のアートワークを天野が手がけるというニュースが発表された。「ファイナル・ファンタジー」シリーズなどのデザインを担当した天野は世界のアニメファンに広く知られる存在で、天野がAXに参加すると聞いたYOSHIKIが「じゃあ僕も」と出席を決めたのだと言う。トークの中で「レクイエム」を作曲するにいたった亡き母への思いや、今秋に控えるガーデンシアター(東京)、ロイヤルアルバート・ホール(ロンドン)、ドルビーシアター(ロサンゼルス)、カーネギーホール(ニューヨーク)を回るワールドツアーの詳細などが発表された。質疑応答コーナーではファンからセルフィーを一緒に撮ることをお願いされ快諾するシーンもあり、孤高のミュージシャンという印象が強いYOSHIKIも、ファンとの距離が近いAXを楽しんでいたようだ。

AXに訪れる観客の多くは思い思いのコスプレをしていて、この期間のロサンゼルスのダウンタウンはコスプレイヤーでいっぱいになる。写真撮影コーナーでは「ISEKAI(異世界)」などのテーマ別の集合がかけられ、大勢で集まって撮影大会が繰り広げられていた。累計来場者38万人という大型イベントながら、ファンのマナーが良く一貫してピースフルなイベントだということも、AXの特筆すべき点だ。30年以上続いてきたアニメ・漫画ファンのためのイベントだが、今年はスタジオやプラットフォームの参入が増え、新情報を発信する場としてAXを使う例が増えてきている。このような流れは来年以降、さらに進むと思われる。来年のAXの開催は2024年7月4日〜7日を予定している。

取材・文/平井伊都子

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